軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 騎士団入団式2

一瞬にして辺りは騒然となった。

特に各団の騎士団長あたりが騒いでいる。

「なっ?! き、騎士団総長がお出ましになるだと? おい、司会! ふざけているのか!!」

「……いえ、その、これは、総長自らのご指示でございます」

「……は? だったら、相手は、オレにしろ! ぜひ、総長と戦わせてくれ!!」

「いえいえいえいえ、これは、新人騎士との模範試合ですよ。趣旨が違います。あくまでも、新人騎士が総長の胸を借りる形でして……」

「だったら! そのフィーア・ルードとやらを出せ!! 何者だ?! そもそも、新人なのに、第一騎士団所属ってのは、どういうことだ!!」

……ど、どうしよう。

全く私のせいじゃないのに、大変なことになってしまった。

ファビアンが心底同情したように見つめてくる。

「……ええと、頑張って? ……総長は、お一人でAランクの魔物を倒されたとか、敵兵千人切りをされたとか、伝説や逸話の多い方だから。そういうお相手だから、どんな結果でも気にしないでいいからね」

戦う前から、負けた時の心構えを説かれた!というよりもコテンパンにされた時の心構えか?!

「そ、そうだぞ。普通は、模範試合のお相手は、5年程先に入った先輩騎士であって、隊長クラスですらまず出てこられない。団長クラスがお相手するっていう話すら聞いたことがないのに、そ、総長って……」

「一撃だ! 一撃持ちこたえられたら、お前は勇者だ!」

妙な連帯感が生まれたようで、話したこともない同期の騎士たちからも応援されてしまう。

屠殺場に引き出される動物の気持ちになって、おそるおそる進み出てみると、集まった騎士たちがぽかんとした顔で見つめてくる。

「……は? なんだ、あの女児は?」

「え、小さいよな? アレ、総長の腹くらいまでしかないんじゃないか?! なんだよ、あのちびっ子は!!」

「そ、総長、一方的な殺戮が繰り広げられるだけです。おやめください!!」

悲鳴のような怒号が巻き起こる。

私は、もう涙目だった。

いや、無理だから。

こんなに注目を集めるとか、緊張して体が動かないから。

右手と右足が一緒に出ているのが分かるけど、戻し方が分からないくらいだから。

助けを求めるように同期が集まっていた場所を振り返ると、何と全員がいなくなっていた。

驚いて見渡すと、彼らは、新人騎士を囲むように作られていた先輩騎士の楕円の陣形に、いつの間にか加わっていた。

……ひ、ひどい。人身御供を差し出して、自分たちは観戦する気だ。

がくがくと震えながらも逃げ出すことができずに立ち尽くしていると、兄さんたちが駆けつけてくれるのが見えた。

「に、兄さん……」

私は、別の意味で涙ぐんだ。

やっぱり、血は水よりも濃いってのは本当ね!最後に頼りになるのは、肉親だわ!!

「フィーア、よく聞け! サヴィス総長と剣を交えるなんて、お前の人生における幸運全てを集めた出来事だ!! 死んでも、真っ二つになってもいいから、一秒でも長く戦うんだ」

次男のレオン兄さんが理解できないことを言い出した。

「フィーア、いいか。騎士の鉄則は、圧倒的不利な状況でも勝利をあきらめないことだ。蟻にも竜を倒すことができるかもしれない。それは、あきらめないことで初めて可能性が生まれる。分かるな」

長男のアルディオ兄さんも高すぎる理想論を語り出した。

真剣な表情で阿呆なことを語り出す二人を見て、そうだったと思い出す。

兄さんたちって騎士馬鹿だったんだ。

そして、私も、ずっと騎士になりたかったんじゃないか。その憧れの地に立てているのに、何を恐れているんだろう。

兄さんたちの(阿呆な言動の)おかげで、心がすっと落ち着くことができた私は、サヴィス総長を振り仰ぎ…私へ向かって歩いてきているのに気が付いた。いつの間にか、マントを脱いでいる。

「フィーアだな」

「ひ――、フィーアが総長に名前を呼んでもらった―――!!!」

レオン兄さんが、絶叫しながらも、総長の邪魔をしないようにとアルディオ兄さんとともに走り去っていく。

距離が離れているのに、総長の熱というか、筋肉の重さというか、押しつぶされそうな圧力というかを全身で感じ取ってしまう。

……と、鳥肌が立つんだけど。

対する総長は、1,200名の騎士たちの視線を一身に集めているというのに、微動だにしていない。20メートル程手前で立ち止まると、刀を抜いた。

「オレからは、一切攻撃をしない。全力でかかってこい」

……うわぁぁぁぁ、男前!!

歴戦の勇者なのに、きちんと私の相手をしてくれるつもりだなんて。

普通、騎士団のトップで王弟なんて身分の人は、新人騎士なんて目もくれないのに!

これは、もう、中途半端な戦いなんてできないよね。総長に対して失礼だ。

というか、周りの騎士集団に殺される!

鞘に腕をかけると、小声で呪文をとなえる。

「《身体強化》攻撃力3倍、速度3倍」

持っている剣にも効果が付与されているけれど、総長相手ではとても足りる気がしないので、限界まで自分自身を強化する。

だけど。

ちらりと総長に目をやった私は絶望的な気持ちになった。

うわ―――――……

なんだ、コレ。なんだ、これ。なんだろう、これ、人間かなぁ。

総長が化け物にしか見えん。っていうか、化け物だろう。うん、化け物だな。黒竜ザビリアみたいな、それ以上みたいな。

前世が聖女だった私は、怪我の具合を察知することと同じくらい、強さを測ることが得意なのだ。

なぜって、魔力を無駄遣いしないためにも、敵の強さをみて、その強さに応じた強度の防御魔法を展開させていたからね……

はは、これだけドーピングしたのに、私が上回っているのはスピードだけだわ……

総長の後ろに、イメージ上の竜が見える。

「不肖フィーア・ルード! 総長の胸を借りさせていただきます!!」

出来る限り丁寧に騎士の礼を取ると、声を張り上げた。

唇をぐっと噛みしめると、覚悟を決めて軽く走り出す。

5メートル程手前で突然スピードを上げると、抜刀し、全力で切りかかった。

ごきんと鈍い音がして、受け止めた総長はわずかに目を眇めた。瞬間的に総長の全身に力が入る。

――――――そうでしょう。この剣、ものすごく重いでしょう。

分かります。……切り合っている私も、同じ重さを感じていますから……

総長相手なんで、さすがに全身麻痺を引き起こす魔石は外していたけど、彼ならば気合で状態異常を吹き飛ばせるんじゃないかって思えるほどの異常な強さだ。

私は、一旦後ろに飛び下がった。

それから、総長の左、左、左と切り込み、一度フェイントで右に切り込んだ後、更に左に切り込む。

ごきん、ごきん、ごきん、と音が響く。

いつの間にか、会場が小さくざわめき出した。

……うん、剣の音が通常の切り合いと違うからね。分かる人は、剣の重さを理解しているのだろう。

「……な、なんだ、あのスピード……」

「というか、この剣戟の音! あの剣は、相当重いんじゃないか?!」

私は、もう一度後ろに下がると、助走をつけて飛び上がり、総長の左側に切りかかった。

「はぁぁっ!!」

更に左、左、左、そして左!!もう一度左!!

「ちいいっ!」

総長は、吐き捨てるようにつぶやくと、初めて剣を押し返し、その力で私の剣は弾き飛ばされた。

「……し、勝負あり! 勝者、サヴィス騎士団総長!」

判定者が高らかに総長の勝利を告げたけど、騎士たちは茫然とこちらを眺めていた。

総長は、ギラギラとした目で私を睨みつけている。

私は、地面に尻餅をついた形でへらっと愛想笑いをしてみた。

……あ、あれ?なにか、間違えましたっけ?