軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96 特別休暇2

シリル団長は暫くじとりと私を見つめていたけれど、私の表情から何かを読み取ったのか、諦めた様にため息をついた。

「……分かりました。では、カーティスを同行させましょう」

「へ?」

シリル団長の言葉の意味が分からず問い返すと、団長はふっと面白そうに微笑んだ。

「私は領地の民から『護衛騎士として、大聖女様をしっかりとお守りするように』とのお役目を承りましたからね。けれど、明日から3週間もの間、私があなたに同行するのは難しいので、もう一人の護衛役であるカーティスにお任せすることにしましょう」

「へ、いや、でも、カーティス団長はお忙しいのでは……」

「カーティスには第十一騎士団長への大事な情報伝達を依頼します。というよりもですね……」

シリル団長は一旦言葉を切ると、ふうとため息をついた。

「カーティスは随分前から、3週間の休暇願いを提出しているのですよ。役目などなくても、あなたに同行するつもりではないでしょうか?」

「へっ、でも、私は特別休暇期間中にどこかへ出かけるなんて話は、一度もカーティス団長にしていませんよ」

なぜなら、シリル団長同様に心配性なカーティス団長のことだ。

「お止めなさい」と止められる可能性が高いのではと懸念し、ぎりぎりまで黙っていたのだけれど、まさか私がどこかへ出かけようとしているのを先読んで、ついて来るつもりだったなんて。

驚いている私の後ろに誰かを見つけたのか、シリル団長は「いいタイミングです」と遠くを見つめながら呟いた。

「ちょうどカーティスが来たようです」

振り返ると、深紅の薔薇を1本手に持ったカーティス団長が近付いてくるところだった。

「訓練修了、おめでとうございます」

カーティス団長は私の一歩手前で立ち止まると、穏やかに微笑みながら薔薇を手渡してきた。

「あ、ありがとう」

差し出された花を受け取りながら、赤い薔薇をセレクトするところがさすがよねと思う。

シリル団長も同じことを思ったようで、感心したように口を開いた。

「伝説の大聖女様の御印は薔薇であったと言います。そして確かに、大聖女様の肖像画には、手首に深紅の薔薇を巻き付けた御姿が描かれています。さすがにサザランドの民から大聖女様の騎士にと請われるだけのことはありますね」

それから、シリル団長はカーティス団長に向き直ると、明日からの予定を話し始めた。

「カーティス、フィーアは明日から第十一騎士団に所属している姉を訪ねて北方地域へ向かうとのことです。あなたには第十一騎士団長へ重要な書簡を渡す役目を申し付けますので、ついでにフィーアに同行してください」

「承知した。が……霊峰黒嶽へ行くとなると、幾つか山を越えなければならない。滞在期間を考慮すると、3週間というのは強行軍だな」

突然の指示にもかかわらず、一切困惑した様子がないどころか、旅程の心配までし始めたカーティス団長を見て私はむむっと思う。

……私はオリア姉さんを訪ねると言っただけで、霊峰黒嶽の話は一切していませんよ。

それなのに、どうして誰もかれもが、私があの山に近付くと思うのでしょう。

ええ、腹立たしいのは、実際に私はあの山に近付く気満々で、シリル団長とカーティス団長の推測が当たっているということなのですが。

カーティス団長の言葉を聞いたシリル団長は考えるかのように、片手を唇に押し当てた。

「……そうですね。訓練が修了しましたので、フィーアには特別休暇の後、晴れて王族警護の業務についていただくことになりますが、……サヴィス総長は問題ないのですが、国王陛下は事前にご自分の目で警護につく騎士たちを確認したいという希望があられまして」

言いながらシリル団長はちらりと私を見ると、何かを閃いたとばかりに微笑んだ。

「そうは言っても、陛下はお忙しい方ですので、今回の訓練修了者全員を面談するためには何日もかかるでしょう。……そうですね、フィーアの面談の順番を最後に回すことにしましょうか。そして、その間の期間を、北方での業務に当てていただきましょう」

「へ?」

突然の提案に首を傾げていると、シリル団長は納得したように頷きながら言葉を続けた。

「ここ数か月の間、霊峰黒嶽の魔物の分布図が急激に書き換えられています。まるで恐ろしく凶悪な魔物が霊峰黒嶽の中心に突然現れたかのように、強い魔物がどんどんと山の外に押し出されているらしく、とても人手が足りないと、毎月のようにあの地へ騎士を増員しているところです」

「へ、へー、そうなんですね」

……まずい。思い当たることしかない。

間違いなく、ザビリアがあの山に戻ったことが原因だと思われるのだけれど……

よかった! シリル団長に私の従魔は黒竜ですって言ってなくて、本当によかった。

もしも告白していたら、『そんな凶悪な魔物を簡単に野に放ってはいけません。従魔なのですからきちんとコントロールなさい』、なんてことを言われ、説教されていたはずだ。

そして、この感じだと、ザカリー団長は私の従魔が黒竜であることをシリル団長に報告していないように思われる。

よしよし、せっかくバレていないのだから、とぼけ続けることにしよう。

「へー、そうなんですね。突然、強い魔物が現れるなんてことがあるんですね。あっ! 霊峰黒嶽は大陸の最北端で海に近いですから、イソギンチャクとか大型魚の魔物が海から上がってきたのかもしれませんね」

「……それらの魔物は肺呼吸ではありませんから、海から上がってこられるはずもありません。突然現れるのであれば、空から舞い降りたと考えるのが妥当でしょう」

「そっ、空から舞い降りた! ……な、なるほどですね。鳥型の魔物に強いのがいたかなぁ?」

どんどんと核心に近付いている気がして、声が裏返る私をシリル団長がちらりと見る。

「元々、霊峰黒嶽は黒竜の棲み処ですから、黒竜が舞い戻ったものだと第十一騎士団は考えているようですよ」

「ああ、なるほど! 黒竜ですね! そうですよね! そうでした、私も黒竜だと思っていたんでした!」

もう何が正解か分からなくなり、とりあえずシリル団長に全面的に同意してみることにする。

そんな私をシリル団長は呆れたように見つめると、大きなため息をついた。

「本当に、……フィーアは嫌になるくらい素直ですね。カーティス、このような者を一人にするのは甚だ心配ですので、くれぐれもよろしくお願いします」

「承った」

カーティス団長が重々しく頷いたのを確認すると、シリル団長はほっとしたように言葉を続けた。

「フィーア、そういう状況ですので、あなたを魔物制御のために増員した騎士の一人として扱っても問題はないでしょう。あなたが第十一騎士団と合流してからあの地に滞在する期間は、業務扱いとします。ただし、指揮系統はカーティスの下に置きます。よろしいですね?」

「はい、シリル団長。了解しました!」

というか、よろしいも何も、破格の厚遇じゃあないかしら。

北の地に滞在する間は業務扱いで、しかもカーティス団長が上司だなんて。

カーティス団長に仕事を言い付けられるイメージが湧かないのだけど、本当に仕事として成り立つのかしら?

そう疑問が湧いたけれど、シリル団長とカーティス団長は満足したように頷き合っていたので、否定することもないと沈黙を守る。

……結局のところ、私が北方の地に行くことは許可されたので最大の望みは叶ったし、色々と余計なことを言うものではないわ。

そう考え、私は空を見上げた。

この空が繋がっている、ずっと遠くにいるお友達のことを思いながら。

……ザビリア、王になりたいと飛び立って行ったあなたの邪魔はしないけれど、会いに行くことはいいわよね?

サザランドのお土産を渡したいし、カーティス団長が付いてきてくれるのならば紹介したいわ。

あなたがいないと、眠る時にお腹の上が軽くて寂しいのよ。

私の強くて可愛いお友達。会いに行くから、待っていてね。