軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【挿話】第3回騎士団長会議5

へなちょこ認定された騎士団長たちは、疲れた様子でシリルを見た。

「……それで、300年振りに発見された『大聖女の薔薇』について、オレたちが知っておくべきことは他にあるか?」

デズモンドの質問に、シリルも疲れた様子で書類に目を落とす。

「あ、ええ、そうですね。『大聖女の薔薇』が発見されたのは、王城の北東に位置する庭です。庭師の話では、元々あの一角に緑色の薔薇が12株咲いており、他の場所に咲く薔薇とは、少し種類が異なっていたとのことです。現在では、そのうち2株が『大聖女の薔薇』に変化しています。つまり、変異性を持つ薔薇だと考えられます」

「なるほど、植物も蝶や蜂のように、幼虫から蛹、成虫になるような変化があるんだな!」

分かったような口を利くザカリーだったが、もちろん分かっていなかった。

大聖女の薔薇はフィーアが魔力を注いだことで異なる種類へと変異したが、普通の植物は変異しない。

どうやら彼には、植物と昆虫の生育が全く異なることから始めなければならないようだ。

しかし、ザカリーにそのことを指摘するのは自分の仕事ではない、と他の騎士団長たちは考えていたため、誰一人ザカリーにコメントしなかった。

そのため、彼はこの後も植物の生育について誤解し続けることになる。

シリルは説明を続ける。

「現在、『大聖女の薔薇』が咲いている一帯は、立ち入り禁止にしています。今後も『大聖女の薔薇』に変化した2株に赤い薔薇が咲き続けるのか、あるいは、緑の薔薇を付けている残りの10株が『大聖女の薔薇』に変化するのかを、引き続き調査する予定です」

デズモンドが感心した様子で腕を組んだ。

「緑色の薔薇が赤い薔薇に変わるとは、神秘的な話だな! その上、きらきらと輝くのならば、盗難に遭っても不思議じゃない。立ち入り禁止にするのは、妥当な判断だな。そうは言っても、しょせんは花だから、それなりの輝きだろうが」

「そういう意見が出るだろうと思いまして、本日は実物をご用意しています」

シリルはそう言うと、円卓の上に置かれていた細長い箱を取った。

そして、席を立ってデズモンドに近付くと、蓋を開けた状態で箱を手渡す。

「どうぞ、こちらが王城の庭で発見された『大聖女の薔薇』です」

箱を受け取り、何気なく覗き込んだデズモンドははっとしたように目を見開いた。

「えっ、これは花なのか? 花びらがきらきら輝いているじゃないか! どうなっているんだ!? おいおい、オレの予想を遥かに超えてきたぞ」

順番に回すようにとシリルが説明したにもかかわらず、イーノックは席を立つと凄い勢いでデズモンドの元に走り寄る。

それから、丁寧な手つきながらも有無を言わさない態度で、デズモンドから花を奪い取った。

「………はあ、凄いな。これはまさしく『大聖女の薔薇』だ。うわあ、きらきらしている。綺麗だなあ」

吐息で花びらを傷付けたくないと思ったのか、イーノックが囁くような声を出す。

「ちょっと、イーノック! 乙女になっているわよ」

クラリッサがイーノックに注意するが、彼は頬を赤らめて夢見るような表情をクラリッサに向けただけだった。

ひとしきり騒ぐ騎士団長たちに、シリルが補足する。

「現在、文官たちが『大聖女の薔薇』について、過去の資料を拾い上げているところです。そのため、詳細が把握でき次第、本物であるかどうかを検証する予定です」

「いや、もうこの見た目だけで確定していいだろう。こんな他と違うような花、見たことないぞ」

デズモンドが意見を述べると、イーノックも追従する。

「そうだぞシリル! 本物かどうかを疑う行為が、『大聖女の薔薇』に対する不敬行為だ!!」

やいやいと言い合う騎士団長たちを見て、カーティスがさらりと助言した。

「『大聖女の薔薇』と言うくらいだから、大聖女様の嗜好に合うような仕様になっているはずだ。大聖女様はローズヒップティーがお好きだったというから、花が終わって実がなれば、それでティーを作ってみればいい。大聖女様の御心が分かるはずだ」

謎かけのような言葉に、シリルが眉を寄せる。

「どういう意味ですか?」

「癒しの大聖女様が何を望まれていたのかが分かるだろう、ということだ」

カーティスの言葉は少なすぎたため、通常であれば彼の真意を読み取ることは難しかったが、さすがに筆頭騎士団長だけあって、シリルは簡単に正解に辿り着いた。

「つまり、『大聖女の薔薇』の実で紅茶を作れば、大聖女様がお望みになられた効能が表れるということですか?」

「ああ、正しい御心が分かるだろう。花びらを浮かべて飲んだだけでも、簡単な効能は出るだろうが……気まぐれだ」

説明しながら、カーティスは300年前に思いを馳せた。

……正直、あの花は謎に満ちている。

恐らく魔力を流した時の大聖女様の心情に影響されるのだろうが、……使用する花びらによって、麻痺解除であったり、体力回復であったりと効能が異なるのだ。

そのため、大聖女様の茶会に招待されて、『大聖女の薔薇』を浮かべた紅茶を提供された者は、鬼が出るか蛇が出るかと、決死の覚悟で紅茶を飲み干すのだ……セラフィーナ様は全く気付いていないご様子だったが。

そんなセラフィーナ様のお茶会は、『運命の茶会』と呼ばれていたのだった。

あの茶会を再現するのも一興だな、とカーティスが思考を飛ばしていたところ、シリルが訝し気に尋ねてきた。

「カーティス、あなたはなぜそのようなことを知っているのですか?」

「……サザランドでは誰もが知っている話だ」

カーティスは一瞬の逡巡の後、無難な答えを返した。

すると、シリルは納得した表情で頷いた。

「ああ、なるほど。あの地は大聖女信仰が強いので、様々な言い伝えが残っているのですね」

それなら、私ももう少し領地に戻って、様々なことを住民たちから教わるべきですね、とシリルは呟いた。

サザランドの件について、何一つ口出ししないと決意している騎士団長たちが、無言のままシリルを眺めていると、彼は顔を上げて騎士団長たちを見回した。

「以上が『大聖女の薔薇』についての報告になります。追加情報が入り次第、お知らせしますので、お待ちください」

そう締めくくった後、シリルは小さな声で呟いた。

「……300年間、一度も発見されなかった『大聖女の薔薇』がこのタイミングで見つかるなど。何かの予兆でなければいいのですが」

それから、シリルは何かを考える表情で手元の書類をめくった。

その様子を見て、元気を取り戻したデズモンドが朗らかに冷やかした。

「おっ、次の議題か? はは、そろそろフィーアもネタ切れだろう。よし、オレが議題内容を予想してやるぞ。フィーアが道端で幸運の青いひよこを拾って、第一騎士団長様に献上した。あるいは、本命をサヴィス総長からシリルに改めた。どうだ、当たっているか?」

軽口を叩くデズモンドに、ちらりと視線をやるシリル。

「そうですね、あなたのように平和慣れした騎士に、ぴったりの議題ですね」

それから、シリルは表情を真剣なものに改めると、普段よりも低めの声を出した。

「次の議題は、レベル的に最も重いものになります。カーティスから受けた報告によりますと、カーティス、フィーア及び同行者2名の計4名は、霊峰黒嶽を探索中に魔人に遭遇しました」

「……は?」

「え?」

「何だって!?」

騎士団長たちはそれぞれ驚愕の声を上げると、全員が椅子から立ち上がった。

「魔人だと!? それはこの300年もの間、一度だって姿を現していない人型の魔物だよな?」

「それが現れたって……」

それぞれ言いたいことはあるようだが、言葉を切ると、シリルに顔を向けて次の言葉を促す。

シリルは表情を変えずに、騎士団長たちを見回した。

「まずは基本情報から説明しますので、お座りください。現在、世界中の脅威となっているのは魔物ですが、その中で人型のものを、特に『魔人』と呼びます。そして、魔人の中で特に強力な者を、『紋付きの魔人』と呼びます」

騎士団長たちは指示された通りに椅子に座り直しながら、真剣な表情でシリルを見やった。

それらの姿を確認しながら、シリルがさらなる情報を提供する。

「これは、一定以上の強さを持つ魔人には、必ず固有の紋が刻まれていることに由来しています。この紋は魔人にとってもステータスであるため、顔や手の甲といった見えやすい場所に刻まれています。紋の数は魔人によってバラバラですが、その数と魔人の強さは比例します」

「『紋付きの魔人』って……何で今、そんな説明が必要なんだ?」

早くも何かに思い至った様子でデズモンドが口を差し挟むが、シリルは綺麗に無視した。

それから、冷ややかな表情で全員を見回す。

「繰り返しになりますが、本日の会議内容は全て秘匿情報になります。これから私が話す内容もそうです。これは『はじまりの書』に記されている極秘情報で、基本的に各国の王族レベルでのみ共有する情報ですが、火急の時ですので開示します」

「え、や、待て、そんな重要な話をするなら心の準備を……」

片手を心臓に当てて、幾ばくかの時間を要求したデズモンドだったが、シリルは再び無視をすると言葉を続けた。

「世界中に存在する魔人の紋の数は、全て合わせると33紋になります。これは、創世の時に存在した魔人の紋の総数に当たり、この数字は増えも減りもしません。必ず33紋です。が、300年前に大聖女様たちの手によって、『十三紋の魔王』を始め多くの魔人が封じられましたので、残りはあと6紋となっていました」

「大聖女様はすげえな」

ザカリーがしみじみと呟く。

シリルは同意の印に頷くと、説明を続けた。

「魔人は300年前に突然姿を消しました。それぞれが住んでいた城を捨て、痕跡を残さずにどこかへ行ってしまったのです。それ以降、魔人の目撃情報はありませんでしたので、私たちは魔人とは遠い昔に存在した脅威と考え、ろくな警戒もしていませんでしたが……その魔人が300年振りに姿を現したのです」

「……カーティスとフィーアの前にか?」

恐る恐る問いかけるデズモンドの質問を、シリルは端的に肯定した。

「そうです」

「いや、そう簡単に肯定されても……。オレは今、背筋が凍ったぞ。え、カーティス、お前とフィーアの前に魔人が現れたのか? だったら、どうしてお前たちは無事なんだ? まさか魔人から逃げ延びたのか!?」

カーティスはともかく、フィーアは足が速かったのか、と乾いた声を漏らすデズモンドの冗談に、いつものキレはなかった。

どうやらいつになく混乱し、動揺しているようだ。

シリルは説明を続ける。

「遭遇場所は霊峰黒嶽で、フィーアの従魔と想定されている黒竜の棲み処になります。先日、フィーアがガザード辺境伯領を訪問した真の目的は、黒竜に会うことでした。そのため、カーティスとフィーア及び2名の同行者で、黒嶽に登り一泊しています」

「は、何だと? カーティスとフィーアはあの山の中に、たった4人で足を踏み入れたのか? お前たちのそれは、怖いもの知らずの子どもの行動だ!」

カーティスを指さし、信じられないとばかりに言い放つデズモンド。

シリルは淡々と言葉を続けた。

「黒竜が各地から様々な竜を黒嶽に集めていたようで、そのことを不審に思った魔人が、山の中に様子を見に来たところで遭遇したようです。カーティス、ここから先は、あなたが説明してください」

シリルに指名されたカーティスは、頷きながら立ち上がった。