軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【挿話】騎士団長たちのセト離宮訪問

王都から真っすぐ西に進むと、大陸の端でセト海岸にぶつかる。

そのセト海岸には見渡す限りの青い海が広がっているため、夏になると多くの観光客が訪れるが、その地にはさらに、王家の所有となっているセト離宮があった。

そして、ローレンス王とサヴィス総長の母親であるイアサント王太后は、数人の聖女とともにそのセト離宮で暮らしていた。

そのため、王太后を王都に迎え入れる目的で、クェンティン、クラリッサ、ザカリーの3人の騎士団長はセト離宮を訪問していた。

より正確に言うと、少し前にセト離宮に到着した3人の騎士団長は、玄関前に佇んだまま、玄関扉を睨んでいた。

身が竦んだかのように身動きしない3人だったが、その状態を打破しようとクラリッサが口を開く。

「クェンティン、あなたが私たちの中で1番若いんだから、扉を開けて元気よく挨拶してちょうだい」

しかし、指名された形のクェンティンは、尻込みした様子で一歩後ろに下がった。

「いや、ここはまだ、オレのような若輩者の出番ではないだろう。第一印象は大事だから、騎士団長の中の重鎮が行くべきだ。つまり、ザカリーであれば間違いない」

クェンティンの言葉を聞いた騎士団長の中の重鎮は、おかしくもなさそうな笑い声を上げる。

「ははは、冗談はよせ! 女性の園であるセト離宮で、オレのような無骨者の出番があるはずもない。誰に出番があるかというと、王太后と同じ女性であるクラリッサ一択だ」

そんな風に3人で美しい譲り合いをしていると、思わぬところから声が響いた。

つまり、3人の後ろから。

「珍しいことね。王都からはるばる騎士団長が訪ねて来るなんて」

3人はびくりと体を強張らせると、慌てて振り返る。

それから、相手が誰かを認識すると、片膝を突いて頭を下げた。

「お久しぶりでございます、イアサント筆頭聖女」

数瞬前まで挨拶役を譲り合っていたことが嘘のように、ザカリーが滑らかに口を開く。

「ええ、久しぶりに懐かしい顔を見ることができて嬉しいわ。どうぞ顔を上げてちょうだい」

許可が出たため3人が顔を上げると、赤いヒヤシンスの花を抱えたイアサント王太后が佇んでいた。

その姿は相変わらず、誰の目から見ても美しかった。

王太后は白いドレスを身にまとい、腰まである赤い髪を結いもせずに、そのまま垂らしている。

そして、いつも通り片方の目はその髪の下に隠れていた。

不思議なことに、片方の目を隠すことで髪が強調され、その鮮やかな色に目が行く仕組みになっているように思われる。

そのため、『さすがイアサント王太后陛下、ご自分が一番魅力的に見える髪型を分かっているわ』と、クラリッサは心の中で称賛した。

そんなクラリッサの隣では、ザカリーが今回の訪問理由を説明し始める。

「朝早くにご訪問して申し訳ありません。国王陛下の命により、イアサント筆頭聖女をお迎えに上がりました。久方ぶりのお顔合わせとなりますので、改めてメンバーを紹介いたしますと、左から順にザカリー、クラリッサ、クェンティンとなります」

ザカリーの言葉を聞いた王太后は小さく頷くと、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「ローレンスの命だなんて、あの子も立派になったものね。元気にしているのかしら? 心まで子どもに戻って、悪戯ばかりしていないといいのだけど」

最後は茶目っ気を覗かせた様子の王太后を前に、3人は無表情を貫く。

なぜなら3人が最後に聞いた報告では、セルリアンは新人騎士のフィーアとともに道化師の格好をして、街に繰り出したとのことだったからだ。

そのため、正に王太后の懸念通りの行動だなと思ったが、わざわざ報告すべきことでもないと判断し、「敬愛すべき王でございます」とザカリーが無難な答えを返した。

すると、王太后は優しい目をして、尋ねるかのように首を傾げる。

「では、サヴィスはどうかしら? あの子は責任感が強くて、頑張り過ぎるきらいがあるから心配なのよ。働き過ぎて、体を壊していないといいのだけど」

その声には心から心配しているような響きがあったため、ザカリーは安心させるために説明を始めた。

「サヴィス総長は剛健であらせられるので、これっぽっちも健康に問題はありません。いついかなる時も、我々を正しく導いてくださいます」

「そう、それならばよかったわ。私は離れて暮らしているので、身近にいるあなた方が、あの子の力になってあげてちょうだいね」

「「「誠心誠意、お仕えさせていただきます!」」」

3人の騎士団長はそう答えると、頭を下げた。

それから、騎士団長たちは勧められるまま離宮に入ると、広間の隅に立ち、王太后が聖女たちと話をする様子を眺めていた。

王太后は5人の聖女と侍女や近衛騎士団の騎士、料理人や庭師といった大勢の者たちとともにこの離宮で暮らしているが、離宮を離れるにあたって、いくつかの指示を出している様子だった。

ちなみに、王太后の周りには、王太后専属の「赤花近衛騎士団」の騎士たちが、半ダースほど立っていた。

彼らは、淡い紫灰色に暗赤色の差し色が入った専用の騎士服を着用し、王太后を守護するためにその周りを固めている。

赤花近衛騎士団の騎士と黒竜騎士団の騎士は、まず滅多に交わることがないため、3人の騎士団長は物珍しそうに近衛騎士団の騎士たちを見やった。

しばらく観察した後、ザカリーとクラリッサは視線を目の前に固定したまま、口だけを動かして、互いにだけ聞こえるような小声でぼそぼそと会話を交わす。

「全員が見目麗しい騎士だな。顔だけでいくと、我らが黒竜騎士団の完敗だ」

「そうでもないわよ。性格が邪魔をして顔立ちを冷静に見られないだけで、シリルやデズモンドやカーティス、それから、ここにいるクェンティンだって、美形と言えば美形だわ。ザカリー、あなたも精悍な顔立ちをしているし、負けてないわよ」

「あー、確かにうちの騎士たちは個性が強すぎるから、顔まで注意が向かねぇな。そして、ここにいる近衛騎士団の騎士たちのように、大人しく突っ立っていそうな奴は一人もいねぇから、やっぱり観賞用としては完敗だと思うがな。いずれにしても、ここの騎士たちは全員が細すぎる。あれじゃあ、ろくに剣も振るえないだろ」

ザカリーの言う通り、赤花近衛騎士団の騎士たちは全員、身長は高いものの体が細かった。

騎士団長の視点でコメントすると、明らかに筋量が足りていない。

だが、この女性の園の護衛役としては、このような騎士たちが向いているのかもしれないな、と思いながら観察を続けていると、王太后が皆に向かって今後の説明を始めた。

どうやら離宮には1人の聖女だけを残し、残りの聖女たちは王太后とともに王都に向かうようだ。

聖女たちは熱心に王太后の話を聞いており、王太后は同居している聖女たちから慕われている様子だった。

騎士たちも誇らしげに王太后の話を聞いているので、明らかに心酔しているように見える。

―――黒竜騎士団の騎士団長たちが王太后に苦手意識を持っているとしても、王太后が身近な者たちから慕われ、尊敬の念を抱かれていることは間違いないようだ。

そのため、3人の騎士団長は『さすがナーヴ王国の癒しの花だな』と心の中で称賛した。

それだけでは足りず、ザカリーは低い声でぼそりと感想を漏らす。

「今代の筆頭聖女は、ものすっごく国民の人気が高いよな。間違っても傷一つ付けるわけにはいかないから、気合を入れて王都まで送り届けなければいけねぇな」

そんなザカリーを、クェンティンが真面目な口調で注意する。

「護衛対象がどのような方であれ、いついかなる時も傷一つ付けるべきではない」

クェンティンの言う通りだったため、ザカリーは素直に頷いた。

「その通りだな」

騎士団長たちが王太后を迎えにくることについては、前もって離宮に連絡が入っていたため、荷造りは既に済んでいたようだ。

そのため、それからわずか1時間後、王太后と4人の聖女、侍女たち、近衛騎士団の騎士たちは、王都に向けて出発したのだった。

そして、彼らを守護するように、3人の騎士団長を含む2ダースの黒竜騎士団の騎士たちが同行したのだった。