軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159 道化師の弟子1

サヴィス総長がご結婚されるなんて、おめでたいことこの上ない。

だからこそ、祝福する気持ちを正しく表さないといけないのではないか、と私は突然、気が付いた。

「そうだわ! もしかしたら、これは私の出番じゃないかしら!?」

ぴーんとひらめいて、腕を組んで考え込む。

そもそも、いつだって、仲間の騎士たちを楽しませる余興役は、若者に回ってくるものなのだ。

そして、私は15歳。

10年以上の経験者が配属される第一騎士団の中で、ぶっちぎりで若いのだから、私の出番に違いない。

私は少し考えを巡らせた後、ぽんと手を打ち合わせた。

そんな私を見て、ファビアンが恐る恐る質問してくる。

「フィーア、君が何を思い付いたか聞いてもいいかな?」

私は意気揚々とファビアンを仰ぎ見た。

「もちろんよ! ファビアン、私はすごくいいことを思い付いたわ! サヴィス総長がご結婚されるなんて、この上なくおめでたいことよね! そして総長のことだから、騎士団で祝いの席を設けられ、騎士たちと喜びを分かち合おうとされるわよね」

「そうだね」

「そして、祝いの席だから、総長を喜ばせる出し物がいくつか披露されるわよね」

「そうだね」

「そして、そういう出し物は、若い騎士が率先して行うべきよね。だから、私が全力でお祝いの気持ちを総長にお示ししようと思ったの!」

「……そうなんだ」

それまで納得した様子で肯定していたファビアンが、初めて戸惑った様子を見せる。

「そうよ! だから、ほら、国王面談の時に道化師が3人いたでしょう? あの3人に弟子入りしようと思い付いたの!!」

「…………それは、どうなんだろう」

ファビアンははっきりと難色を示した。

「フィーアには悪いけど、ちっともいい考えに思えないな。それどころか、絶対にやめた方がいい気持ちになってくるけど」

ファビアンの気弱な態度を見て、私は積極的に誘いかけることにする。

「まあ、私はファビアンも一緒にどうかと思っているんだけど」

すると、ファビアンはぎょっとした様子で顎を引いた。

「えっ! ああ、うん、それはもちろん、非常に光栄なお誘いだけど、ほら……サヴィス総長と入団式でお手合わせをしたのはフィーアじゃないか。だから、総長は特別君に思い入れがあるんじゃないかな。そんな君からお祝いされることで、総長の気分が盛り上がるはずだ。私が入ることで、君の立場が『複数の中の1人』になってしまい、薄まるのはもったいないよ。だから、私は今回の弟子入りを見合わせるよ!」

ファビアンは一気にそう続けると、突然用事を思い出したと言って、足早に去って行ってしまった。

その後ろ姿を、私は呆れた思いで見つめる。

まあ、ファビアンはお祝いの気持ちが不足しているようね!

あの3人は一級の道化師だから、芸を教えてもらうことができれば、今回のことだけでなく、今後の役に立つと思うんだけどな。

そう考えながら、私はにまりと笑う。

「ふっふっふ、私はそんな彼らから、仲間にならないかとスカウトされかけたのよね! つまり、私には人を楽しませる素質があるに違いないわ」

私は表情を改めると、まっすぐ国王の執務室に向かった。

―――実を言うと、国王面談から10日も経っていないにもかかわらず、セルリアンから何度も面会希望がきていた。

面倒そうなので、何かと理由を付けては断っていたのだけれど、ちょうどいい機会だわ、とご機嫌伺いを兼ねることにする。

国王の執務室前に行くと、警備をしている顔なじみの騎士たちから声を掛けられた。

「よう、フィーアじゃないか! ははっ、聞いたぞ! お前が道化師から気に入られたって話は。そのため、お前が来たら、いつだって陛下の執務室に通すようにと言われている―――道化師から!」

「ああ、国王面談で、国王陛下と道化師をものすごく楽しませたらしいじゃないか! お前、道化師に『陛下』と呼びかけたんだってな! それが最高にウィットが効いているとか何とかで、道化師がお前に傾倒したらしいな」

「あの場に警護で居合わせた騎士たちは、『フィーアは何をやっているんだ!』と、始めは呆れたらしいが、今思えば、お前は上手くやったよ!」

……ひどい。いつの間にか、よく分からないストーリーができあがっている。

私は引きつった笑みを浮かべると、通されるままに執務室に入っていった。

部屋の中にいたのは、セルリアンとドリーの2人だった。

恐らく、ロンは王にくっついて、どこかに行っているのだろう。

セルリアンは王の執務机に向かい、何事かを書きつけているところだったけれど、顔を上げて私を見ると、皮肉気な表情を浮かべる。

「おやおや、これはお忙しいフィーアじゃないか! 再三、再四、僕の呼び出しを『忙しい』の一言で断わるなんて、いい度胸をしているよね」

私は片手を口元に当てると、上品な笑い声を零す。

「ほほほ、遊び人の道化師の誘いを断って、何が悪いのかしら」

セルリアンはペンを放り投げると、呆れた様子で頬杖を突いた。

「……ほんと、そういう態度でよくも僕を『敬愛する主君』なんて呼べたよね。はあ、でも、ギリギリのタイミングだったよ。昼まで待っても君が来ないんだったら、僕専属の護衛騎士にするよう、ローレンスに言いつけようかと思っていたところだったから」

「まあ、なんて王様的なの!」

あまりの暴君的なセリフに驚きの声を上げると、その通りだと返される。

「王様だからね」

もちろん、そうだけど。

でも、セルリアンは道化師で通す、と言っていたわよね。

そのことを思い出した私は、今後も下手に権力を乱用されないようにと釘を刺しておく。

「まあ、おかしなことを言わないでちょうだい! セルリアンは道化師でしょ!」

「……フィーアは本当に優秀だな」

その口調はちっとも褒めているように思われなかったけれど、額面通りに受け取って返事をする。

「まあ、だったら、優秀な私に色々と教えてくれない?」

「……どういうこと?」

用心深そうな表情で尋ねてくるセルリアンに、私は勢い込んで頼みごとをする。

「道化師に弟子入りしたいの!!」

すると、セルリアンは鼻の頭に皺を寄せた。

「弟子入りって、謙虚だね。僕はこの間言ったよね、『フィーアがサヴィスやシリルのお気に入りの騎士でなければ、道化師にスカウトするところなのに』って。それなら、むしろ仲間にならないかって誘いたいところだけど」

「いえ、仲間になるのは荷が重いので、弟子の立場でお願いします!」

全力で辞退すると、セルリアンはちらりとドリーを見た。

すると、ドリーはにまりと笑いながら立ち上がり、隣の部屋に入っていった。

セルリアンはその姿を目の端に捉えながら、何でもないことのように言葉を紡ぐ。

「ふうん、どちらにしろ、丁度よかったよ。ドリーがフィーアのことをすごく気に入っていて、君の衣装作りに取り掛かっていたからね。あいつは仕事が早いから、もしかしたらもう、できているんじゃないかな」

そう続けるセルリアンを、私はぎょっとして見つめた。

「えっ、い、いつの間にそんな勝手なことを! まさか、私も道化師の格好をしなければいけないの!?」

道化師の格好なんて、絶対に嫌だ。

すると、セルリアンは楽しそうに目を細めた。

「実際に衣装を着てみたら、考えが変わるかもしれないよ。何たって、全ての立場から解放され、なーんの責任もなくなるんだからね。ま、いずれにしても、君の衣装は道化師っぽくはないかもしれないな。衣装全般をドリーが担当しているんだが、あいつのイメージでは、フィーアは道化師でないらしいからね」

「まあ、素晴らしい観察眼だわ!」

道化師の格好はしたくないと思っていたため、そのことを回避させてくれたドリーの洞察力の鋭さを全面的に褒め称える。

すると、隣室から戻ってきた本人が嬉しそうな声を上げた。

「まあ、褒めてもらえて嬉しいわ! 多分、あたしたちって分かり合えると思うのよね。そんなあたしが全力で作ったフィーアの衣装がこちらよ!!」

そう言うと、ドリーは手に持っていたド派手な衣装を差し出してきた。

「へ? そ、それはまさか……」

言いかけた言葉が途中で止まる。

ドリーから差し出されたのは、びらびらの赤と白のドレスだった。

可愛くはあるけれど、これは……

「んっふっふ、そう、聖女の衣装よー。フィーアの赤い髪は、聖女垂涎の代物でしょー。これで聖女の役をしないなんて、ありえないわよー。どれほど高位の聖女様ですら持つことができない鮮やかな赤い髪をしながら、その実、聖女ではないなんて、その存在自体が、最高に皮肉が効いているわよねー」