軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145 王様ゲーム6

セルリアンの謝罪が終わったところで、ローレンス王が取りなすような言葉を掛けてきた。

「仲直りは終わったか? これからフィーアは私の護衛として側に付くことがあるだろうから、仲良くしてくれ。セルリアン、私はいつだって君を側に置くのだから、顔を合わせる機会が増えるのは間違いないからね」

それから、国王はいいことを思い付いたとばかりに言葉を続ける。

「そうだ、フィーア。セルリアンと一緒にカードゲームをするのはどうだろう。親交を深めるにはもってこいの遊びだぞ」

国王の発言は提案の形を取っていたけれど、それが実際に提案だと受け取るような者はこの部屋に1人もいなかった。

ナーヴ王国の最高権力者の発言だ。

国王がそう発言したならば、私は全力でセルリアンとのカードゲームを楽しまなければいけないのだ。

案内されたのは執務室の窓際の一角で、そこにはカードゲーム専用のテーブルが設置してあった。

国王が執務を行う同じ部屋に、道化師専用のゲームテーブルが設置してあることからも、道化師たちが厚遇されていることがよく分かる。

この部屋で頻繁にカードゲームをプレイしているのかしらと疑問を覚えていたところ、根は親切なのかセルリアンが説明してくれた。

「僕らは大体、この部屋で王と一緒にいるけれど、階段に座って王と貴族たちの話を聞いているだけじゃあ退屈だからね。飽きたら、ここでゲームをするんだ」

「そうなんですね」

確かに国政に関する小難しい話を、一日中聞いているだけでは飽きるだろう。

心から納得して頷いていると、セルリアンから不審気な表情で質問された。

「フィーアはどうして、僕の話を真面目に聞くのさ。それから、僕に対して丁寧な話し方を続けるのはどうしてなの。僕は道化師だよ? 馬鹿にしてほしいわけではないけど、丁寧に接せられながら腹の中で馬鹿にされることほど腹立たしいものはないからね。もっとくだけた話し方にしたらどう? 少なくとも、面談に来た他の騎士たちは、そんな丁寧な話し方はしなかったよ」

私はしなを作ると、おほほと上品に笑いかけた。

「ほほほ、まさかルーア語に詳しい、学識豊かなセルリアンに無礼を働くわけにはいきませんよ」

「いや、そんな演技はいいから! 本心でそう思っているなら、フィーアが先ほどから何度も何度も僕に嫌味を言ってくるわけないから。君の言葉を借りれば、ルーア語程度を知っていることは『教養の範囲』なんだろ? ……全く、どんな教養なんだか」

ぶつぶつと苦情を言うセルリアンに、私はもう1度上品に笑いかける。

「私は元来、どのような相手であっても丁寧に接するのです。これが地ですので、ほほほ」

けれど、間髪いれずにセルリアンから物申される。

「いや、嘘だろう! 普段のフィーアを知りはしないけれど、絶対に嘘だと分かるよ」

「まあまあ、セルリアンったら。教養としてルーア語を知っている私ですから、何事にも品位を持った所作になるんですのことよ、ほほほほほ」

セルリアンはため息を吐くと、諦めたような声を出した。

「すでに話し方がおかしくなっているから。敬語を使い慣れていない者の典型的な失敗例だよ」

何と、元王女の私に対して失礼な!

むっとしたものの、しょせん成人前の子どもの発言だ。

素直に謝罪するような可愛いところもあるのだし、と大人な私が譲ることにする。

私はカードテーブルに備えてあった椅子に座ると、気になってちらりと後ろを振り返った。

すると、サヴィス総長とシリル団長が、ローレンス王を相手に談笑している姿が目に入った。

明らかに3人はこちらを気にしていない。

別行動になったということは、これにて国王の面談は終わったと考えてもいいのだろうか。

そう考えながら、私は年若いセルリアンと体格のいいロン、女性的なドリーの3人の道化師とともにカードゲームを始めた。

とは言っても、暇さえあればカードゲームをしている3人と、ほぼ初心者の私とでは勝負になるはずないわよね、と半ば諦めながらゲームをする。

けれど、どういった幸運なのか、1回目のゲームで私は3位だった。

「や、やった、遊び人相手にビリじゃなかった!」

2回目のゲームでは2位になる。

「え、天才? こんないつだってカードゲームばかりをやっている遊び人たちを相手に勝てるなんて、私はカードゲームの天才だったのかしら!?」

この勝利の規則性からいくと、次は1位になる気がするわと面白くなってきたところで、セルリアンがゲームを変えようと言い出した。

「サヴィスとシリルも入りなよ」

呼び捨ての上にため口だ。

セルリアンの不遜な口調を聞いて、ロンとドリーがおかしそうに笑っている。

セルリアンったら、本当に総長と団長に不敬だわね!

むっとする私とは対照的に、サヴィス総長とシリル団長はセルリアンの態度が気にならないようで、国王との会話を切り上げると私たちの元まで歩み寄ってきてテーブルについた。

代わりにロンとドリーが抜け、ゲームのメンバーはサヴィス総長、シリル団長、セルリアン、私の4人となった。

「それで、何のゲームをするのでしょうか?」

シリル団長がセルリアンに向かって質問する。

すると、セルリアンは楽しそうな表情で口を開いた。

「『国王崇拝』というゲームだよ。ルールは簡単。カードの強さを説明すると、1から10、ジャック、クイーン、キングの順に並べた場合、1が1番弱くてキングが1番強い」

私が理解した印に頷くと、セルリアンが説明を続ける。

「それから、ゲームの方法だけれど、まずは1枚ずつ、場にカードを出していく。この場合、必ず前の者よりも強いカードを出さなければいけない。出せない場合はパスで、全員がパスをした場合、もしくはキングが場に出た場合には、場のカードを全て流して、次の者が1枚目としてカードを出す。その繰り返しで、初めに手札がなくなった者が勝ちだよ」

なるほど、ルールは理解できた。けれど……

「『国王崇拝』」

なぜだかカードゲームのタイトルが妙に気に掛かる。

あるいは、この部屋に入ってからの全てに違和感を覚えている。

私は何が気になっているのかしらと考え込もうとしたところ、遮るかのようにロンが声を上げた。

「よお、せっかくだからジョーカーを入れてくれ」

そう言うと、ロンは何でもないことのようにカードケースから1枚のカードを引き出した。

その様子を見て、セルリアンが顔をしかめる。

「んー、これが入るとルールが面倒になるんだよね。ジョーカーは1枚しかない最強のカードで、1番強い。けれど、ジャック、クイーン、キングのいずれかのフェイスカードの次にしか場に出すことができないんだ」

私はまじまじとセルリアンを見つめた。

「……ああ!」

思わず声が零れる。

なるほど、そういうことか。国王の面談はまだ終了していなかったのか。

というよりも、これは面談の形を取った、一種のテストなのだろう。

「ああ! ……これはまた趣味が……」

悪いわね、と思いながらロンがカードを配るのを見つめる。

気付いたことで、これまでと見え方が異なってきたからだ。

ロンの手つきはすごく悪いし、不器用そうに見えるのだけれど、恐らく彼はカードの達人なのだろう。

どういう仕組みか分からないけれど、彼は思うがままにカードを振り分けることができるはずだ。

そう確信しながら、配られた自分の手札を他の人には見えないようにして手元に寄せる。

「…………」

予想通り、1枚しかないジョーカーが私の手元にあった。

そのことにより、これは間違いなくテストが行われているのだと確信する。

だとしたら、どこまでが国王の共犯者なのかしらと疑問に思い、ちらりとサヴィス総長を見ると、真面目な表情で自分の手札を見ていた。

シリル団長に視線を移すと、同様に真面目な表情をしている。

全く違和感はないけれど、この2人が真面目にゲームに興じる理由はないから、恐らく2人ともクロではないだろうか。

そうだとしたら、さすが国王陛下だわ。最高権力者だけあって、誰もが従っていらっしゃる。

そう思いながら、どう対応すべきかしらと考えていたところで、先ほど廊下でシリル団長に言われたことを思い出す。

『国王陛下は色々と試してこられるところがあるかもしれませんが、訓練修了の確認だと思って、できるだけお応えしてくださいね』

私はぴかぴかの玉座に座っている、三重冠を頭に被せたきらっきらの国王にちらりと視線をやった。

すると、面白そうな表情で私を見つめていた国王と目が合った。

……ええ、なるほどですね。これが試されている試験ということですね。

そして、これを乗り越えなければ、私は第一騎士団から外されてしまうとか、そういうことでしょうか。

せっかくカーティス団長がサザランドから来てくれたというのに、早々に第一騎士団を離脱するわけにはいきませんよ。

そう思った私は、自分の役割を果たすべく、カードゲームに集中することにした。