軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【挿話】第二回騎士団長秘密会議 後

その場にしんとした沈黙が落ちたため、暗くなった雰囲気を変えようと、デズモンドが努めて陽気な声を上げた。

「ああっと、そうだった! オレは公爵邸訪問の報告をしている途中だったな!」

その発言に、同じく雰囲気を変えたかったザカリーがすかさず乗っかる。

「あ、ああ、続きを聞かせてくれ!」

デズモンドは任せろとばかりに頷くと、報告の続きに戻った。

「それで、公爵邸でのフィーアは1人だけデザートを3個も食べた上に、ロイドからお土産までもらっていたぞ! ……いや、これはどうでもいい話だったか」

本当にどうでもいい話だった。

皆が白けた表情でデズモンドを見ると、彼は気を取り直すかのように咳払いをして、再び口を開いた。

「つまり、フィーアが近衛騎士団に入るかどうかの件だが……これについては、プリシラ聖女本人に確認した。プリシラ聖女曰く、聖女様以外は眼中にないとの答えだった。護衛に付く騎士がどのような髪色だろうと、気にもならないらしい」

「はー、なるほどな! 高位の聖女様らしい答えだな」

「ああ、だが、これで心配がなくなった」

騎士団長たちは納得したように頷き合うと、シリルを除く全員でカーティスを振り返った。

「よかったな、カーティス! これでフィーアとお前は近衛騎士団入り確定だ!!」

皆から祝福されたカーティスは、その言葉の意味を考えるかのようにぱちぱちと瞬きをした。

「……近衛騎士団、か」

そう呟いたカーティスの胸に、様々な思いが去来する。

1つは、筆頭聖女であれば多くの聖女と交流があるだろうから、そのような環境にこそ、本来フィー様はいるべきだろうということ。

1つは、300年前の自分も近衛騎士団の騎士であったため、非常に感傷的な思いがせり上がってきたこと。

1つは、300年前の近衛騎士団長は、彼が主の次に敬愛すべき人物であり、我が身がその立場に就くことになって初めて、その偉大さが分かるということ。

「そうだな。身の引き締まる思いがするが……役目であれば、謹んで拝命しよう」

謙虚にそう口にするカーティスを見て、デズモンドが意外そうに片方の眉を上げた。

「素直だな。お前はもっと近衛騎士団長になることに、抵抗するかと思ったが」

カーティスはついと顔を上げると、真っすぐデズモンドを見つめた。

「聖女様が持つ回復魔法の力は本当に特別だ。そのような特別な御力を持つ方々は、正しい道筋をお示しさえすれば、その御力を行使することに喜びを覚えるはずだ。今はその道筋を示せる者がいない、不幸な状態なだけだ」

そして、フィーアであれば、正しい道筋を示してくれるはずだと、カーティスは心の中で考えていた。

だからこそ、フィーアと彼自身が、筆頭聖女の近衛騎士団に配属されるのは正しいことだと。

聖女の未来について、堂々と明るい希望を語ったカーティスを見て、デズモンドは驚くとともに感心する。

「カーティス、お前はシリル以上に聖女様に夢を見るタイプだったんだな! しかも、ピュアときたもんだ。よし、お前の夢は絶対に叶わないだろうが、オレはお前を応援するぞ!!」

それから、デズモンドはシリルを振り返った。

「良かったな、シリル! お前のお仲間が見つかったぞ」

シリルは唇を歪めるように笑みの形を作ったけれど、デズモンドの発言にコメントすることはなかった。

代わりに、カウンターの上を指し示す。

「あなた方のために、特別なお酒を用意させました」

騎士団長たちが顔を向けると、カウンターの上には、色目のいいお酒が注がれた果実入りのグラスが並べてあった。

普段使わない底の浅いグラスが使用されていることに違和感を覚えたデズモンドが、訝しむようにシリルを見やる。

「この酒がどう特別なんだ」

すると、シリルは意味ありげに微笑んだ。

「昨日の会議で私は言いましたよね。魔人出現の説明と、魔人入りの箱の収納のために、騎士団長に大聖堂を訪問してもらうと。そして、そのことについて、明日……つまり、今日ですね、担当してもらう騎士団長に直接相談すると」

「「「……言ったな」」」

正しくその場面を思い出した騎士団長たちは、全員ぴんと背筋を伸ばした。

……なるほど。

今から、大聖堂行きを任じられる騎士団長が発表されるらしい。

しかし、シリルは「相談」という単語を使用したので、発表前に交渉の余地があるはずだ。

つまり、これから先は駆け引きの時間なのだろう。

さて、どういった態度で臨むべきか、とそう騎士団長たちが考えを巡らせていたところ……

「オレは大聖堂になど行きたくないが、現筆頭聖女様である王太后陛下を迎えに行くくらいならば、喜んで大聖堂に行く!」

クェンティンが馬鹿正直に、思っていることを全て口にした。

あっ、こんな感じでいいんだな。

身構えていた騎士団長たちは、一気に気が楽になる。

そして、同じように力が抜けた騎士団長の1人であったザカリーも、自分の意志を表明した。

「我が第六騎士団はなぜか、男性騎士の割合が異常に多い。そのせいで、オレは女性の機微というものを、一切理解できていねぇ。一方、王太后陛下は女性ばかりの離宮で長年暮らされ、はたまた数多の聖女様方を筆頭聖女として取り仕切ってこられた方だ。そのような繊細な方の言わんとすることを、オレのような無骨者が理解できるとはとても思えねぇ。王太后陛下に粗相があってはならないことだし、オレが行くのは止めた方がいいな」

ザカリーはクェンティンよりも婉曲に、しかし、同じ意味のことを口にした。

つまり、『王太后を迎えに行く役はご免だ!』ということを。

どうやら騎士団長たちは、大聖堂行きよりも、王太后のお迎えについての意志を表明したがっているようだ。

しかし、シリルは2人の訴えに返事をすることなく、説明の続きに戻る。

「現在、この部屋にいる者は7名です。しかし、私は王都を離れるわけにいきません。そして、カーティスは近衛騎士団の編成業務で忙しいでしょう」

デズモンドはカウンターに並べられたグラスが5個であることに早々に気付いていたため、このグラスを使って、シリルとカーティスを除いた5人の中から対応者を決めるのだなとピンとくる。

そのため、彼は必死な様子で片手を上げた。

「オレ! オレも絶対に王都に必要だ! 筆頭聖女様の選定が行われる上、王太后陛下の迎え入れもあるし、普段よりも多くの人が王都に集まるのは間違いないからな。王城を普段以上に警備する必要がある!」

デズモンドは自分の業務にかこつけて、王城警備業務の責任者は絶対に王都を離れられないと主張した。

「あら、だったら、同じように私も、王都を警備する必要があるわよ!」

同様に、クラリッサが王都警備の責任者も王都を外せないと主張する。

すると、それまで一言も口をきかなかったイーノックが、満を持して口を開いた。

「オレはその気になれば、一月だって誰とも口をきかないで暮らせるぞ。こんなオレに、大聖堂や王太后陛下の対応ができるはずもない」

しかし、それはよく分からない脅しの言葉だった。

そのため、そんな言葉を吐く前に、人並みの社交性を身に付けるよう努力をしろ、と他の騎士団長たちは心の中で思った。

一方、シリルは全員の言い分を聞き終えた後、ほっとため息を洩らした。

「……分かりました」

一体何が分かったのだろうと、皆がシリルを見つめる中、彼は困った様子で小さく首を振った。

「皆さんが等しく重要で、私ごときにその割り振りをどうにもできるはずがないことを」

つまり、誰の言葉もシリルには響かず、彼は思い通りに事を進めるつもりらしい、と騎士団長たちはシリルの心情を正確に理解する。

全員が予想した通り、シリルはすらすらと言葉を続けた。

「では、王国が誇る有能なる5名の騎士団長……デズモンド、クラリッサ、イーノック、クェンティン、ザカリーのうち2名は大聖堂に、3名は王太后をお迎えに行ってもらうことにしましょう。この件にかかる騎士団長の選定は、サヴィス総長から私に一任されています。しかし、私にはとても選ぶことができそうにありませんので、ご自分たちで選んでもらうことにしましょう」

シリルが言い終わると同時に、給仕たちが静かに、カウンターに並べられていたグラスをシリルの前のテーブルに並び替える。

すると、シリルは優雅な手つきで、それらのグラスを指し示した。

「さあ、お好きなグラスをお選びください。それぞれのグラスには異なる果実を入れてあります。種なしの果実が入ったグラスを選んだ者は大聖堂行きの、種入りの果実が入ったグラスを選んだ者は王太后陛下のお迎え業務を依頼することにしましょう。ああ、ちなみにそれぞれの業務時期をずらしますので、王都から同時期に5名の騎士団長が抜けることはありません」

5人の騎士団長は席から立ち上がると、真剣な表情で5つのグラスを見つめた。

しかし、準備したのは用意周到なシリル第一騎士団長だ。

もちろん、見て分かるはずがない。

「シリルの準備した方法は平等だから、恨みっこなしだな」

ザカリーはそう言うと、1つのグラスを掴んだ。

「王太后陛下のお迎えに、大聖堂行きよりも多い人数をあてようとするところが、きちんと点数取りができるシリルらしい、抜け目がないところよね!」

不満気に漏らしながら、クラリッサが1つのグラスを掴む。

「頼む、頼む! オレは世のため、人のために尽くしてきた! もうそろそろオレを、苦労の多い職務から解放してくれ!」

これまでの苦労を訴えながら、デズモンドが1つのグラスを掴んだ。

「デズモンド、これはただの運試しだ。お前のこれまでの行動は、この結果に一切関係してこない」

至極冷静にデズモンドを諭すと、クェンティンが1つのグラスを掴む。

「オレは先人の含蓄ある言葉を信じることにする。『残り物には福がある』だ。この言葉は絶対に間違いない……はずだ、そのはずだ」

祈るように頭を下げながら、イーノックが最後のグラスを手に取った。

シリルは自分のグラスを手に取ると、皆のグラスに合わせる。

「天と地の全ては、ナーヴ王国黒竜騎士団とともに!」

同じように、カーティスを含む残りの全員が唱和した。

「「「天と地の全ては、ナーヴ王国黒竜騎士団とともに!」」」

それから、全員が一気にグラスをあおると……しばらくして、がりっ、がりっ、がりりっと種を噛む音が、しんとした部屋の中に3つ響いた。