軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 二紋の鳥真似7

「あらあら、カーティスったら! たった3人で魔人を倒したことに感極まって、地面に平伏したくなったようね。あっ、そういえば、前に本で読んだことがあるわ! 過去にも紋付きの魔人を倒した騎士が、興奮のあまり地面に寝そべるとともに、周りにいる人々を『殿下』とか『騎士総長』とか、自分の上官として敬いたがった事例を」

「……えっ?」

私の言葉を聞いたブルーは驚いたように目を見張ると、小声で兄と相談を始めた。

「兄さん、これは私たちも地面に跪くよう暗示されているのかな?」

「あ、そういうことか! 確かにフィーアの女神としての御業は、膝を折るに値する物凄いものだったからな」

それから、2人は納得したかのように頷き合うと、流れるような動作で地面に片膝を突いた。

「え?」

2人の真剣な表情から、嫌な予感しかしない。

何を始めるつもりなのかしら、と用心深い表情で見つめると、2人は顔を伏せたまま胸に手を当てた。

「『創生の女神』におかれましては、高貴なるお姿を再び顕在いただきましたこと、心より感謝申し上げます」

「女神の御力により、邪悪なる魔人を封じることが叶いました。その稀有にして至高なる御力をお貸しいただきましたこと、伏して感謝申し上げるとともに、女神の御心に私どもの行いが反していないことを希求するばかりです」

「それかああああ!」

私は思わず声を上げた。

なるほど、そうきたか!

前回の冒険時、別れ際に付き合わされた『創生の女神』ごっこが、再び始まるとは予想外だったわ。

あの時も格上の魔物を倒し、いざ解散しようとした時になって、レッドを含めた兄弟3人で地面に跪くと、私のことを『創生の女神』と呼びだして、馬鹿丁寧な言葉遣いで難しいことを言い始めたのよね。

この帝国特有の文化は馴染みがないものだから、彼らの行動が理解できなかったのだけれど、分からないと口にするのは野暮な気がして、3人の会話に付き合ったのが悪かったのだわ。

おかげで、今回も同じことを始められてしまった。

何が発端かしらと、前回との共通点を考えていたところ、突然閃く。

……あっ、分かったわ!

もしかしたら、帝国では強い敵を倒した時、女神に感謝を示す意味で、手近にいる女性を女神に見立てて会話をするのじゃないかしら。

前回と今回の両方とも、全ての条件がぴたりと当てはまるため、正解を引き当てたような気持ちになる。

……なるほどね。だとしたら、ちょっとくらい2人の要望に応えるのが優しさよね。

私はできるだけ上品そうな表情を作ると、よそ行きの声を出した。

「よく頑張りましたね。初めて対峙する紋付きの魔人を相手に見事なものです」

「「女神にお褒めいただくとは、恐悦至極に存じます」」

私の言葉にうっとりとした表情を浮かべる2人を見て、まあ、本当に嬉しそうよ、2人ともとっくに成人しているのに、こんなごっこ遊びに夢中になれるのねと驚く。

それから、いやいや、帝国の文化では当たり前の行動かもしれないわ、尊重しないと、と思い直して言葉を続ける。

「帝国の誰もが、あなた方を誇りに思うでしょう」

グリーンとブルーは驚くほど素直に私の言葉を受け入れるようで、即座に頬を染めた。

大の大人が、しかも、美形の大男2人が跪いて頬を染めるなんて、滅多にない光景だこと、とおかしく思う。

けれど、すぐに主目的を思い出して、表情を引き締めた。

そうだったわ。そもそもの目的は私の能力を怪しまれないよう、誤魔化すことだったわよね。

私はきりりとした表情を作ると、2人を見つめる。

「ところで、2人に大事なことを言います。私が聖女の力や、その他おかしな力を使えたのは、一時的なものです! 呪いの効果が切れたら、すぐに使えなくなりますからね」

納得してもらうために説明を続けようとすると、それより早く、2人は当然といった表情で肯定した。

「「承知しております」」

「え、承知しているの?」

ともに冒険をした仲間だからか、いつの間にかこの2人から絶大な信頼を勝ち取っていたようだ。

あるいは、女神役が口にすることは何でも受け入れるようなルールなのか。

いずれにせよ、受け入れられたことにほっとしながら、撤回される前に話を終わらせる。

「よかった、約束だからね。じゃあ、そういうことでおしまいです」

それから、グリーンとブルーの手を掴み、ぐいっと引っ張って地面から立たせる。

私よりも随分目線が高くなった2人を見て、やっといつも通りになったわねと感じた私は微笑んだ。

「でも、グリーンもブルーも、魔人と対峙したのは初めてだったでしょうに、紋付きを倒すなんて凄いわね! 命のかかった局面で退かない勇気、冷静に状況を判断できる洞察力、攻撃職としての高い技量、全てがハイクラスだわ。あっ! もしかして……」

突然閃いて、浮かんだ言葉を口にしようとすると、2人が勢い込んで言葉を被せてきた。

「そう! そうなんだよ、フィーア!」

「ああ、いくらお前の希望だからとはいえ、黙っていることは心苦しかったが、オレらは帝国の皇……」

「帝国! その通りよ! もしも2人が帝国の騎士団に入団したら、優秀な騎士になれると思うわよ」

「え?」

「帝国騎士……?」

勢い込んで話を始めた2人だったというのに、なぜだか一瞬にして、脱力したかのような表情に変わる。

帝国騎士はエリート職だから、怖気付いたのかもしれないわね、と考えた私は、2人が自信を持てるようにと勢いよく肯定した。

「ええ、立派な帝国騎士になれるわよ!!」

けれど、2人は元気が出る様子もなく、微妙な表情を浮かべた。

「あー……、帝国騎士か。フィーア、お褒めいただきありがとう」

「ああ、……できるだけ頑張ろう」

あれれ、私にとって騎士は1番の憧れの職業だけど、この2人にとってはそうでもないのかしら?

苦虫を嚙み潰したような表情をしている2人を不思議に思い、首を傾げていると、後ろから呆れたようなザビリアの声がした。

「フィーアは意図することなしに、自ら迷宮を作り出して、迷い込むタイプだよね。フィーアを通して、この2人があなたに傾倒していることを理解していたつもりだけれど、実際に目にすると、現状は想像の何倍も酷いね」

「へ?」

何を言っているのかしら、とザビリアを振り返ると、彼は片方の翼をばさりと広げてみせた。

「厄介なのは、この2人の根拠のない推測がほぼ正解を引き当てていて、フィーアが何者なのかを理解していることだよね。それも、嫌になるくらいに手足となる駒を持っていて、関わるほどにフィーアに魅かれていく様子だから、問題は複雑になるばかりだね」

「えーと」

ザビリアったら、もう少し私にも分かるように話をしてもらえないかしら。

「僕がちょっと黒嶽に戻っていた間に、何でこんなに面倒くさいことになっているんだろうね。やっぱりフィーアから目を離すものじゃあないね」

意味は分からないながら、そこはかとなく貶されているような雰囲気を感じ取ったため、苦情を申し入れようと口を開きかけたところ、ふと頭上が陰った。

同時に、大きな羽ばたきの音が真上から聞こえてくる。

驚いて視線を上げると、赤、青、黄といった色取り取りの竜たちが集団で旋回していた。

「え? 何事!?」

思わず声を上げると、ザビリアが諦めたようにため息を吐いた。

「ああ……やっぱり来たか」

何が起こっているのかを理解しているようなザビリアに、尋ねるような視線を送ると、片方の翼をぴこぴこと振られる。

「『封じの箱』も魔物も、嗜好は同じってことだよ」

「え?」

「僕は全ての竜に動かないようにと命じてきたのに、誰も言い付けを守らなかったってことだ。どうやら僕の命令より、もっと魅力的な誘惑にあらがえなかったようだ。たとえば……甘い甘い聖女の血の匂いとかね」