軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第965話 パンドラの希望⑤愛し子

『森の守護者も自分の気持ちを話したりするのだな』

聖樹さまがふふっと笑った気がする。

もふさまはちょっと眉根を寄せて上を見上げる。

下唇を噛んでいた。

「聖樹さま、本当にここに呼んでくださって、ありがとうございました」

『……リディアよ、ワシはまだ貢物をもらっていないが、どうだ、できたのであろう?』

え?

涙が引っ込む。

玉ができたことご存知だったんだ。

わたしは収納ポケットから、聖樹さまのために作ったわたしの魔力玉を取り出した。

「聖樹さま、遅くなりました。あの時もありがとうございました。

これはわたしの魔力を込めたものです」

『おお、これは上質な魔力だ。素晴らしい!』

なんか和んでしまった。

『リディア・シュタインに尋ねる。この魔力を閉じ込めた器をどうやって作った?』

え?

『どうしてそんなことを尋ねられるのです?』

もふさまが聖樹さまに聞く。

『魔力を込められたということは、世界の理にいきついたのかと思っての』

じっと見られている気がする。

わたしはコホンと咳払いをした。

「ええと、世界の理にいきついているかどうかは本当のところわかりません。でもこの方法でできたことなので、ひとつの摂理の証明になったと思っています」

『ほう』

『リディアがそれに答えたら、何かいいことがありますか?』

もふさまっ。そ、そんなこと言っていいの?

『ホッホッホッ。そうだな、もらってばかりも悪い、もし理に近づいていたら、リディアに必要なことを教えてやろう』

もふさまがわたしを見て頷く。

「玉を作っているプールを見ました。そこでは……ドラゴンの生き血と魔力水に混ぜ、純度の高い魔石を寝かせていました。それを世界樹の葉にもつけていました。

魔石を作るレシピの本を見たことがあり、そこからも神力、聖力、魔力、瘴気、それから安定させるための世界樹の葉、それが必要なんだと思いました。

残念ながら比率はわかりませんでした。だから実験をしました。

まず、基本となる同率の液を作りました。それから10%ずつ神力を多くしたもの、聖力を多くしたもの、魔力を多くしたもの、瘴気を多くしたものを。その液に魔石を漬け込み、世界樹の葉を入れて寝かせて、〝現象〟を入れるのに耐えられる器になっているかを調べていくつもりでした。けれど一番最初の基本とするはずの同率のものが、現象を耐えうる器になったんです。

同率。安定してる状態。

安定していれば、中に何を入れても動かないし、発動しない。それが器にふさわしいとも思え、摂理なのではないかと思えました」

『同率とはどうやって測ったのだ?』

「正確には同率ではないのかもしれません。それぞれ液体に入れ込み、同量のものを用意したんです」

プールでも水に漬け込んでいたからね。

「神力はその水に神属性の攻撃を加えました」

アリとクイが変わりばんこに、雹を降らせたり、雷を入れてくれた。

「聖力はわたしが入れました」

聖力を使えるようになるための練習にもなった。

「魔力水はわたしがその量の水を魔法で出しました。そして瘴気は……レオが血を入れてくれました」

シンシアダンジョンにあった瘴樹。その気に当てられ暴走した魔物たち。暴走すれば、ダンジョン内なのに、屍は消えなかった。暴走した魔物の魔石は、濃い深い赤い色。あれは瘴気が結晶化されたものではないかと思う。

ジェインズさんの劇団が持っていた赤い魔石。核は入っていない器の魔石。大量の血と屍を得ると、力のある魔石となる。完成形ではない器でも、一般のものより瘴気が強く入っているんじゃないかと思う。だって普通の魔石とは違うから。

劇団から押収したものでも、アイラたち呪術団から押収した核の入っていない魔石。どちらでもいいからそれをもらえないかとお願いしたんだけど、あれは危険すぎる物だともらえなかった。

その代わりというか、バッカスがため込んでいた高位魔物の純度の高い魔石、そっちをもらうことができて、兄さまが持ってきてくれたのだ。それを元の魔石として使うことができた。

瘴気を手に入れる方法を思いつけなくて困っていたら、レオが言った。マルシェドラゴンの生き血が瘴気の役目を果たしていたんじゃないかって。

わたしもそう思っていたけど。だからって血をちょうだいとはひどいなと思ったので、変わる何かを探していた。どうしても見つからなかったらトルマリンさんやナムルに相談するつもりだった。

魔物は瘴気を使い、死ぬ時にその瘴気を消す役目を担っている。

だとしたら、魔物の血は瘴気に満ちていることだろう。

だけど、その血を少しとはいえもらうのも違う気がしたんだけど。

レオはさっさと自分の爪で指を傷つけて、その血を水に垂らしてくれた。

それぞれ濃い、薄いの濃度問題はある気がしたけれど、まぁ試しだからとそれにつけこんでみたら、同率のものだけが、器の役目を果たした。

『ほぉー、本当に人族というのは面白い。まさか実験から真実にたどり着くとは。よし、褒美だ。

リディア・シュタイン。 其方(そなた) はこの世界で生まれた。この世界の愛し子じゃ。聖女となった者も同じ、この世界の愛し子。この世界に生まれたものが、何を考え、行動したとしても、それは理から外れることにはならない。決して〝介入〟ではない』

介入では、ない? わたしのしたこと、アイリス嬢の決めてきたことも、介入ではないんだ。

愛し子。この世界の愛し子。なんだかその言葉でまた泣きそうになった。