軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第940話 グレーンの王さま⑤件の男女

わたしが記憶を取り戻したことを喜ばしいとしながら、それを公開しない方がいいとしたのは、弁護士が捕まっていないこと、それから……。

未来視でユオブリアへの攻撃勢が減っているのは確かだ。それにより、瘴気が蔓延する未来も減っている。けれど、瘴気が溢れ出る未来も健在だ。

外国からの攻撃。攻撃が始まってから落ちるまでの期間が早すぎるそうだ。それぞれの国境は辺境伯が地を守っている。それらが落ちてから王都にくるまでの期間が短い。もちろん転移のようなスキル持ちはいるだろうけど、それだって無限に人や物を運べるはずはない。国境ではもちろん検問している。抜け道はあるとしても、それにしても人数が多すぎるそうだ。ということは、イコール内部に手を貸している人がいる、ユオブリアに……。どういう目的かはわからないけれど。

転移持ちは国際議会に登録が義務づけられる。魔力量もいくつかの基準があり、それを超えているかどうかも測られる。

わたしのように隠蔽したり、登録しない人もいるだろう。でもツワイシプ大陸以外は魔力量がそうないらしいので、登録していない転移持ちがいてもそこまでではないのじゃないかとも思えている。とすると、やっぱりユオブリアが怪しい。国内に窓口があるってことは、それが誰だかできたら知りたい。複数だろうから、全部とまではいかないだろうけどできるだけ。

それを探ることもしなくちゃいけない。

わたしが記憶を失くしてからお誘いが増えた。以前にわたしやシュタイン家としがらみのあったところもだ。わたしに記憶がないからそんなことができるわけだよね。でも逆をいえば、わたしもそれができる。今まで何かがあって疎遠となった人にも、知らない顔して近づける。情報を受け取れる間口は広い方が絶対いい!ということで、探るにはわたしが記憶を失くしている方がいいということになった。

心配してくれている友人たちに告げないのは心苦しいけど、仲良しとは記憶がなくなってもまた親しくしているから、ま、いっかとも思う。

記憶を失くしたことの利点は、この世界の概念が一度まっさらになったこともある。

当たり前だとか、思い込みなんかもあった。それらに気づくこともできた。

引いた視点となる第三者の目で、出来事を見られたことも良かった。突破口になりそうなことを見つけられたのも、やはり記憶のないわたしだからの視点だったと思う。

そろそろ町に行くかと立ち上がる。馬でいくというので、わたしは兄さまに乗せてもらう。

秋晴れの爽やかな風を感じながら、みんなで町へと繰り出した。

収穫祭はどこも同じような感じだ。どことなくみんな浮かれているところも。

アダムが急に消えたので、どうした?と思っていたら、ソックスにそっくりな子猫を見たとかで思わず追ってしまったらしい。

そうか、ここはソックスの故郷だから。ソックスの親戚がいそうだもんね。その親戚に子供が生まれたのかも。

みんなイケメンなので、女の子たちの視線が集まる。わたしにも遠慮のない視線が突き刺さった。

「そこのかっこいいお兄さんたち、グレーン酒はいかが?」

屋台から大きな声で呼び込まれる。

昨日いっぱいグレーン酒をいただいたので、積極的な声があがらない。

「喉が乾いてないんじゃ、串焼きはどうだい?」

「こっちはすすり麺、うまいよ!」

どれも大量に買い込んで、道端で食べる。

そんな行儀の悪いことをやっていても、気品は損われないんだから、すごい。

そんな大量に買って食べ切れるのか?って心配したけど、そうだ、もふさまやもふもふ軍団がいるんだもの、多すぎるってことにはならないか。

わたしは行き交う人の顔をひたすら見るけど、ヤベーと思い始めていた。

見れば、あの男女の顔を思い出せると思っていた。……けど、無理かも。

女性の方、多分お名前がミランダさん、はバッチリ目があったからわかるかもしれないけど、男性の方は遠目に見ただけだ。

そうだ、見た目より、声の方がわかるかも、と気がついた時だった。

バシッと身体を叩くような大きな音。

「あんた、若い女の子に見惚れてたでしょ!」

声に反応してわたしはそちらを見る。

大声だったので、行き交う人もそちらを見ている。

なんてこと!

あの派手な顔のパーツの感じ、多分彼女だ。

「言いがかりだ。こんな混んでるんだ、ぶつかってちょっと見ただけだろ」

男の方が派手な身振りで弁解している。

痴話喧嘩かとみんな彼らから視線を戻した。

「どうした、リディー?」

おかしな動きをしてしまったのか、兄さまに尋ねられる。

「いた」

「いた? え、まさか 件(くだん) の人たち?」

わたしはこくこく頷く。

偶然会えたら聞きたいねなんて言ってはいたけど、本気ではなかった。

お祭りの 最中(さいちゅう) に人を探せると思わなかったし、運よく会えたとしても、じゃあどうやって聞くんだ?という問題もある。

「どの人?」

アダムが身を乗り出す。

「今喧嘩してる、あの派手な服の女性と、頬がこけてる男の人」

小声で伝える。

「ブライ、来い」

アダムがブライと歩き出す。

正面から知らない人にどうやって話し出すの?と思った瞬間。

ブライがこけた真似をして、コップの液体を頬がこけてる男性の服にかけた。

うわーーーっ。

「つめてっ!」

「あ、すみません!」

ブライが大きな体を折って謝る。

ベタなきっかけづくりだけど、効果は絶大。

「てめー何しやがる!」

と反射的に悪態をついたものの、多分、服装はラフであっても貴族だとわかったんだと思う。二の句が繋げなくなっている。

「お前何やってんだよ。連れが失礼しました。服が濡れてしまいましたね。どうしたら……」

「そんなの決まってるわ! 弁償よ」

元気に言った女性の口を男性は塞ぐ。

「いえ、濡れただけで乾くから大丈夫です」

女性は口を塞ぐ手を取ろうと必死だ。外せた。

「ちょっと、あんたどうしちゃったの?」

きっと突っかかるのがいつもの行動で、普段と違うのだろう。女性は男性の腕を持って揺さぶってる。

「いいから、お前は黙ってろ。気にしないでください」

男がアダムたちに愛想笑いを浮かべる。

「あ、それではお詫びに、一杯奢らせてください」

おお、やるねぇ。

アダムは居酒屋にふたりを誘う。

わたしたちも後からついていって、近くの席についた。