軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

132 二紋の鳥真似6

「……フィー様!」

一番初めに口を開いたカーティスは、明らかに何事かを物申したそうな表情をしていた。

この少人数で魔人を倒すことができたのだ。

快挙といえる素晴らしい結果に喜んでいるかと思ったのに、カーティスは青ざめた表情で、治癒したばかりの私の腕を睨みつけていた。

まずいわ、カーティスは私が怪我をすることを何よりも嫌うのだったわ。

それしか方法がなかったとしても、自ら腕を傷付けたなんて、カーティスからしたらお説教案件じゃないかしら。

よし、こうなったら正面突破だわ!

「カーティス、あなたの望み通り魔人を封じ込めたわよ。私は逆らいもせず、むしろあなたを手伝ったというのに、お説教が始まりそうな雰囲気になるのはおかしくないかしら?」

攻撃は最大の防御と言うからね。

カーティスがお説教をしてくる前に、こちらの正当性を主張して押し切ってしまおう。

そう考えた私の作戦は上手くいったようで、カーティスははっとしたように目を見開くと、開きかけていた口を閉じた。

それから、素早く私の前に跪くと、頭を下げる。

「フィー様、ご助力いただきましたことに心より感謝いたします。それから、誠に申し訳ありませんでした。フィー様に頼ることなく魔人を倒すと宣言しておきながら、肝心なところで助けていただくなど、自分を恥じ入るばかりです」

「えっ! い、いや、相手は紋付きの魔人だから、攻撃職だけで倒せるはずもないからね。カーティスの『私なしで魔人を倒す』発言は、魔人に怖気づいていた私を思いやっての言葉だと分かっているから、カーティスが気にする必要はないわ」

深く反省している様子のカーティスに、慌てて言葉を返す。

まずいわ、相手は忠義者のカーティスだった。作戦が上手くいき過ぎて、謝罪をされてしまったわよ。

申し訳なく思ってカーティスに視線をやると、彼は心から後悔しているような表情を浮かべていた。

「その通りです。魔人と対峙するだけで、フィー様が苦しみを感じられることを分かっておりましたのに、結局はフィー様の御力に頼るなど、愚臣の極みです」

「ぐ、愚臣!?」

カーティスの言葉にぎょっとして、思わず大きな声を出す。

私はもう王女でないのだから、その単語選びは間違っているわよね。

後ろで聞いているグリーンとブルーに怪しまれるじゃない。

「き、気を確かにもって、カーティス騎士団長様! 私は入団したばかりの1年目の騎士ですよ。はっきり言って、私の方が何段も下の役職ですからね」

カーティスに現状を思い出してもらおうと発言したにもかかわらず、私の言葉を聞いたカーティスは、痛みを覚えたかのように顔を歪めた。

「敬語を使われるなど、普段通りに口を利きたくないほどにお怒りですか? ああ、私はいつだって間違いなくあなた様の臣下です。ご冗談でも、そのようなことを口になさらないでください」

「い、いや、冗談ではなく事実……」

必死で言い募ろうとする私の両手を掴むと、カーティスは深く頭を下げ、「勘弁してください」と呟いた。

弱り切ったカーティスの様子を見るに、まるで私が悪者のようだ。

え? え? これ、おかしくないかしら??

誰がどう見ても私は新人騎士で、カーティスはサッシュを身に着けることを許された騎士団長だというのに、どうしてカーティスは私の臣下だと言い張るのかしら。

絶対に私が正しいのに、これほど憔悴した様子のカーティスに対して正しさを主張し続けたら、まるで鬼の所業のように見えるわよね。

ええ? カーティスが言い張っている、彼は私の臣下だという主張を受け入れなければいけないのかしら?

いや、おかしいから!

ブルーがぼそっと、「これを受け入れてもらえないとしたら、カーティスは辛いな。私なら泣いてしまう」とか呟いているのもおかしいから。

ブルーの言葉に同意するかのように、グリーンが大きく頷いているのもおかしいからね。

全員が!

この場の全員がおかしいがために、完全なる常識派の私が非常識のように扱われている状況って何なのかしら!?

最後の砦とばかりに、救いを求めてザビリアを見つめると、軽く肩を竦められる。

「僕が思うに、カーティスがフィーアの前に跪いた時点で止めるべきだったんじゃないかな。彼があなたに関して極端な行動に出ることは、分かっていたでしょう?」

……確かに、言われてみたらその通りだけれど。

カーティスがこと私に関して、極端な行動に出ることも、全く聞く耳を持たないことも、ザビリアの言う通りだけれど。

でも、口を開いた時点では勝ち戦だと思っていたし、カーティスが跪いた時点でも、まだまだ私に分がある、勝てると思っていたのよ。

ど、どこで形勢が逆転したのかしら?

視界の端で、グリーンとブルーが困惑した様子でこちらを見つめているのが分かる。

ああ、あの2人にはカーティスが常識人に見えているから、彼の発言にはきちんとした根拠があると考えているはずよね。

カーティスが私の臣下だと言い張る理由を確認されたら、どうすればいいのかしら。

あ、というか、この2人に対して、私は散々聖女の力を見せつけたわよね。

一般常識として、聖女の能力は怪我や病気を治すことだと思われているから、私が行使した魔法は聖女の能力の範疇を超えているように2人には思われたはずだ。

実際には、聖女の能力の範疇なのだけれど、前世でも私しか行使できなかった魔法だから、聖女の能力だと納得させるのは難しいかもしれない。

……いや、いけるかしら?

そもそも私は再び呪いに侵され、聖女の力が使えるようになったとの話を2人は信じているはずだから、説明の仕方によっては理解してもらえるかもしれない。

ただ、その説明自体をカーティスに考えてもらうつもりだったのよね。

私は一縷の望みを持ってカーティスに視線を移す。

カーティスは両手で顔を覆うと、地面にひれ伏さんばかりに頭を下げた姿勢で項垂れていた。

……ダメだわ。カーティス自身がぺちゃんこになっているから、上手い言い訳を考えてもらうのは無理そうね。

ああ、ということは私が自ら申し開きをしなければいけないのかしら。

うーん、この2人は案外単純だから、騙されてくれそうな気もするけれど。

そう希望的観測を抱くと、私はできるだけ明るく聞こえるような声を出した。