軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第94話 ファーストコンタクト⑤秘密の部屋

ノックをして父さまの書斎に入る。

「何が悪いかわかっているか?」

顔を見るなり、ピシャッとした言い方で問いかけられる。

「川で眠った」

父さまはため息を落とした。

「このところお前たちには外出を禁止してきた。ウチに関心が集まり、子供たちに危険が及ぶかもしれないと判断したからだ。今日はなんで外出を許したと思う?」

「王子さま護衛、いたから」

「そうだ。殿下と一緒にいて、一緒にいたものに何かあったら、殿下を危険に晒したことになり丹念に調べられることになる。それがわかっている貴族は何も仕掛けられないと見込んでいたからだ」

うわー、一緒にいて何かあったとして、その出来事に重きが置かれるわけでなく、王族の危険に特化して丹念に調べられるわけね。権力ある取り調べだからバレる確率は圧倒的に高くなる。だから中途半端には仕掛けてこない、そう判断したんだ。

「リディアはわかっていないようだな?」

「わかってる」

「いや、わかっていない。明日は部屋でそのことを考えなさい。部屋から出てはいけないよ」

「明日、石鹸約束ある」

「アルノルトに頼んで、みんなに延期の連絡を入れなさい」

「父さま……」

「答えがわかったら言いに来なさい」

「わかってる。危険あるのに、外で眠った」

「そうだ。リディアは物事を甘く見すぎるきらいがある」

確かに、喉元過ぎれば的なところがあり、怖い思いが薄れると忘れているわけではないけれど、大丈夫だと思ってしまう。だって探索も強化しているし。もふさまも一緒だし。

「もし、明日石鹸を作っているときに襲われたらどうする? 友達も巻き込むのか?」

あ……。

「王子殿下がお帰りになったらアルノルトについて行ってもらうようにするから、延期しなさい」

わたしは唇を噛みしめて頷いた。

理由はわかったし、納得もしている。

なのに、涙が出てくる。

閉じこもってばかりだから楽しみにしていたのに。みんなも楽しみにしているだろうに。

父さまに抱きあげられる。

「まったく、ウチの末っ子は泣き虫だ」

力強い指で涙を拭かれる。

ノックの後、母さまが入ってきた。

「リディー、明日は部屋で過ごすこと、いいね」

母さまに渡される。声はなんとか押さえているが、母さまの胸でわたしはぐしぐし泣いた。

「リディー、ほら、泣き止みなさい。お客さまもいらっしゃるのよ。恥ずかしいでしょ?」

廊下で警護している騎士さんはまっすぐ前を向いて動かないけど、絶対に見えている。恥ずかしいのは確かなので、母さまの胸に顔を埋める。なんでこんなに自分のことなのにままならないのかな。感情も抑えがきかない。そして考えも何もかも感情に引っ張られる。

「アルノルトに頼みましょうね」

母さまが事情を話して、アルノルトさんに石鹸作りは延期の旨をみんなに伝えるよう手配してもらった。

『まだ止まらぬのか?』

「もふさま、ひぃぃっく。驚かせて。ひぃぃっく」

ベッドの上でわたしは身悶えている。

しゃっくりが痛いんだよ!

涙が止まったと思ったら、今度はしゃっくりだ。胸の中がしゃっくりをする度に大揺れするのですっごく痛いのだ。

『なぜ驚きたいのだ?』

「ひぃぃっく、驚くと、ひぃぃっく、しゃっくり、止ま、ひぃぃっく、る、言われてる。ひっく」

もふさまがわたしの前にとてとてと歩いてきた。

『今から驚かせてやる』

「ひっく」

もふさまが口を大きく開けた。開けたまま、体を大きくしていく、その迫力にわたしは体勢を崩し、手が滑り、ベッドから落ちる!

『リディア!』

もふさまがわたしの下に滑り込み、ライオンサイズのもふさまと一緒に壁に激突……しなかった。

どこ、ここ? 何が起こった?

ここ、わたしの部屋じゃない。

感覚としては壁を擦り抜けた? いや、わたしの部屋の隣は空き部屋だが、そことも違う。広さもおかしいし。

わたしの部屋より広い一室。大きな机の上には、インクやペンが揃っている。壁にはずらっと本棚。本がぎっしり詰め込まれている。

これ、あれだね。きっと魔使いの住処の、魔法のひとつ。父さまに報告しなくちゃ。

っていうか、どっから入ってきたっていうか、どっから出ればいいのかというか、ドアがない。

『〝しゃっくり〟とやらは止まったみたいだな』

ライオンサイズのもふさまに言われて気づく。

「本当だ。止まった。あ、さっきぶつからないよう、助けてくれたのも、ありがと」

もふさまはゆらりと尻尾を揺らした。

『こんな隠し部屋があったのだな』

「さすが魔使い家、だね」

ぎっしりある本が気になる。

背表紙にタイトルは書いてない、か。

触っても大丈夫かな?

あ、こういうときこそ、鑑定。

HOW TO本:およそ1300年前の本。

1300年前? その頃に紙あったんだ……。本あったんだ……。1300年経っても紙事情にあまり進化がないってどういうこと?

神話の書:およそ1500年前の本。古代の神話が閉じ込められている。

神話って閉じ込めるものなの? よくわからん。

魔道具の作り方:およそ400年前の本。

魔使いのスキルがあったときに読む本:およそ300年前の本。

へー、面白そうではあるけれど、手は出さないでおく。

『王子とやらはリディアに婚約を申し込みにきたのではないのか?』

「多分、そのはず」

『話が出ていないようだが?』

「そうなんだよ。とっとと言って欲しい。そしたら、もう婚約してる、言える」

『何を考えていることやら?』

「王子いうこと、わかればいいんだけど」

部屋が青光りした。驚いてもふさまに抱きつく。

ぱち ぱち

音がしてテレビのモニターみたいのが現れた。

真ん中に映っているのは王子だ。

居間でみんなでお茶を飲んでいる。泣き声が聞こえた。わたし、の?

「あんなに泣いて。どうしたら泣き止むんだ?」

モニターの中の第二王子が兄さまに尋ねる。

「ああいう泣き方になったら、自然におさまるのを待つしかありません」

これ、さっきまでの? わたしの抑えた泣き声が微妙に聞こえている。

「あと20分ぐらいですね。泣き疲れて寝てしまえばもっと早いですが」

ロビ兄が笑顔で言っている。

「リディア嬢がいないから聞く。君たちも怖い思いをしたのだから、思い出させるのは申し訳ないけれど、どうしても聞きたくて。どうやって大の男4人を倒したんだい?」

ザザーっとノイズが入る。カチッと画面が移り変わる。

「どうですか? 何か力を持っているようでしたか?」

「いや、ただの5歳の女の子に見えたよ」

王子の部屋? 宰相とトロットマン伯と膝をつき合わせている。

何これ、どういうこと? 王子の部屋を映している?

「エディスン伯、本当に魔力は15なのか?」

「はい、属性も水と風のみです。国に役立つようなギフトを持っていたとしても、あの魔力量では何もできないでしょう」

「ただの甘やかされっ娘でしょう。学ぶことも嫌いと言った」

「学ぶことを嫌いとは言っていませんでしたよ、勉強が嫌いと言ったんです」

「違わないだろう!」

「大きく違います」

言い合っているのは宰相とトロットマン伯だ。

「あんなのを候補者にするとは、私は反対です」

鼻息も荒く、でっぷりしたトロットマン伯は言った。

「殿下は何が気にかかるのです?」

宰相は王子に尋ねる。王子がわたしを見た。

「欺かれている気がする。それが気に障るんだ」

鳥肌が立った。わたしが見えていて、わたしに向かって言っているような気がして。

ザーと再びノイズが入って、モニターが消えた。