軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

143 王様ゲーム4

国王の中には、道化師を好んで側に置く者がいるという。

なぜなら道化師は愚か者という建前のもと、国王相手でも無礼な発言や批判をすることが許されており、それを好む者がいるからだ。

他方、道化師の無礼な物言いを許容することで、国王の度量が広いとの印象付けに役立つ側面もあるらしい。

確かにセルリアンは好き勝手に振る舞いそうだけれど……と考えていると、正にその年若い道化師が、私を指差してけたけたと笑い始めた。

「フィーア、あんまりできが悪いとー、サヴィスとシリルに捨てられるぞー」

騎士団トップであるサヴィス総長と、筆頭騎士団長であるシリル団長の名前を敬称なしで呼び捨てている。

え、さすがにそれはやり過ぎじゃないかしら、と思って2人を振り仰ぐと、全く表情を変えないサヴィス総長とシリル団長がセルリアンを見下ろしていた。

セルリアンから視線を外しているのであれば、道化師ごときの発言など聞いていない、とのスタンスを取っていると見做すことができるだろう。

けれど、これだけしっかりセルリアンを見つめていれば、発言を聞いていながら無礼な態度を受け入れていることの意思表示だ。

まあ、この2人は道化師に対してこのような態度を取るのねと、少々意外に思ったけれど、国王の態度に準じているだけかもしれない。

場が混乱の様相を呈してきたため、一体私はどうすべきかしらと迷っていると、呆れたような低い声が響いた。

視線を移すと、セルリアンの隣で大きく脚を広げて階段に座っていた道化師が、膝の上で頬杖を突いた行儀の悪い姿勢で、セルリアンの言葉に反論していた。

「いやいやー、1人だけ遅れて面談だなんてー、かんっぺきに特別扱いじゃーねーかー。コレ、お気に入りだーよー。フィーアは訓練中も北に、南に、中央の別の騎士団に、と大人気だったからー、騎士ってのはー、こういうのが好みなんだーよー」

どうして私の動向にこれほど詳しいのかしらと、驚いて目を見開いていると、その道化師は片手をひらひらと振ってきた。

「こんにちはー、ロンだーよー」

そして、自己紹介をしてくれた。丁寧だ。

思わずぺこりと頭を下げると、ロンからおかしそうに笑われる。

彼は精悍な顔立ちをした、体格のいい男性道化師だった。

猫の耳がついた頭巾をかぶり、黄色とオレンジを使用したブチ柄の全身タイツを被った上から、星を模したような飾りを首回りや腰に幾つも付けている。

小柄な女性がやったら可愛らしく思えるかもしれないけれど、ロンがやったら「ああ、道化師ですね」としか言えない格好だった。

うん、派手だなーと思っていると、その隣にいたさらに派手な道化師がカールした長い髪をばさりと後ろに払った。

「うふふふふー、こんなに非力そうな騎士をあちこち連れまわすのはー、自分をよりよく見せたい騎士たちがー、比較対象とするためじゃーないーのー? それでー、相対的に立派に見える騎士たちはーご満悦ってーわけーよー。うーん、騎士団って邪知深いわよーねー」

全く嫌味が効いている。

発言内容は騎士団全体に対する痛烈な皮肉であり、そのことに気付いていないサヴィス総長とシリル団長ではないだろうに、それでも2人は沈黙を守っていた。

「こんにちはー、ドリーよー」

最後に名前を名乗ってきた派手な道化師は、女性的な顔立ちをした背の高い男性だった。

ありとあらゆる色が雑じった被り物を着用し、その上から鳥の飾り羽根のようなものがぴこぴこと頭や肩から飛び出ている。

ローレンス王の趣味なのか、3人ともそれぞれタイプは異なるものの全員が美形だった。

そのことに気付いた私は、はっと閃くことがあって口元を押さえる。

……そっ、そういえば入団時に、国王は女性を愛せないとの話を聞いたことがあったわよ!

まあ、ということは、このように見目麗しい男性たちを周りに侍らすことが、国王の趣味なのかしら?

大きく目を見開いてローレンス王を見つめてみたけれど、そんな質問をするわけにはいかない。

私の視線は国王と道化師たちの間を何度か往復した後、間違いない、これは国王の趣味だと結論付けた。

なぜなら3人の道化師たちは、それぞれ趣が異なった文句なしの美形だったからだ。

私は王様でないから気持ちは分からないけれど、見目麗しい者たちを周りに侍らすのは楽しいに違いない。

だからこそ、道化師たちがサヴィス総長やシリル団長を呼び捨てることを見逃されているのだろう。

そう、恐らく私の推測は間違っていない。居並ぶ国王の側近や騎士たちの誰もが道化師たちの無礼を咎めないのは、彼らが国王のお気に入りだからだ!

私は10割の確信でもって、自信満々に3人の道化師たちを見つめた。

私の後ろでは、どういうわけかシリル団長がげんなりした表情をしている。

大丈夫ですよ、私はこの場を見切りましたと頷いてみせると、死んだ魚のような目で見つめ返された。はて。

首を傾げる私を、3人の道化師たちがにやにやとした薄ら笑いを浮かべて見つめている。

そんな3人を目にし、まあ、本当に道化師らしい道化師たちねと、私は心の中で考えた。

―――そもそも、自由闊達な発言は道化師の特権ではあった。

頭が弱い者として扱われている道化師たちは、どんなに無礼な物言いをしても許されるからだ。

なぜなら彼らは自分たちの発言を理解していない、可哀想な人たちと思われているのだから。

―――ただし実際は、王が自分のカードとして手元に置いている者たちなので、優秀で有能なのだろうけれど。

そして、実際に切れ者ぞろいなので、回転の速い頭脳を持ち、権力を風刺したような皮肉を次々と口にできるのだけれど。

残念ながら、たいていの者はそのことに気付いていない。

セルリアン、ロン、ドリーの3人を見ても分かるように、皮肉が効きすぎていて本旨を理解できる者が少ないことに加えて、訛りのきつい発音を使うことで、「言葉も上手く話せない田舎者」という第一印象を持たせることに成功しているからだ。

その発音自体も非常に風刺が効いているのだけれどと思った私は、これは案外手の込んだ遊びだわと心の中で考える。

それから、これも国王のお試しの一環なのだろうか、と。

すると、私の様子を観察していたセルリアンが、馬鹿にした様子で話しかけてきた。

「へっえー、フィーアは何でも顔に出るタイプかと思ったけーどー、案外腹芸が上手いのかなー? 僕のしゃべりかたが変だってー、馬鹿にしないんだーねー」

直球で尋ねて来たセルリアンに、私は呆れた思いで問い返す。

「馬鹿にしてほしいんですか?」

「んー?」

「もしも私があなた方の口調を馬鹿にしたら、今回ばかりは口に出すことなく、私が馬鹿にしたことをあなたはお腹の中で馬鹿にするんですよね?」

「えっえー? どういうことー?」

あくまでしらを切り通すセルリアンに対し、私ははっきりと確信的な言葉を口にした。

「あなたの話し方は、ナーヴ王国の言語の基となったルーア語へのリスペクトですよね?」

「え……?」

セルリアンがぽかんとして口を開ける。

その表情を見て、セルリアンはこれまで何回となくこの遊びをしてきて、そして、これまで誰からもルーア語だと指摘されなかったのだろうと推測する。

多分この子は、物凄く頭がいいのだ。

そして、本人もそのことを分かっていて、だからこそ皮肉を効かせた今の口調を考え付き、その口調を使い続けることで周りの大人を馬鹿にしていたのだろう。

―――恐らく、この子が王の側近だ。

国王がセルリアンにだけ発言を求めてきたのも、そういうことなのだ。

私はセルリアンが分かり切っていることを、あえて丁寧に説明する。

セルリアンたち道化師が集団で行っている、たちの悪いゲームを戒めるために。

恐らくこのゲームを始めたのはセルリアンだろうから、成人している私が大人として子どもを窘めなければいけないわねとの気持ちとともに。

「ルーア語は母音と語尾を大事にする言語でしたが、ナーヴ王国に取り入れられる過程で、それらを強調しない発音に変わっていきました。あなたの話し方は、ルーア語の元々の使用法を尊重して、現在のナーヴ語の母音と語尾にアクセントを置いていますよね」

私はそこで一旦言葉を止めると、より印象付けるために、不自然なアクセントを加えて発声した。

「 セ(・) ル(・) リ(・) ア(・) ン(・) で(・) し(・) た(・) ら(・) ー(・) 、 と(・) っ(・) く(・) に(・) ご(・) 存(・) じ(・) の(・) こ(・) と(・) で(・) ー(・) し(・) ょ(・) ー(・) が(・) ー(・) 」

話し方を完璧に模倣されたセルリアンは、開いていた口を閉じると、顔をこわばらせて私を睨み付けてきた。

そのため、よしよし、よく私の話を聞いているわねと考えた私は説明を続ける。

「ナーヴ語が出来て数百年の間に色々な変更が加わりました。そのため、現在のナーヴ語は元のルーア語と大幅に異なるものになっています。ルーア語のルールを知らない人には、あなたの話し方が大変個性的に聞こえるでしょうけど……元のルーア語を知る人にとっては、とても美しく響きます」

「……………………………………………………」

セルリアンは返す言葉がないようで、無言のままぐっと唇を噛み締めていた。

私はそんなセルリアンを邪気のない表情で見つめる。

けれど、心の中では、よくも我が騎士団が誇るサヴィス総長とシリル団長を馬鹿にしてくれたわね、とふつふつとした怒りを感じており、そのため、彼が最も口にされたくないであろう言葉を分かっていながら口にした。

「さすがですね、セルリアン! 物凄く有能ですこと!!」

そう言うと、私はわざとらしくも称賛するような表情を浮かべたのだった。