軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【挿話】紋持ちの魔人 中

「お前は、人では、ない」

少女から謗られたカーティスは、食いしばった歯の間から1語1語区切るように言葉を吐き出した。

胸に大きな剣を突きさされたままの少女は、そんなカーティスを馬鹿にしたように見やる。

「もちろん、人間だよー? 角はないし、血は赤い。ほーら、奇跡的にまだしゃべれるけれど、心臓を刺されたんだから、もうすぐこと切れるよ。あーあ、短い人生だったなー。思い残したことしかない」

それから、少女は胸に突き刺さったままの剣に視線をやると、まるで枕ででもあるかのように頭をのせた。

「ふー、いよいよ疲れてきた。最期の時がきたのかな。……そこの2人のお兄さんたち、私がこの水色の髪のお兄さんに殺されたことはきちんと領主様に報告してね。ああ、……走馬灯が……」

その言葉を最後に少女は暫く沈黙していたけれど、再び口を開く。

「……うあー、時間が掛かるな。……300年分を振り返るのは、骨が折れるよねー。っと、しゃべりすぎか。……ぴぴぴぴぴ」

少女は鳥の鳴き声のような声を出すと、乗せていた剣からむくりと頭を起こし、胸に刺さった剣を指差した。

「ねえ、もう結構な血が流れたから、さすがに私は死んだはずだよ。だから、この剣を抜いてもらえないかな?」

けれど、力を込めて剣を握った様子のカーティスが一言も答えない様子を見て、何かに思い当たったように問いかける。

「あれ? 抜けないの? いよいよ死後硬直が始まったのかな。ああー、ということは、私は完全に死んじゃったね。はい、死亡確定。そして、人殺しの出来上がりー」

それから、少女は大きく足を後ろに踏み出すと、一歩下がることで、ずるりと体から剣を引き抜いた。

同時に、剣を持ったカーティスが後ろに飛び退る。

栓代わりになっていた剣が抜けたことで、少女の左胸からどくどくと勢いよく血液が溢れ出した。

けれど、その色はすぐに赤から黒に変化した。

少女が無造作に片手で胸元を拭うと、手のひらにべったりと黒い液体が付いてくる。

その色を見て、少女はにやりと唇を歪めた。

「ああー、刺されてから時間が経ったから、血液が変色したみたいだねー。ぴぴ、ぴ、真っ黒い血だなんて、まるで人じゃないみたい」

それから、おかしそうに声を上げて笑い出す。

「ぴぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、…………」

その奇妙な笑い声に不吉なものを感じ、3人はさらに一歩後ろに下がると、間合いを広げた。

その姿を見て、少女はさらに笑い続ける。

「ぴぴぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ…………」

少女が笑い声を上げながら、穴があいていた胸元をぐっと掴むと、驚くべきことに、みるみるうちに傷が塞がっていった。

少女は愉快そうに塞がった胸元を見下ろすと、手に付いた黒い液体をべっとりと自分の頬にこすりつける。

「ぴぴ、ぴ、私の笑い声は気にしないでね。初めに暮らした家族がくそったれだったから、3秒で皆殺しにしたんだけど、しばらくはその家の中に籠っていたんだよねー。人間はみーんな殺しちゃったから、家の中には飼われていた鳥しか残っていなくって。だからさー、『三つ子の魂百まで』ってやつ?」

少女は手に付いた黒い液体をぺろりと舐めた。

「言葉を覚えるべき最初の時期に一緒にいたのが鳥だったから、笑い声が鳥みたいになっちゃったんだよねー。ぴぴぴぴぴ、だからかな? 皆から、『鳥真似』って呼ばれているんだよねー。安直でしょう?」

顔を上げた少女の黒目部分が広がっていた。

白目の部分がほとんどなくなっており、人間の顔の基準から外れすぎていて違和感を覚える。

そのため、少女の姿を目にした3人の背筋を、ぞくりとした悪寒が走った。

どくり、どくりと激しく脈打ちだした心臓を意識しながら、グリーンが禁書の中で目にした単語を呟く。

「鳥真似だと? お前は、……魔王が封印された際に姿を消した魔人のうちの1人、『二紋の鳥真似』か?」

少女は目を細めると、ミルクを前にした猫のような表情で笑った。

「……ご名答。300年間姿を現していないのに、正しく呼ばれるとは光栄だな」