軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 王様ゲーム2

翌朝、私は幸せな気持ちで目が覚めた。

眠っている間に夢を見たとしても、目覚めた時には全て忘れているものだけれど、なぜだかその日は断片的に覚えていて、しかも、その内容が前世の懐かしくも楽しい思い出だったため、心がほっこりと温かくなったからだ。

「シリウスの剣と一緒に眠ったから、シリウスの夢を見たのかしら?」

夢の中の彼は、珍しいことに私の外見に言及していた。

『……お前はいつだってその金の瞳でオレを見つめ、全てを肯定してくれるのだな。そして、オレを救ってくれる』

おかしなことを言われたわ、とこてりと首を傾げる。

私が何色の瞳をしていたとしても、シリウスのように全てを限界まで頑張り続けているのならば、全力で肯定するに決まっているのに。

『至尊なる我が王国の大聖女。お前を構成する全てをオレは守ろう。美しく輝く深紅の髪を、慈愛に満ちた金の瞳を、奇跡を生み出す白い腕を―――未来永劫守ることを、約束しよう』

……そう言えば、私のような赤髪と金の瞳は珍しい組み合わせだと、誰からか言われたのだった。

そのような珍しさがあるから、シリウスも大聖女であるセラフィーナを語った時に、髪と瞳の色に着目したのかしら。

「そもそも私の髪のように深い赤色は、『大聖女の赤』と呼ばれる珍しい色との話だったわよね。金の瞳を持つ者も多くないし、もともとレア色である2色が組み合わさることで、すごく珍しく思われるのかしらね」

そう口にしたところで、あれ、でも、そういえば髪と瞳の色の組み合わせが珍しいとの会話を交わしたのは、300年前でなく最近だったと思い当たる。

いつのことだったかしら、と記憶を辿ったところで、……あ、そうだわと思い出した。

サザランドに行く前に、サヴィス総長に『深紅の髪と金の瞳は唯一無二の組み合わせ』と言われたのだった。

赤い髪は優れた聖女の証だから、必然的に赤髪の女性の多くは聖女となるはずだ。

そのため、王族として聖女と接する機会が多いサヴィス総長は赤髪を見慣れているはずだけれど、その総長が断言するのであれば、私の色は珍しいのだろう。

なるほど、現在の聖女たちの中においても、私の色の組み合わせは滅多にないのかもしれないわね……と、私は1人納得したのだった。

―――さて、そのサヴィス総長は私が王都に戻って来てから4日後、地方の視察から帰城した。

そして、そのスケジュールに合わせて、私が国王陛下と面談する日程が定められた。

どうやら宣言通り、シリル団長は何が何でもサヴィス総長を国王面談に巻き込む気のようだ。

あるいは、少しだけ皮肉気な口をききながらも、お忙しいサヴィス総長が肉親である国王と顔を合わせる機会を得られるよう、取り計らっているだけかもしれない。

お忙しいサヴィス総長ともっとお忙しい国王だから、意図的に顔を合わせる機会を作らなければ、なかなか一緒になることはないのだから。

「以前、サザランドでシリル団長から聞いた話によると、幼い頃のサヴィス総長と国王陛下は仲睦まじいご様子だったわよね。だとしたら、今でも仲がいいのじゃないかしら?」

こてりと首を傾げて推測を口に出してみたけれど―――私がその答えを知るのは、4日後の国王面談でのことになる。

その日、私は定められていた通りに、一旦団長室に顔を出した。

「いらっしゃい、フィーア。いよいよ陛下との面談ですが、緊張でどきどきしていませんか?」

いつものように爽やかな笑顔で出迎えてくれたシリル団長は、私を見た途端に立ち上がると近寄ってきた。

「え? ええ、そうですね。国王陛下はサヴィス総長のご兄弟ですから、やっぱり黒髪の整った顔立ちをされているのかとか、非常に気になってどきどきしていますね」

「………私が聞いたのは、そういう意味ではありませんが、質問の答えは受け取りました。あなたはいつも通りということですね。では、行きましょうか。サヴィス総長とは、国王陛下の執務室前にある控えの間で待ち合わせをしていますから」

廊下を歩きながら、シリル団長は本日の段取りについて説明してくれた。

「フィーア、本日の面談ですが、目的は陛下がご自分の目で警護につく騎士を確認することにあります。陛下は非常にお忙しい方にもかかわらず、必ず1人ずつしか面談を行われませんので、本日も陛下と面談を行うのはあなた1人になります。ただし、私が所属の騎士団長として立ち会いますし、サヴィス総長にも同席いただきますので心配いりません」

「はい」

「陛下は恐ろしい方ではありませんし、新規配属の騎士を見極めたいと思われているだけですので、普段通りに接していただいて結構です」

「はい」

返事をしながら、国王が私を見極めたいというのならば、何かテストのようなものがあるのだろうかと考える。

そもそもお忙しい国王が、新規配属者を1人1人相手にすること自体が異例なのだ。

ただ漫然と会話を交わすだけの面談では済まないだろう。

ちらりとシリル団長を見つめると、大丈夫だというかのように微笑まれた。

「国王陛下は色々と試してこられるところがあるかもしれませんが、訓練修了の確認だと思って、できるだけお応えしてくださいね」

どうやら実際に、色々と試されるらしい。

どれくらい試されるのかしらと考えながらシリル団長を見つめてみたけれど、普段通りの穏やかな笑顔でみつめ返されただけだった。

……ダメだ。完璧なるポーカーフェイスで返されてしまった。

どうやらシリル団長は、これ以上説明する気がないようだ。

国王との面談に裏があるのか、それとも、自分を護衛する騎士たちの人となりを見極めたいとの純粋な興味からの面談なのかが不明だけれど、シリル団長からできるだけ国王にお応えしてくれと言われたのであれば、やれるだけのことをやるしかないだろう。

そうは言っても、面談内容についてはノーヒントなので、どこまできちんと対応できるか分からないけれどと考えている間に、国王の執務室に到着してしまう。

隣にある控えの間で待っていると、しばらくしてサヴィス総長が入室してきた。

総長は私を見ると、驚いたかのように片方の眉を上げた。

「フィーア、今日の面談相手はお前か」

どうやら総長は、本日の面談相手が誰なのかを伝えられていなかったらしい。

驚いた様子のサヴィス総長に構うことなく、シリル団長は涼しい顔で口を開いた。

「ええ、フィーアは先週まで北の地で特別任務に就いていましたので、1人だけ面談時期が遅くなりました。おかげで、サヴィス総長にご同席いただける栄誉に恵まれましたので、彼女も心強いことでしょう」

何とも言えない表情で私を見つめてくるサヴィス総長に対し、シリル団長がさらに言葉を付け加える。

「それに、陛下とフィーアが面談を行う際には、サヴィス総長も同席を望まれるだろうと推察していましたので、丁度いいかと思いまして」

シリル団長の言葉を聞くと、総長は肩を竦めた。

「さすがに今日の面談では、何も起こりようがないだろう」

「それは結構ですね。彼女の所属する騎士団の団長としては、何も起こらない方がありがたいことですから」

サヴィス総長はため息を一つ吐くと、大きな手をぽんと私の頭に乗せてきた。

「フィーア、何かあったとしてもオレとシリルが後ろにいる。国王との面談だからといって、竦む必要はない」

総長の慰めるような表情から、私が何事かを失敗すること前提で話をされているような気持ちになる。

どういうことかしらと思ったものの、騎士団総長から一介の新人騎士に対する言葉として、過分なものをいただいたことは間違いないため、私はにこりと笑顔になると、元気よく総長に返事をした。

「了解しました、総長! 普段通り礼節をもって対応いたします」

「……まるでフィーアの普段の行動が、礼節をもった応対であるかのように聞こえますね。言葉とは難しいものです」

疲れたようなシリル団長の呟きは、疲れているがゆえの世迷い言だと判断して聞き流すことにする。

しばらく待っていると、青と金の侍従服を着用した国王の侍従が、時間だと呼びに来た。

サヴィス総長を先頭に、シリル団長と私が続く。

大きな扉が開かれた先には、広い部屋が広がっていた。

部屋の最奥に豪奢な執務机が置いてあり、1人の男性がゆったりと椅子に座っている。

正式な挨拶を交わすまで顔を見てはいけない、と視線を逸らしながら歩を進めるけれど、その煌びやかな姿は否が応でも目の端に入ってきた。

興味深そうな様子でこちらを見つめているのは我がナーヴ王国の国王―――三重冠を戴いた、きらっきらのローレンス・ナーヴ陛下その人だった。