軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【SIDE】アルテアガ帝国皇弟グリーン=エメラルド

オレがフィーアに抱く感情を理解することは、誰にもできないだろう―――全く同じ境遇で同じ体験をした、兄であるアルテアガ帝国皇帝を除いては。

アルテアガ帝国はナーヴ王国と大陸の勢力を二分する大国だ。

歴史は古く、支配が及ぶ土地は広く、治める人民の数は多い。

その帝国の正妃の子として、兄のルビー、オレ、弟のサファイア、妹の4人は生まれた。

母は古き血筋を持つ由緒正しい家柄の出身で、その腹から生まれたオレたちの立場は絶対的だった―――もしも、呪いにさえ侵されていなければ。

父の側妃に呪いを掛けられたため、オレと兄は生まれた時からずっと、常に顔面から流血していた。

それが常態だったため、そのようなものだと受け入れてはいたけれど、いつだって痛みが伴い、青白い顔をして、体の力が抜けていた。

対する帝国の忠臣たちは、オレたちの状態に同情するでもなく、だからこそ皇位は継げぬものだと切り捨てた。

敷地の外れに形ばかりの離宮を与えられ、母と呪いで眠り続ける妹とともに、兄弟3人で寄り添って暮らす日々。

長じるにつれて、オレは理解した。

母から与えられたのは、立派な肉体だったと。背が高く伸び、体中に肉が付き、鍛えればどこまでも鋼のようになる滅多にない肉体だったと。

頭脳も同様だ。本を読めば面白いように吸収でき、いくつもの言語を苦も無く覚えることができる、滅多にない優れた頭脳だったと。

だというのに、生まれた時から侵された呪いにより、オレは与えられたものを活かすこともできず、物の数にも入らないのだ。

何者にもなれないと、始めから切り捨てられている。

ああ、オレは何一つ重要な役割を果たすことができずに死んでいくのだと、年月を重ねるごとに諦めの気持ちが深まっていったのだけれど―――ある日、突然、世界が塗り替えられた。

それまでオレを覆っていた靄が吹き飛ばされ、世界がきらきらと輝き始めたのだ。

そして、茫然と立ち尽くすオレに対し、世界を一瞬で変化させた女神は、いたずら心に満ちた表情で背中を押してくれた。

『あなた方に、道を切り開く力を与えました。これで、あなた方は、何でもできますよ』

―――その通りだった。

オレの呪いは瞬きほどの時間で解呪され、そのことを知った帝国の忠臣たちは呆れるほどに手のひらを返してきた。

『あれほどの呪いを解呪できるなど、間違いなく女神に出逢われたに違いありません! ああ、「創生の女神」はあなた様方が皇統を継ぐことをお望みなのです!!』

『素晴らしいことでございます! 私たち一族は、全力でルビー皇子が皇帝位に就かれることをご支援いたしましょう』

たった一瞬で、世界は塗り替えられた。

持つことを許されなかった多くのものが、何倍にもなって手の中に戻ってきた。

その瞬間に感じたのは、体中が震えるほどの感謝だ。

―――ああ、フィーア。

お前に全ての感謝を捧げよう。

オレに全てを与えてくれたお前のためならば、世界を捧げることだって出来るだろう―――……

その後、兄はアルテアガ帝国の皇帝となり、オレはそのスペアとなった。

兄に何かあった時、全てを代わる役として、帝国の皇位継承権第一位が与えられたのだ。

それは、ものすごい権力が附与された位だった。

この身分をもってすれば、世界中の全ての扉が開かれるだろう。

だから、―――フィーアがカーティスに願い事を口にする場面に出くわし、彼が実行不可能だと返事をした時、―――それこそが、オレが果たすべき役割だと理解する。

フィーアの望みは大聖堂に行き、そこに収められているはずの『魔王の箱』の存在を確認することだ。

大聖堂は世界中に散在する教会の頂点に位置し、魔人の箱が収められている最奥の部屋に入れるのは、ごく少数の限られた者のみだ。

つまり、世界に10人もいないはずで、……そのうちの1人がオレだろう。

「フィーア、オレにまかせてもらえないか?」

だからこそ、何の躊躇いもなく、オレの役割だとの自信の下に言葉を発する。

けれど、どういう訳か、オレの言葉を聞いたフィーアは驚いたように見つめてきた。

「えっ、でも、グリーン……」

戸惑うようなフィーアの態度に首を捻る。

常識では考えられないほどの奇跡の力を秘めたフィーアは、間違いなく女神が人の姿をとったものだろう。

だからこそ、オレたち兄弟がアルテアガ皇家の血筋だということはお見通しだろうに、なぜフィーアは驚いたような反応を見せるのか。

ああ、もしかしたら、この血筋をもっても大聖堂の奥の部屋には入れないとフィーアは考えているのだろうか。

……つまり、試されている?

この血統をもって、どれほどのことが出来るのかと。

知恵と勇気で、何を成せるのかと。

「なるほど、フィーア……」

だとしたら、出来得る限りのことをして、最上の結果で応えるだけだが。

「お前の依頼は承った」

真面目な表情で頷くと、フィーアは心配そうに言葉を重ねてきた。

「え、本当に? それは、……ありがとうございます。でも、無理はしないでね」

「ああ、もちろんだ」

フィーアからの依頼だ。無理なんて、するに決まっている。

オレは必ずフィーアに最高の結果を持ってこよう。

そう心の中で決意していると、心配そうに見つめるフィーアと視線が合った。

その表情が意味するところは何だろうと考える。

―――フィーアは魔王の箱の存在について確認を求めた。

一体、何のために?

……大聖女様が魔王を封じ、世界に平和がもたらされたことは皆が知るところだ。

だからこそ、誰もが魔王が封じられていることに疑問を抱かず、魔王の箱について考えることなどなかったのだけれど、……フィーアは何かを疑っているのか? 魔王を封じた箱が大聖堂にあることを?

フィーアの懸念が意味するところに思い至り、ぞくりと背筋に悪寒が走る。

それから、全てを理解しているかのような表情でフィーアを見つめているカーティスと黒竜に視線をやる。

―――オレが気付いていないだけで、世界は危険にさらされているのか?

瞬間的に、オレは誰が見ても分かるほどに青ざめたけれど、……そんなオレを見つめるカーティスと黒竜の視線は、驚きも訝しさもなく凪いでいた。

そのため、彼らは全てを理解しており、オレの考えを肯定されたような気持ちになる。

オレはごくりと唾を飲み込むと、ぎゅっと片手を握りしめた。

……オレがこの立場にいるのは、自ら守るすべを持たない民を守るためだ。

だというのに、身近に存在する危険に気付いていないとしたら、とんだ間抜けだ。

遅まきながら、やっとフィーアの真意に気付く。

ああ、そうだ、フィーアは自らの望みのように見せかけながら、実際はオレに気付かせようとしていたのだ。

世界に危険が迫っていると。

与えられた役割を全うすべきだと。

だとしたら、大聖堂に行くのはアルテアガ帝国皇弟としての果たすべき役割だ。

オレは真実を知るために、出来ることは何でもしようと心に誓った。