軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

144 王様ゲーム5

予想通り、セルリアンは私の発言が気に入らなかったようで、恐ろしい表情で睨み付けてきた。

その瞬間、ぷっと噴きだしたような音が後ろで響く。

何事かしらと振り返ると、サヴィス総長が素知らぬ顔で咳払いをしていた。

「……失礼。喉に何か詰まっていたようだ」

その様子から、サヴィス総長も常々、セルリアンの言動に物申したい気持ちがあったのだろうなと推測する。

なぜならセルリアンは、一見馬鹿にされても仕方のないような態度を取っておきながら、実際にはその態度の裏に高尚な内容を含ませており、そのことに気付かずに馬鹿にした者を逆に馬鹿にするという、趣味が悪いとしか言いようのない遊びを行っていたからだ。

いくら成人前の子どもの言動だとしても、いい加減にしなさい! と小言を言いたい気持ちになるというものだ。

にもかかわらず、後ろ盾が国王のため、これまで誰も彼を諫めることができなかったのだろう。

その証拠に、私から褒められたセルリアンは憮然とした表情をしていた。

間違いなく彼は、文句を言われたことも、嫌味を言われたこともあまりないのだ。

「シリル、この騎士は何なのさ!?」

セルリアンは不満に満ちた表情で、シリル団長に苦情を言った。

いつの間にか、おかしなしゃべりかたでなくなっている。

道化師の発言は価値のないものとして、得てして無視されるものだけれど、礼儀正しいシリル団長は丁寧に答えを返していた。

「フィーアは我が第一騎士団の騎士ですよ」

「騎士って、ただの騎士のわけがないだろう!! ルーア語を知っているなんて、言語学者か何かじゃないの!?」

勿論そんなものじゃないことは百も承知だろうに、シリル団長は生真面目な表情で尋ねてきた。

「フィーア、そうなのですか? あなたは騎士だとばかり思っていましたが、言語学者でもあったのですか?」

従順なる部下である私は、シリル団長の遊びに付き合うべく、わざとらしく片手を頬に当てると、戸惑ったような表情を浮かべた。

「まあ、私が言語学者ではないかですって?」

それから、表情を一変させると、ふふんと馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「勿論違いますよ! ルーア語程度、教養の範囲です!!」

私の返事を聞いたシリル団長は、間違いなく目の前で噴き出した。

にもかかわらず、すぐに生真面目な表情に戻ると、「失礼しました。私も喉に何か詰まっていたようです」と口にして、あくまで喉の調子が悪かっただけだと主張した。

まあ、一体どこまで茶番を続けるつもりなのかしらと思い、責任者であるはずのローレンス王に視線をやると、彼は目を真ん丸にしたまま、驚いたようにこちらを凝視していた。

そのため、私はますます分からなくなる。

今回の面談は、一体どこまでがゲームなのかしらと。

首を傾げる私の前で、セルリアンは右手を上げると、がしがしと頭をかいた。

それから、苛々とした様子で体全体を動かす。

その様子を見つめていたところで、私はふと気が付いた。

あら、セルリアンは左手が動かないようだわと。

身体に傷を負い、選択できる職業の幅を狭められた結果として道化師になる者は多い。

そのため、身体に不自由さを持つ者が道化師に多くいることは当たり前で、特におかしな話ではないのだけれど、セルリアンの動かない左手は私の意識を捉えた。

なぜなら彼の左手には、呪いがかけられていたからだ。それも強力な。

基本的に、私は掛けられた呪いを見た瞬間、頭の中に術式が浮かぶ。

初めて見る呪いでも、類似の呪いの術式を頭に浮かべ、そこからパチリパチリと頭の中で足し引きをして、術式を組み立てていくのだ。

そして、大体において、初見で組み立てられない術式などないのだけれど……彼の呪いは、全く術式が浮かばなかった。

解けるイメージが湧かないのだ。

こんなことは初めてだったため、困惑してじっと彼の顔を見つめる。

すると、むっとした表情のセルリアンと視線が合った。

「……何だよ? 何か言いたいことでもあるのか?」

「いえ……何でもありません」

どういうことだろう。

300年経つ間に、私の知っているものとは全く異なる強力な呪いが生み出されたのだろうか。

あるいは、私の腕が落ちてしまったのか。

どちらにしても、呪い1つ解けないようでは私の聖女としての能力はまだまだね。

そう思い至った私は、途端にしょんぼりと項垂れてしまい……

「フィーア、どうしたのですか? もしかしてセルリアンに口汚い言葉を掛けられたことで、気鬱になったのですか?」

目ざとく私の状態に気付いたシリル団長から、心配そうに尋ねられた。

私は大丈夫だという意味を込めて大きく首を横に振ったけれど、―――なぜだかセルリアンの口が悪いがために、私に元気がなくなったという話になってしまい、セルリアンから謝罪を受けた。

「僕は女性を傷付ける趣味はないから。だから、……僕が原因で元気がなくなったとしたら、悪かった」

そう言うと、セルリアンはぺこりと頭を下げた。

どうやらセルリアンは生意気だけれど、可愛いところもあるようだ。