軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

104 ガザード辺境伯領1

「フィーア、これはただの質問なんだが、その頭の飾りは何のつもりだ?」

王都を出発してから5日が過ぎ、私たちはガザード辺境伯領への入り口となる山のふもとに到達していた。その山を越えるための旅装に着替えた私に掛けられたグリーンの声がこれだ。

私は得意げにグリーンを振り返ると、勝ち誇った声を上げた。

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたわね! じゃじゃーん、これはナーヴ王国が誇る魔物騎士団長の従魔の羽根をあしらった髪飾りです!!」

言いながら、ふわふわの飾り羽根をあしらった髪飾りが良く見えるように、頭を反らす。

魔物騎士団長の従魔とは、勿論クェンティン団長が溺愛しているグリフォンのことだ。

そのグリフォンが生え代わりの時期に落としたという羽根を貰ってきて、得意の裁縫で髪飾りを作ったのだ。

黄金色の大きな羽根を3枚使い、リボンをあしらうと、絶妙に可愛らしい髪飾りが出来上がったので、私はお披露目したくてたまらなかったのだ。

そんな私の返事を聞いたグリーンは、驚いたような声を上げた。

「髪飾り! 何だと、今はそんな奇天烈な飾り物が流行りなのか!? ああ、オレは妹に古典的でおとなしめの蝶型の髪飾りなんぞ購入しちまった。あんな物を贈ったら、時代遅れで地味すぎると馬鹿にされるに違いない!」

けれど、カーティス団長は頭を抱えるグリーンをちらりと見ると、冷静な声を出した。

「グリーン、貴殿の購入物の方が一般的には受け入れられるので、問題はなかろう。フィー様の装飾品は、フィー様の素晴らしい中身があってこそだ。フィー様にしか似合わない」

……あらあら、褒められているのに、そこはかとなく貶されているような感じを受けるのはなぜかしら?

釈然としないものを感じながらグリーンを見ると、彼は情けなさそうな表情をしていた。

「カーティス、貴殿の言うことはもっともだが、妹はフィーアに尋常じゃないほど憧れていてな。フィーアと同じものを欲しがるだろうなぁ」

言いながら、グリーンは困ったように私のぴかぴかに光る髪飾りを見た後、「いや、でも、この髪飾りを妹が付けたら、家の者たちはひっくり返るな」と呟いていた。

そうねぇ、確かに私が使用している羽根は黄金色だから、ちょっと目立つかもしれないわね。

そう考えた私は、グリーンに代替案を提示する。

「だったら、もう少し地味な色の羽根が手に入ったら、お揃いの髪飾りを妹さんに作るわね」

「何だと、お前が妹に手ずから作るだと!? お前の手作りなら、枯葉の髪飾りでも感涙するぞ! ああ、そうだな、むしろ枯葉で作ってくれ。あまりに素敵な髪飾りを贈ったりしたら、妹は嬉しさで死んでしまうに違いない」

「いやいや、枯葉の髪飾りって……。作製途中で葉っぱがボロボロになりそうだし、逆に難易度が高い要求になっているわよ」

そう言うと、私は呆れたようにグリーンを見つめた。

グリーンが妹思いなのは素敵なことだけれど、どこかズレているのよね。

そもそもどこの世界に、枯葉の髪飾りを喜ぶ妙齢の女性がいるのかしら。

そう思いながらも、私の兄さんたちと比べると、妹思いの度合いが天と地ほども異なるわねと考える。

前世でも今世でも、兄さんたちにとって私は邪魔者だったから、グリーンやブルーみたいに妹を可愛がる兄を目の前にして、驚かされたのは確かだわ。

ふふふん、でも、私には誰よりも素敵な姉さんがいるから、平気だけれどね!

―――そんな風なやり取りをしながら、私たち4人は、順調に山を越えて行った。

2日掛けて、2つの山を超える。

途中、魔物が出たりもしたけれど、私は剣を抜く暇もないくらいだった。

カーティス団長、グリーン、ブルーの3人が、3人ともに驚くほど強かったからだ。

王都を出発する際にカーティス団長から、『昨夜の祝席で、フィー様は再び呪いに侵され、聖女の力が使えるようになったことを全員で納得しました』と言い渡された。

……へ? 私が聖女の力を行使しても、誰も疑問に思わないってこと?

そう驚いてカーティス団長を仰ぎ見たけれど、真顔で頷かれたので、どうやらそういうことらしい。

カーティス団長のことだから、あの2人に上手いことを言って納得させたのだろう。

ああ、持つべきものは、有能な仲間よね!

そう考えてにんまりとしたのはつい先日だったというのに、その力を行使する機会が1度もないのはいかがなものだろう。

剣で戦いもせず、聖女の力も使わないならば、私はただのお荷物じゃあないの!

そう申し訳なく思っていたというのに、本当に実際に、1度も聖女の力を使うことなく、第十一騎士団が駐屯している砦に到着してしまう。

―――騎士団の砦は、山に囲まれた土地に立っているとは思えないほど堅牢な、見上げるほどに大きい石造りの建物だった。

赤地に黒竜が描かれた騎士団の旗が幾つもはためいているので、この砦に間違いないことが分かる。

ここに姉さんがいるんだわ、と思うと無性に会いたくなって、ひらりと馬から飛び降りる。

それから、入り口で砦を守っている騎士たちに向かって走って行った。

ガザード辺境伯領に滞在中は、騎士団の任務として扱われるため、私は騎士服を着用していた。

そのため、問題なく騎士仲間として受け入れてもらえると思ったのだけれど、どういう訳か私の顔を見た途端、門番役の騎士はぎょっとしたように目を見開いた。

はて、と思いながらも、新人騎士らしく丁寧に騎士の礼を取って挨拶をする。

「第一騎士団所属のフィーア・ルードです! 第十三騎士団のカーティス団長とともに当地に伺いました。しばらくお世話になります」

「あ、ああ。カーティス団長の訪問は聞いている。……というか、お前、すごいな! そんな派手な髪飾りをつけて騎士服を着用するなんて。王都じゃあ、そんなのが流行っているのか?」

どうやら先ほど門番たちが驚いていたのは、私の髪飾りに目を奪われたからのようだった。

ふふふ、お目が高い! でも、違いますよ、今流行っているのではなく、これから流行るのです!

そう返事をしようとしたところ、カーティス団長とグリーン、ブルーの3人が私の後ろに立ったので、騎士たちが驚いたように目を見張る。

……ああ、3人ともに大きいですから、ちょっと何者だろうと思いますよね。

というか、グリーンとブルーの2人は、『さすがにオレらは外で待っているわ』と砦に入ることを辞退したのだけれど、『2人は協力騎士の扱いだ。この先もガザード領では私たちに同行するのだから、砦に入る度に離席していたのでは効率が悪すぎる』とカーティス団長に切って捨てられていた。

それでも渋っていた2人に対し、カーティス団長は『貴殿らの目が良く見えることは理解している。1つ見たものから、10も20もの情報を自然と入手してしまうだろうことはな。だから、砦に入ることを躊躇しているのだろうが、……貴殿らは、その情報を悪用することはないだろう?』と続けられ、はっとしたように息を飲んでいた。

それから、男同士でいちゃいちゃしていたので、仲がいいことだわと横目に見ていたのだけれど、どうやらカーティス団長の発案通り、協力騎士としての扱いに落ち着いたようだ。

ちなみに、『協力騎士』とは、各地の貴族だとかに雇われている騎士が、一時的に王国騎士団に協力する場合の呼称になる。

グリーンたちは冒険者だと思っていたけれど、カーティス団長は一時的に騎士として扱うつもりかしら?

あれ、そう言えば、出会った時は立派な鎧を着用していたから、初対面ではこの2人を騎士だと思った記憶があるわね。

その後の素行が騎士としては悪すぎたから、冒険者だと思い直していたのだけれど……などと考えながら、砦の門を通してもらい、案内された部屋で待っていると、かつかつと足早に歩いてくる足音が聞こえてきた。

はっとして座っていた席から立ち上がると、焦げ茶色の髪の美女が扉から入ってくる。

「姉さん!」

瞳をきらきらとさせて私に近寄ってくるのは、「成人の儀」以来会っていなかった姉のオリアだった。

嬉しくて駆け寄ると、姉さんが両手を広げて迎え入れてくれる。

「フィーア、こんなに遠くまでよく来たわね! あんたはもう、立派な騎士だわ!」

姉さんはぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら、楽しそうに笑った。

「姉さん、オリア姉さん!」

私も嬉しくなって、ぎゅうぎゅうと抱きしめ返す。

しばらく姉さんとの再会を楽しんでいると、扉の近くからぼそりとした声が聞こえてきた。

「うはっ、魅惑の赤魔女を手懐けるとは、オリアはすげえな!」

「えっ?」

おかしな呼称で呼ばれた気がして振り返ると、白い騎士服を着用した日に焼けた騎士が、扉を塞ぐようにして立っていた。

体格が良く、見上げるほどの長身で、長めの金髪がたてがみのように逆立っている。

その黄金色の髪には、黒い髪が何か所か交じっていた。

あれ、私はこの髪を知っているわよ、と思って、その男性の顔に視線をずらすと、精悍な顔の中心に、金の虹彩が特徴的な黒の瞳が見えた。

こ、この瞳は……!!

「伝説の魔人、ガイ・オズバーン!!」

その騎士を見つめて驚愕して叫ぶと、名前を呼ばれた騎士から目を見開かれる。

「何でオレの名前を知っているんだよ! やはりお前は悪い魔女だな!!」

白い騎士団長服を着た騎士―――北方警備を司る第十一騎士団長のガイ・オズバーンは、そう私に叫び返してきたのだった。