軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91 大聖女への贈り物3

満面の笑みでにこにこと見つめてくる住民たちを見て、私はさらに嬉しくなった。

そうして、温かい気持ちのまま、こんな彼らに何か出来ないかしらと思いつく。

私はラデク族長を見つめると、口を開いた。

「族長、『聖石』をいただくお返しに何かしたいのですが、私に手伝えることはありませんか?」

こう見えても、私は正式な騎士ですからね。

剣を使う仕事ならば、少しくらいは出来るような気がしますよ。

そう思いながら返事を待っていると、族長がぱっと顔を輝かせた。

「でしたら! もう一度、アデラの木を植えていただけませんか? 今度こそ、絶対に守り続けることをお約束しますから!」

「……へ?」

思ってもみないことを言われた私は、驚いて族長を見つめた。

アデラの木を植える? ……そんな簡単なことをやっても、お返しにもならないと思うのだけれど。

けれど、それがお望みとあらば、勿論ご協力しますよ。

「ご要望であれば、勿論今すぐだって植えますよ。ええと、この領主館の庭に植えればいいんですかね?」

口にした瞬間、微妙な雰囲気を感じ取ってはっとする。

そ、そうだった! 前回はこの領主館の庭に植えたがために、前公爵夫人に切り倒されるという事態になったのだわ。

「ええと、勝手に領主館の庭に植えるわけにはいきませんよね。それでしたら……」

言いかけたところで、族長がきっぱりとした声を出した。

「いいえ、サザランド公爵さえお許しいただけるのなら、この庭に植樹いただければと思います。公爵家と我々の新たなる関係の始まりの記念として」

族長の言葉を聞いたシリル団長は、一瞬驚いたような表情をしたものの、すぐに笑顔になった。

「ありがとうございます、族長。私もそれを心から望んでいましたが、言い出すことはできませんでした。ご提案いただき感謝いたします」

それから、シリル団長は私の背中に片手を添えると、言葉を続けた。

「加えて、『聖石』をフィーアにお譲りいただけることに対しても、お礼を申し上げます。『聖石』はフィーア個人に譲られることを理解して、必ず彼女の意思に基づいた使い方をすることをお約束します」

へ? いやいや、騎士団として譲り受けるんでしょう?

そう思ったけれど、シリル団長の言葉を聞いた途端、住民たちの誰もがほっとしたような笑顔になったのを見て、あれ、間違っていたのはまたもや私なのねと気付く。

住民たちは騎士団ではなく、大聖女の生まれ変わりだと思っている私に、大切な石を譲りたかったのだわ。

そう考えた途端、胸の辺りがほっこりとしてくる。

……嬉しいな。大聖女であった私の行動を認めてくれ、好意をもらえることはすごく嬉しい。

そう温かい気持ちになりながら、私はゆっくりと庭を見渡した。

アデラの木を植えるため、枝を分けてもらう親木を探すためだ。

300年前にアデラの木を植えた際、挿し木用の枝を取らせてもらった親木がこの庭には植わっていたはずだ。その木から再び一枝分けてもらおうと、辺りを見回してみたのだけれど。

けれど、どういうわけか、以前植わっていた場所にアデラの木は見当たらなかった。

あれ、と思って首を傾げていると、私が探しているものが分かったようで、ラデク族長がそっと説明してくれた。

「以前、この庭の端にもアデラの木が植えられていたようですが、アデラの木の寿命は100年程度ですからね。ずいぶん前に枯れてしまいました」

「へ? 寿命が100年? でも、記念樹は……」

「ええ、『大聖女様の木』は300年が経過した後も、切り倒される直前まで青々と葉を茂らせておりました。だからこそ私たちは、大聖女様に見守られている気持ちになれたのです」

……そ、そうなのね。通常の寿命の3倍も長く生い茂るって、私が植えたアデラの木はすごい生命力だったのね。まあ、たまたまだろうけど。

それとも、私の回復魔法が植物に作用するなんて話が……あるのかしら?

考えてみれば、回復薬は薬草に作用させて薬を作るのよね。

同じ植物だし、あり得ない話ではないのかもしれないわね。

試してみようと思ったこともなかったため、真偽のほどは不明だけれど、どちらにしても術式が分からないから試しようがない。よ、よし、とりあえず気持ちを込めることにしよう。

そう考える私の視界に、小さなアデラの木が映り込んだ。

あれ、あの木は何かしら? と小首を傾げていると、シリル団長が私の疑問に答えてくれた。

「『大聖女様の木』が切り倒された際、住民の方々とは別に、私も記念樹から一枝いただいて挿し木をしたのです」

本当にシリル団長は、きめ細やかな対応をしてくれるのね。

感心しながらアデラの木に近寄ると、青々とした若木の一枝をぽきりと手折る。

それから、皆に促されるまま、元々記念樹が植えてあった場所の隣に新たな若枝を植えた。

どうか、できるだけ長くこの地に根を張り、サザランドの民を見守ってくれますようにと願いを込めて。

「ああ、大聖女様、ありがとうございました」

「今度こそ、この木をお守りします」

住民たちは涙ぐみながら、嬉しそうに小さな若枝を見つめていた。

彼らを見つめているうちに、いつの間にか私も嬉しくなって、小さな声でアデラの木にこそりと約束をする。

「今度こそ、あなたが大きくなって綺麗な花が咲く頃に、もう一度サザランドに来るわね」

けれど、小さく呟いたつもりの声は多くの住民たちに聞こえたようで、彼らは嬉しそうに歓声を上げた。

「大聖女様! お約束ですよ!!」

「ああ、今度こそ、お待ち申し上げております!」

そう次々に、笑顔で声を掛けられる。

辺りを見回すと、誰もかれもが笑顔になっていた。

……ああ、気持ちがいい。誰もが笑顔で仲良くしているのは、いいものだわ。

そう思って微笑んでいると、カーティス団長が濡れたタオルを差し出してくれた。

土いじりをして汚れた手を拭くためのようで、本当に気が利いているわねと思いながら受け取る。

植樹の際だって、カーティス団長は何くれと世話を焼いてくれた。

元護衛騎士だけあって、私のやりたいことを先読みして行動してくれるのだ。

うむむ、元々有能で色々と気が付く性格の上に、世話焼きの性質まで加わったら、世話を焼かれる私は極楽状態になるじゃあないの。

そう考えたのは私だけではないようで、カーティス団長の世話焼きっぷりを見ていた族長は、ごくりと大きくつばを飲み込んだ後、思い切ったようにシリル団長に話しかけていた。

「公爵様、もし叶うのであれば、1つお願いがありまして」

「ええ、私に出来ることであれば何なりと」

にこやかに返事をするシリル団長に対し、族長は緊張した表情で話を続けた。

「カーティス団長には3年もの間、この地の騎士団長として大変お世話になりました。非常に有能で優秀な騎士を、こんな僻地に何年も縛り付けておくことはできません。どうぞ、王都に連れて戻ってください」

「……え?」

シリル団長は咄嗟に驚いたような声を上げたけれど、……対するラデク族長は緊張しながらも、何事かを決意した表情をしていた。