軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【挿話】第3回騎士団長会議10

カーティスが聞きたいことは、1つだけだった。

「その近衛騎士団には、フィー様も所属されるのか?」

カーティスの質問に対し、シリルが頷く。

「そうですね。近衛騎士団の騎士は、基本的に第一騎士団から配置する予定です。そして、筆頭聖女様には10代の年若い方が選定されるのではないか、と私は予想しています」

シリルの言葉に、誰もが納得する。

なぜなら聖女の順位付けは、基本的に聖女の能力のみを基準にして行われるものの、(次代の)王と結婚可能かという点が考慮され、聖女の年齢によって順位の調整が行われるからだ。

そして、シリルであれば、王国内の各々の聖女の能力を把握し、次代の筆頭聖女の目星を付けているはずだ。

「そのため、聖女様が少しでも過ごしやすく感じられるよう、同年代の者を周りに配置できればと考えて、元々フィーアとファビアンを第一騎士団所属としました。問題がないようであれば、2人を近衛騎士団に異動させる、というのが当初の考えではあったのですが、……最近、迷いが出てきました」

思い悩んだ様子のシリルに対し、デズモンドがすかさず言葉を差し挟んだ。

「シリル、お前の迷いは当然だ! フィーアを近衛騎士団に入れるのは、慎重に判断した方がいいぞ」

そのため、シリルはデズモンドに質問する。

「なぜそう思うのですか?」

「考えてもみろ。元々フィーアを第一騎士団所属に決めたのは、入団式以前だ。つまり、入団試験の成績だけで決定したはずだ。だが、その後、フィーアの周りで多くの事柄が発生した! あり得ないような事態ばかりが!! 山のように言いたいことはあるが、2つに集約する」

デズモンドは指を1本立てた。

「1つ。理由は分からないが、フィーアには未曾有の大事件を引き起こす習性がある。その習性を筆頭聖女様相手に発揮したら、それはもうとんでもないことになる!! 少なくとも、オレごときでは最早対応できない事態になると言っておく」

デズモンドは助言にかこつけて、未来の危険を回避しようとした。

つまり、事前に降参の姿勢を示すことで、将来的にフィーアと筆頭聖女の間でトラブルが起こったとしても、彼が巻き込まれることはないはずだ……とデズモンドは考えた。

それから、デズモンドは指をもう1本立てる。

「2つ。フィーアは滅多にないほどの赤い髪をしていて、サザランドでは大聖女様の生まれ変わりに認定された。自らを至尊の存在だと考えている筆頭聖女様からしたら、こんなフィーアは絶対に気に入らない! 止めておけ! オレは預言者ではないが、フィーアを近衛騎士団に異動させたら、破滅的な未来が確実に来ると予測するぞ!!!」

2つ目の理由を、デズモンドは心の底から訴えた。

聖女は全般的にプライドが高い。筆頭聖女になればなおさらだ。

そのような方が、伝説の大聖女様と見紛うばかりのフィーアの赤髪をすんなりと受け入れるはずもない。

なぜなら彼女たちはいつだって、いかに伝説の大聖女様に近付けるかに腐心しているからだ。

そんな中、聖女が求めてやまない大聖女様と同じ色を持ったフィーアが、目の前に現れてみろ。

フィーアが生まれ持ったものの価値を一切分かっておらず、頓着しない分、相手は腹立たしく思うことだろう。

「だ、駄目だ!! どんなに考えても筆頭聖女様とフィーアは組み合わせが悪すぎる!!」

デズモンドは青ざめた顔で叫んだ。

心の底からの訴えは人の心を打つもので、ザカリーはデズモンドの考えに同意した。

「デズモンドの言う通りだな! オレも絶対にフィーアと筆頭聖女様を接触させるべきじゃねぇと考える。何も起こらないはずはないからな」

一方、クラリッサは不満気な表情を浮かべた。

「うーん、これは凄く面白い対決だと思うのよねー。正式な婚約者である筆頭聖女様対、総長のお気に入りにして、総長が大本命のフィーアちゃん! 恋ってのは、障害が大きい方が燃え上がるから、どっちに転んでも総長の楽しいラブライフが始まるんじゃないかしら? それに、フィーアちゃんほどの赤い髪は隠しようがないから、下手なことをするよりも、堂々としていた方がいい結果につながると思うけど」

悪戯っぽい笑みを浮かべるクラリッサに対し、クェンティンが苦情を言う。

「クラリッサ、お前、絶対分かって言っているだろう! オレはフィーア様とサヴィス総長がご一緒のところを何度も目にしたが、フィーア様は絶対にそのような感情を抱かれていなかったぞ。不敬を承知で言うと、フィーア様が1番お心を移されているのは、総長というよりもむしろ黒竜王様のはずだ!」

そんな中、1人だけ温度差が異なるイーノックが、自分の興味について語り出す。

「ああ、新たなる筆頭聖女様をお迎えする時期に居合わせるとは、何たる幸運だ! そのお力はいかほどのものだろうな? はあ、胸が高鳴ってきたな」

そして、最後にカーティスが至極彼らしい条件を出してきた。

「フィー様が近衛騎士団に所属されるのであれば、私は喜んで団長職を引き受けよう」

皆の意見を確認したシリルは、考えるかのように目を細めた。

「デズモンドの心配はもっともです。ですが、元々フィーアを近衛騎士団に配属しようと考えたのは、彼女の髪色が理由でもあったのです。なぜなら教会側は、筆頭聖女様が手厚く遇されることを要求しているからです」

シリルはそこで言葉を切ったが、理解していない様子の騎士団長たちを見て補足する。

「教会や聖女様たちにとって、赤い髪は至上のものです。そのため、歴代の筆頭聖女様の下に赤い髪の騎士が配置されることで、教会側は自分たちが厚遇されているのだと判断してきました。それに、聖女様が気にされるのは、あくまで『赤い髪の聖女様』です。聖女でないフィーアのことまで嫌悪するでしょうか? ただ……確かに、伝説の大聖女様の生まれ変わりに認定されたことは、懸念事項だと思います」

そんなフィーアを筆頭聖女の下に配置した場合、教会側は自分たちが厚遇されていると考えるのか、不快に思うのか。

シリルは指でとんと円卓を叩くと、口を開いた。

「筆頭聖女様の候補者の反応を確認することが、有効かもしれませんね。私が掴んでいる情報を総合的に勘案すると……不測の事態が起こらない限り、新たな筆頭聖女様はオルコット公爵令嬢でしょう」

「「「オルコット公爵令嬢?」」」

突然出てきた名前に誰もが首を傾げたが、デズモンドは1人だけ納得した様子で頷いた。

「確かに、順当に考えたらそうだろうな。プリシラ聖女は近年稀にみる強力な聖女様だ。年齢もそろそろ17歳になるはずだし、……そうか、彼女が結婚できる歳になるのを待っていたのか」

全ての聖女は17歳にならないと結婚できない。

そのため、プリシラが17歳になるのを待って、筆頭聖女が定められる手はずになっていたのか、とデズモンドは教会の思惑を推測する。

しかし、その時、ザカリーが驚いたような声を上げた。

「は? オルコット公爵というのは、三大公爵の1人、ロイド・オルコットか? 彼は独身だと思っていたが、そんな大きな娘がいるのか?」

「その通り、彼は独身です。そして、私と同じ27歳ですので、16歳の娘がいるのは難しいでしょうね。彼は最近、極秘に養子縁組を結びました。そのことをデズモンドが知っていたのは、業務上知り得たものでしょう。そして、養女となったプリシラ嬢は、市井でも名前を知られるほど強力な聖女様とのことです」

シリルの言葉を受け、デズモンドが誰にともなく説明する。

「よくある箔付けのための養子縁組だな。基本的に聖女様であれば、平民であっても貴族に輿入れできるが、嫁ぎ先が高位貴族の場合、稀に箔付けとして、適当な貴族家の養子に入ることがある。といっても、通常の養子先は、せいぜい伯爵家程度だが。……先日、オルコット公爵が極秘に聖女様を養女に迎えたと聞いて、……国王一派がサヴィス総長に必要以上に近付かないことから、シリルの相手かと考えていたところだ」

もちろん最後の一言は、デズモンドの下手な冗談だ。

極秘にされていたオルコット公爵家の養子縁組について知っていたデズモンドが、その養女の身の振り方を知らないはずがない。

そのことは十分理解していたものの、シリルはうっすらと微笑んだ。

「ご心配なく。私の婚姻は、サヴィス総長がご結婚された後の話です。それに、ロイドの義娘を妻にしたら最後、彼に死ぬまで義父面をされますからね。ご免ですよ」

ああ、それは嫌だろうな、とデズモンドは納得した。

確かシリルとロイド・オルコットは騎士養成学校で同級だったはずだ。

オルコット公爵が文官を目指したため、今やその道は別れているが、元々は同じ道を志して色々と衝突していたと聞く。

ちらりとシリルを見ると、彼は表情を隠すかのように目を伏せた。

「時期的にも、そろそろオルコット公爵家の館に、プリシラ嬢を迎え入れる頃でしょう。ロイドとは知らぬ仲でもありませんので、フィーアを連れてあの家を訪問してみることにしましょう。その際のプリシラ嬢の反応を見て、この案件を再度検討する、ということでよろしいですか?」

「いいんじゃないか!」

デズモンドにとって、本案件は一切関わりたくないものだったため、さっさとこの話題を終結させようと、すかさず同意する。

「『赤髪の者を配置しようと考慮したが、筆頭聖女様の意向を重視して取りやめた』というストーリーなら、教会も受け入れやすいだろうからな」

デズモンドの話は、フィーアが筆頭聖女に気に入られないであろう、との想定の元に進められていた。

そのことに気付いたシリルは、考えるかのようにデズモンドを横目で見る。

「デズモンド、あなたはロイドのチェス仲間でしたよね? よければオルコット公爵家を訪問する際、同行していただければありがたいのですが」

「それはどうだろうな! オレもプリシラ聖女とフィーアが対面する場に同席したくはあるが……いかんせん騎士団長としての仕事が忙しくてな! 向こう3か月ほど、寝る間もないほど仕事に忙殺される予定だ!!」

上ずった声を上げるデズモンドに対し、シリルは笑顔を浮かべた。

「おやおや、スケジュールを詰め込み過ぎるのはよくありませんよ。あなたの立場でしたら、より重要な案件が次々に湧いてくるでしょうし、それらをどうにかして既存のスケジュールの中にねじ込むことまでが仕事でしょう?」

「いや、シリル……」

完全なる及び腰の姿勢を見せるデズモンドだったが、シリルが手を緩めることはなかった。

「そもそもフィーアをプリシラ聖女の下に付けるべきではない、と進言したのはあなたですよね。進言した言葉の有効性を確認するために現場に出向くのも、あなたの重要な役目だと思います」

「そ……」

それはどうだろうか、とデズモンドが続ける前に、シリルは笑顔のままさらに一歩踏み込んできた。

「ただの公爵家訪問ですが、今後の近衛騎士団の編成に影響する大事なものです。ですから、全てに優先させてくださいね」

「うっ!」

穏やかな態度ながら、強引に話を推し進めるところは、さすが第一騎士団長の手腕だった。

敗北を悟ったデズモンドは、がくりと円卓に上半身を倒す。

そして、この決着をもって、長かった騎士団長会議は終わりを迎えたのだった。

―――出席者全員が疲労困憊したことは、言うまでもない。