軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第979話 瘴気のお勉強④ナムル先生

「リディー、息を吐いて」

「姉さま、息を止めて」

エリンの合図で母さまがウエストに回した紐を締めつける。

「く、苦しい。母さま、王宮っていっても客室までだから」

「リディーが王宮に行く時は、シュタイン家の名を背負っているのよ」

確かに今日行くのは本殿の客室だからね。そしてわたしはデビュタントも済ませてしまった。正装でないからコルセットは免れているものの、母さまとエリンにウエストを作りあげられている。

「……はい」

もう頷くしかない。

「姉さま、素敵よ」

「ありがとう、エリン」

これ、なんにも食べられそうもない。

「……ごめんね、着付けにわざわざ来てもらって」

放課後、王都の家に待機してもらっていた。ある程度のドレスからはさすがにひとりじゃ着られないから。

ナムルと会うのは久しぶりだ。彼にはわたしの記憶が戻ったことは言ってない。だからはじめましてのふりをする。

今日はロサと兄さまが参加し、アラ兄とロビ兄はおやすみだ。

兄さまが迎えに来てくれて、わたしはその馬車でお城に入る。

昨日の夜の定時連絡で全部話したのに、馬車の中でもトルマリンさんの授業のことを聞かれた。

「リディーは瘴気にかかわっては駄目だ」

「……今日ナムルの話を聞いてから考える。なにかわたしにもできることがあるかもしれない」

「そうだとしても、私はリディーに瘴気に触れてほしくない」

うっ。切ない目攻撃はやめてほしい。

答えられずにいると、ため息が落ちてくる。

「ごめんね。リディーと瘴気は相性が悪いからどうしても……」

「ううん、ありがとう。……やっぱり瘴気は苦手なの。でも瘴気は分散させなくちゃ。

不思議よね。ユオブリアのトップの人が瘴気の封印の要。地形の魔法陣が一番効力を発揮しているといっても、何かあったらどうするつもりなのか。陛下に何かがあったり、継承者がはっきりしてない時のこと考えてないのかな? 普通、そういうこと考慮するよね? 国のトップたちがそんなことをすっ飛ばしてるのがおかしくない?」

兄さまは可愛らしくクスッと笑う。

「な、何?」

「いや。謎をみつけ、挑んでいくのが楽しそうだから」

「そういうわけじゃないけど」

「あ、着いたようだね」

馬車の速度が落ちた。

「あれ、順番飛ばしてる?」

カーテンの隙間からこっそち覗き込むと、止まっている馬車を追い越している。

「殿下からの招待状があるからね」

そういうことか。

わたしたちの馬車は待たされることもなく、本殿近くまで通された。

馬車が止まり、兄さまのエスコートで馬車を降りる。

衛兵さんの案内で通された 室(へや) には、ダニエルとルシオがもう来ていた。その後にイザークが来て。時間ちょうどに護衛に徹しているブライとロサ。そしてロサに連れらえたナムル。

やはり民族衣装を着ている。城内でそれは目立つと思うんだけど。

はじめましてなので、紹介をしてもらっているときに、アダムが入って来た。ちょっと気怠そうで色気が……。この中の年長組は兄さま、アダム、ナムルだ。

みんな激しくイケメン。そして年長組とは年が近い、王宮のプロであるメイドさんのハートを射止めている。わたしだけさらにちびっちゃいよ。

お茶の用意を終え、メイドさんたちが出ていくとナムルが切り出す。

「瘴気のことが知りたいんですよね?」

お城の中は温度調節されているといっても、季節に引っ張られる。

現在は冬。それなのに1枚布をローブにしたような格好は、以前と同じだ。浅黒い肌に、白い長い髪を三つ編みにしている。ルビーのような紅い瞳。

「どんなことを知りたいんですか?」

「昨日トルマリンさんから呪術の編み方の基本を教えてもらいました。

ナムルさんはまた違った瘴気へのアプローチをすると聞きました」

「あぷろーち?」

「ええと、呪術とは違った瘴気の使い方をするそうですね。どんな使い方をするのか教えてほしいです」

「ふぅん」

頭の天辺から足の方まで目を走らせる。ソファーに座っているし、低いテーブルがあって足まで見えないと思うけど。

「瘴気ってどういうものか知ってる?」

ナムルは綺麗な角度で首を傾け、わたしを見る。

「濃度が濃くなると生物が生きていけないもの」

「黒いもや」

ダニエルとイザークが答えた。

ああ、そうか。魔素は何?って言われても、魔法の素になるもの?ぐらいしか言えないけど、瘴気もなんと言えばいいのか。

う、ナムルがわたしの答えを待っている。

「わたしにわかるのは、集まってくるとわたしの気分が悪くなるものです」

ナムルはちょっと目を大きくしてからニコッと笑う。

顔は無駄にいいな。

「そこから知らないんだね。瘴気って生き物なんだ」

……生き物?

「意思のある生き物。増えることが使命。何がすごいって、負の感情、それを転換して自分を存在し続ける燃料へと変えることができるんだ」

鳥肌が立った。

「維持して増やすことを目標としている。生き物としか思えないだろ? 人の中にもあるし。一部とも言えるだろう」

比喩か。びびった。感情を持った菌類みたいなものだと思うと、さらに瘴気が嫌なものに思えてくる。

……でも光魔法で母さまの呪いを撃退した時に見えたあの文字が連なったような黒い蠢く何か。わたしも生き物のように思えて。意思があるように思えて怖かったのを覚えている。

「瘴気は自分たちを増やしたいんだ。それなら魔素と違って話は簡単。増やす目的を叶えてやればいい。そんな餌をちらつかせ、こちらがマスターで従えば願いが叶うことをわからせればいい」

ナムルの話は、そんな瘴気に対する心構えから始まった。

「呪術師は瘴気を燃料に術を編みます。でもあなたの瘴気の使い方は〝編む〟とは違うようだ」

「……私も呪術の教えを受け驚きました。魔法も瘴気を使うことも、イメージであのようなことを全部やり遂げていたとはね」

「ということは、やはり瘴気を〝編んで〟はいないのですね」

ナムルは頷く。

「私は瘴気を、魔法の魔素と同じように使っています」

見た感じそうだった。魔法のように瘴気を扱っているように見えた。

「そのやり方を教えていただけますか?」

ナムルは腕を組む。

「……やり方は魔法と同じです。ただその燃焼させるものが魔力か瘴気の違いで。でも皆さんが瘴気を使うには、呪術を習い編むやり方を覚える方が早いかと思います」

え。