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作品タイトル不明

【挿話】国王の双璧 前

『 騎(・) 士(・) 団(・) の(・) 双璧』と言えば、「王国の竜」と呼ばれるシリル第一騎士団長と、「王国の虎」と呼ばれるデズモンド第二騎士団長の2人を指す。

では、『 国(・) 王(・) の(・) 双璧』と言った場合はだれを指すのか?

―――騎士団ほどに外的な露出が多いわけでもなく、外交や内政、保健衛生や農業と、多岐に亘る国王の業務は数多くの者で担われているため、たった2人に絞るのは難しい……と答える者はまずいない。

なぜなら誰もが、同じ2人を指し示すからだ。

『国王の双璧』といえば、三大公爵のうちの2人、ロイド・オルコット公爵とノエル・バルフォア公爵だ、と―――王国の内情を詳しく知る者ほど、そう答えるだろう。

なぜならローレンス王は、2人のうちのどちらかを必ず、重要な席に同席させるのだから。

そして、彼らのうちのどちらが同席したとしても、非常に的確に国王に進言するのだ。

「陛下、こちらの案は見事ですね」

そう、誰もが聞き間違いようもないほどはっきりと1つの案を国王に薦め、国王は素直にその案を採択する。

だからこそ、近隣諸国及び国内貴族は、共通した意見を持っていた。

『ナーヴ王国は盤石だ。なぜなら類を見ないほど優秀な側近が、王の側に2人もいるのだから』と。

その上で、王弟と2人で鉄壁の国を造り上げていると。

王弟は武を司る騎士団の最高位に位置し、三大公爵の筆頭であるサザランド公爵を側に置いた。

国王は国の最高位に君臨し、三大公爵の残り2人を側に置いた。

―――それらの采配は非常にバランスが良く、最も国のためになる形だと、誰もが満足するものだった。

そのため、国王が気晴らしのため、自由気ままな宮廷道化師を側に置いていることについて、文句が出ることはほとんどなかった。

道化師たちはおかしな口調で突拍子もないことを口にするけれど、頭が弱いので仕方がない。

そもそも彼らは、自分が口にしていることの意味すら分かっていないのだからと。

そして、そんな風に思われていることをいいことに、道化師たちは日ごろの鬱憤を晴らすように、好き勝手なことを口にしていた。

それはもう、非常に高度で、国の中枢中の中枢しか知りえない内容を、皮肉にまぶしながらも、ここぞとばかりにしゃべり倒していた。

なぜなら国王が侍らせている3人の道化師のうち、1人は国王自身であり、残りの2人は……

◇◇◇

ナーヴ王国に公爵家は3つしか存在しない。

そして、その3つの公爵家のいずれもが絶大な権能を有していたため、その当主は畏怖と畏敬の念を込めて「三大公爵」と呼ばれていた。

三大公爵の面々は男性陣から畏怖される一方、女性たちからは絶大な人気があった。

もちろんその高い身分が人気の高さに一役買っていることは間違いないが、それ以上に外見的な美しさが女性たちから評価されていた。

シリル・サザランド公爵は、長いグレーの髪を襟元で結わえた、優し気な顔立ちの美形。

ノエル・バルフォア公爵は、オレンジの髪を肩まで伸ばした、精悍な顔立ちをした美男子。

ロイド・オルコット公爵は、青銀色の髪をきっちり襟もとで切りそろえた、目元が爽やかな美丈夫。

『それぞれが違っていて、どれもいい』とは、3公爵の絵姿を手にした女性たちの一致した意見だった。

さて、その日、王城ではノエル・バルフォア公爵とロイド・オルコット公爵が連れ立って歩いていた。

2人に気付いた者たちは慌てたように道を空けると、敬意を表すために深く頭を下げる。

しかし、極上の扱いを受けている2人はそのことに無頓着で、自分たちの会話に熱中しているように見えた。

……のはやはり見えただけで、どうやら抜け目なく周りに気を配っていたらしく、オルコット公爵は目を眇めると、遥か遠くにいる人影を指さした。

「あら、あれはフィーアじゃないかしら?」

「……遠すぎて、人であることしか分からないが」

オルコット公爵が指さす方向を見つめたバルフォア公爵は、目を細めながら首を傾げる。

対して、オルコット公爵は自信満々に言葉を続けた。

「うふふー、それは愛が足りないんじゃないかしら? あの子ったら、たった数時間であたしを虜にしちゃうんだもの! 気付いた時には、あたしはあの子に夢中で、シルエットだけで判別できるようになってしまったというのにねえ」

「ロイド、口調が乱れているぞ」

「あら、失礼。ではなかった。これは失礼」

オルコット公爵は女性の声とも間違えられるような高い声を改めると、低い男性的な声に切り替えた。

それから、声を潜めて続ける。

「僕は頭のいい子が好きなんだよ。フィーアは恐らく、僕らの誰よりも頭が切れる。セルリアンの正体を見抜く者が現れるとは考えたこともなかったが、あの子は簡単にやってのけた。そして、フィーアはいくつも根拠を示したけど、そのどれもが正解だった。あの子は真に頭がいいよ」

対するバルフォア公爵も、声を潜めて返事をする。

「だが、セルリアンが呪いに侵されていることと、王家の始祖に精霊王の血が混じっていることを言い当てたのは、当てずっぽうとの結論だったじゃないか」

オルコット公爵は馬鹿にした様子で友人を見つめた。

「そんなわけないだろう! 偶然であんなレア事案を2つも言い当てられるものか。フィーアは実際に、セルリアンが呪いに侵されていることと、王家の始祖が精霊王であることに気付いていたんだよ。ただはっきりと、言葉で説明できるような根拠までは掴めていなかった、というだけだ」

「……そうなのか?」

驚いたように目を丸くするバルフォア公爵に、オルコット公爵ははっきりとうなずいた。

「ああ、間違いないね! 恐らくあの子は、同じ条件下、同じ状況下において、僕らより多くのものを読み取り、そこから的確に類推することができるんだ。ただし、今回に限っては、その場にあるヒントが少なすぎたため、理路整然と説明するまでには至らなかっただけだ。そして、そのことは、お前以外の全員が気付いていたぞ」

オルコット公爵の言葉を聞き終えたバルフォア公爵は、驚愕して同じ言葉を繰り返す。

「そうなのか!?」

「もちろん、そうだ。セルリアンは言うまでもなく……サヴィス殿下とサザランド公爵だぞ。キレッキレの2人がなぜ、あの場でほとんど発言しなかったと思う? フィーアに余計なことを気付かせないためさ」

オルコット公爵はさり気なく進行方向を変えると、フィーアだと言い切った人影へ向けて歩き始めた。

対するバルフォア公爵は、オルコット公爵が方向を微修正したことに気付かず、友人の顔を見つめて聞き返す。

「どういうことだ?」

オルコット公爵はひらひらと片手を振った。

「僕の勘だと、フィーアは天才型だ。理論を積み上げていくのではなく、僕らには知覚できない情報を読み取って、真実を言い当てるタイプだ。あのタイプは諸刃の剣だから、やっかいでね。色々と利のある情報を提供してくれる一方、知られたくない情報を読み取られてしまう」

オルコット公爵は一旦言葉を切ると、含みを持たせた視線で相手を見やった。

「セルリアンが真の王だという情報くらいまでなら、大きな問題はないが……ほら、あの2人には大きな制約がかけられているだろう? そのことをひた隠しにしているというのに、セルリアンはあんな性格だから、わざとぎりぎりのところまで口にしていたからね」

思い当たることがあったバルフォア公爵は、同意の印に頷く。

「ああ、『30歳になった時、僕がどう感じるのか』ってやつか。確かにあのセリフはヒヤリときたな」

オルコット公爵は楽しそうに両手を広げると、饒舌をふるい始めた。

「そう、あそこまでヒントを出されたら、気付かれるのは時間の問題だ。しかも、フィーアは天才型ときているから、どの言葉がヒントになって秘密が暴かれるか分からない。だから、あの2人はただただ沈黙を守っていたわけさ。……2人にとって幸運なことに、フィーアの思考が別の方向に向かったようで、『30歳の壁』だとか訳の分からないことを言い出したから、話はうやむやになったがね」

それから、オルコット公爵は考えるかのように空を見つめた。

「ただ、あの調子ならば、……多分、あの子の周りでは、これまでにも面白い現象が起きているんじゃないかな? 今までの常識を覆すような、ドラスティックな変化が。あの子は間違いなく、側にいると退屈しないタイプだよ。だから、僕としてはぜひともお友達になりたかったのだが……殿下もサザランド公爵も、僕に彼女を近付けたくないように見えたな」

「それは賢明な判断だ。お前は組み合わせる相手を間違えると、大変なことになるからな」

バルフォア公爵は至極真面目な表情でうなずいたけれど、オルコット公爵は指をぱちんと鳴らすと、楽しそうな笑い声を上げた。

「ははははは、だが、僕だって四六時中、自由も休息もない、くそ忙しい道化師でいるわけではないからね。もっと身軽な公爵としての顔を持っている。そして、公爵としての僕は、自らの足でフィーアに近付いていくことができるってわけだ」

そう言うと、オルコット公爵はフィーアだと言い切った人物のシルエットに向かって、まっすぐ歩いて行った。