軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第881話 忍び寄る悪意④ファン

今度は輪投げエリアにご案内。

輪投げ担当はアイデラだ。

「1回、5つの輪で300ギルです」

お母さまは300ギルと引き換えに、麻で作った輪っかを5つ手にした。

床に敷いた大きな用紙には草と花を描いている。そこに犬や鶴、蝶々、ウサギ、カエルといった紙で折った動物をランダムにおいてある。その少し先に線を引いた。

その線を超えないように輪っかを投げて、紙で折っている動物を捕獲できたら得点をもらえる。一番高い得点はカエルとウサギの5点。動物の点数は横のボードで案内してある。

お母さまはそうっと折り鶴に向かって輪っかを投げた。

放物線を描いて落ちた輪っかは、描かれた花の上に落ちた。

「残念〜!」

みんなで応援したけれど、お母さまの輪は何も捕らえることができなかった。

「簡単そうに見えるのに、なかなか難しいのね」

「よし、父さまもやってみようかな」

そう言って父さまも300ギルを払った。

代わりに5つの輪を手に入れる。

「父さま、もふさま取って!」

エリンちゃんのおねだりだ。

一番手前にあるのは犬。

『我は犬ではない』

もふもふが憤慨している。

「よし」

お父さまは親指と人差し指のカーブを輪っかの側面を沿わせて持った。

そして上からかぶせるように輪っかを投げる。

見事犬を捕らえるとワンワンと犬が吠える。

みんな笑顔になる。

これは効果音だ。

「父さま、あたし蝶々が欲しい!」

いや、エリンちゃん、それは景品ではないよ。

お父さまは蝶々に狙いを定めている。

見事、蝶々を輪っかに捕獲。すると、教室中が蝶々の乱舞。幻想的な空間になった。

これは、幻影を使える子のスキルで演出している。

「これは、またいいな」

「素敵ね」

お母さまも上を見上げ、胸の前で手を組んで笑顔だ。

幻影タイムが終わると、みんな残念そうな顔をした。

次に鶴を取った。

幻影は微妙。鶴はわたししか知らなくて、うまく伝えられなかったのだ。

首と足の長い鳥。真っ白で優雅で。頭のてっぺんだけ赤い模様があって……。

わたしの伝え方が悪かったのは認めよう。

幻影で出てきたのは、足が細すぎてうまく歩くことのできない、千鳥足の酔っ払いのような鳥だ。飛ぼうと大きな翼を広げたがバタバタするだけでバランスが悪いのか飛び立てない。

みんな呆気にとられていた。

次にウサギを狙ったみたいだけど、外れた。

「最後は何を狙うの?」

エリンちゃんが聞けば

「カエルを狙ってみよう」

一番奥にいる最高得点のカエル。わたしたちはニンマリしないように気をつける。

カエルに狙いを定め、輪っかを投げると、カエルがぴょんと飛ぶ。

「ええ?」

エリンちゃんの驚いた声が響く。

「これは参った!」

お父さまは頭をかいている。

ウサギとカエルは、クラスの子のスキルで動くようになっているのだ。

3つの当たりの得点で、お父さまの景品はショートブレッドになった。

たこ焼き、焼きそば、綿菓子ももれなく買ってくれて、どれもおいしいと食べてくれた。

午後1番のクラブの読み聞かせにもきてくれるそうだ。

それじゃあと別れる。

先生がいらしたので、みんなで群がる。先生は綿菓子を買ってくれて、これはなかなかうまいなと言った。

トイレに行く時ももふもふたちだけじゃなく、ガーシとシモーネに声をかけてガードしてもらう。

領地ほどではないけれど、学園内の魔力と馴染みがよく、そこらへんの魔素を使って魔法を使うこともできそうだ。

だから気持ち的には気が楽。

ダンジョンで魔法を使えたので、気が大きくなっている。

今怖いのは、記憶がないことで起こるバグであり、なんかみんな学園祭で何か起こるのではないかとか、危ないとか気にしているようだけど、わたしは自分でなんとかできるんじゃないかって思ってるんだよね。

でもみんなの気持ちもわかっているから、護衛してもらってる、ちゃんと!

わたしの収納ポケットからどんどん追加の焼きそばとたこ焼きを出すことになる。あと30個で今日の分は完売だ。そう告げるとみんなニンマリとした。

アダムの帰ってくる前に、わたしの当番の時間は終わりとなった。

ガーシとシモーネ、そしてもふもふたちと一緒にクラブの部室に向かう。

いつも人のいない屋上にめかし込んだお嬢さまや、街のお嬢さんがたむろっていた。

わたしが来たのに気づいて、なんか囁き合っている。

浴衣だから目立つのかな?

まずはと部室内に入り、当番だったユキ先輩と交代だ。

顧問の先生がいて驚く。先生は最初と終わりにくるだけなので、当番の時はスタッフはひとりになる。期待しないようにと聞いていたからだ。

午前中だけで、ユキ先輩の絵も、カリンちゃんの木の細工も、エッジ先輩のお菓子も半分は売れていた。

13時半前。時間になったので読み聞かせタイムだ。

驚いたことに、部室前で待機していたお嬢さま軍団&お嬢さんたちは読み聞かせを聞きに来てくれたようだ。

もしかしてわたしの知り合いなのかな? 全然わからないや。

家族も来てくれた。

アランお兄さま、ロビンお兄さまもいた。

こんな立ち見になるほど人がきてくれるとは思ってなかったので驚く。

ちょっぴり緊張。

ただ書いてある物語を朗読するぐらいに思ってたから、何回か声に出して読んだだけだ。朗読じゃなくて読み聞かせだとなんか違うのかな? まずい、簡単に考えてた! で、でも。ただ焦っても何かが変わるわけではなく、焦る分よくないことが増えるだけなわけで。

ええい。聞いてもらうことを意識して、大きな声でわかりやすく、感情を込めて物語を届ける。今からできるのはそれくらいだ。

よしっとお腹に力を入れて出陣だ。

スペースに進み出て、お辞儀をする。

そしてゆっくりと物語を語り出す……。

「そうして、森に楽しい笑い声が響き渡るようになりました。

……終わり。ありがとうございました」

深く感謝して頭を下げると、破れんばかりの拍手をもらった。

うわー、すごい熱量。終わったところだというのに、胸がバクバクしてくる。

みなさん出ていくときにわたしに声をかけてくれる。

「とてもよかったです」

「素敵な物語でした!」

「応援しています」

「いつまでも待っていますから!」

え? ん??

待つって何を?

首を傾げていたら、お父さまが教えてくれた。

リディアはお店を持っているし、いろいろ作って売っている。

そのひとつに、〝本〟があるという。

リディアの名前を伏せて書いているらしいのだが、なかなかの人気でコアなファンもいるそうだ。

一度、編集者との打ち合わせ中に、コアのファンと出くわしたそうだ。名前を伏せていたのは、貴族のお嬢さまのお遊びで、興味本位だと思われたくなかったから。プラス、本を出したいがためにその出版社に出資していると思われたくなかったから。ありがたいことに本は売れ、それらは杞憂に終わった。だから、もう知られてもいいかと思って認めたらしい。作者名はペンネームとして貫くことにして。コアなファンは、情報網が発達していたので、作者がわたしだと知れ渡ったそうだ。

わたしが誘拐されたことに胸を痛め、組織のことを知り、組織撲滅に一役も二役もかってくれているという。地元に根付いた運動を各地で繰り広げてくれているそうで、こんな組織があるよ、危険だよ。子供をいっぱい抱えている団体を知りませんか?と活動しているらしい。

〝リディア〟を待っている人がいたんだ。すごいなー。

ねぇ、リディア。あなたを待ち望んでいる人がいっぱいいるよ。

心配事はみんなが支えてくれているよ。

そろそろ目を開けてもいいんじゃない?

わたしはわたしの中にいるだろうリディアにそっと話しかけた。

答えはないけれど、きっと、もうすぐだろうと思う。

だって、心配事はなくなり、こんなにみんなに支えられているんだもの。

一人じゃないんだもん。

その後も店番を続け、お菓子と木細工の小物がいくつか売れた。