軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第860話 君の名前③期待

廊下の扉前にはシモーネが立っていた。

「おはよう、シモーネ。護衛していてくれたのね、ありがとう」

シモーネは挨拶を返してくれたが、どこか微妙な顔をしていた。

隣の隣の部屋。扉前に立っていた騎士のような格好をした人が、ドアを開けてくれる。

昨日とは違う部屋だけど、キラキラの朝の光が部屋に満たされていた。

中央にテーブルと椅子があり、ご飯がてんこ盛りだ。

朝からお肉がいっぱい!

シャキッとした服を着たアダムたちが揃っていて、わたしを見ていた。

「おはよう」

大きな声で告げる。

「……おはよう。調子はどうだい?」

反応してくれたのはロサで、あれ、なんかみんな元気ない。

「大丈夫よ、ありがとう。みんなどうしたの? 元気ないね」

「そんなことないよ。昨日の夜、食べてないんだ、お腹減っただろ?」

イザークが言った。

「うん、お腹ペコペコ」

おじいさまとガーシは見当たらなかった。

セッティングをしていたメイドさんたちが出ていくと、リュックが動き出す。

わたしの隣はぬいたちの席だね。お皿にお肉が山盛りだ。

ぬいぐるみを解いていいと言われたので、リュックのとば口を開ける。

みんなポン、ポーンと飛び出してきた。

いただきます!

お肉と野菜を挟み込んだパンに、コーンスープとを交互に口に運ぶ。

どっちもおいしーっ。

お腹が空いていたこともあって夢中で食べてしまう。

サラダにもローストビーフのようなお肉がクターッとのっているし、お魚の姿を残したまま野菜と一緒に煮込んだものや、パンがゆみたいのもあって、品数が半端ない。豪華な朝食だ。

飲み物も、ミルク、紅茶、オレンジ色のジュースと紫色のジュースがピッチャーに入っている。

わたしはあとサラダを少しもらおうかな。すでにお腹がいっぱいだ。

食後にはミルクティーをいただいた。

ごちそうさまでした!

部屋を移った。昨日より手狭だけど、ソファーのある部屋だ。それでもこの人数には広すぎる部屋なんだけどね。

トルマリンさんが来て、わたしの中から余計な瘴気は排除されたと確認してくれた。わたしはお礼を言う。体が嘘みたいに軽くなったと。

トルマリンさんは控えめな笑顔で、頭を下げて出て行った。

いよいよ、わたしのことを教えてもらえるね。

みんな絶対、わたしのこと知ってるから。

誰かから頼まれたのかな?

それでわたしを助けようとしてくれて、わたしのこと知っているのかな?

メイドさんがもう一度お茶を入れ静々と出ていくと、一旦動かずに偽装していたぬいたちも、ぬいぐるみを解いた。

そしてわたしの膝上に集まってくる。

もふもふはわたしの足元だ。隣のソファーにはフランツ。

正面にはロサ、その左右にアダムとイザークが腰掛けている。

「約束どおり、君のことを話そう」

とロサが切り出した。

「まず、君に何も告げなかったのは、どんなふうに君が記憶を失ったのか、わからなかったからだ。瘴気というのはユオブリアでまだまだわかっていないことが多い。

もし瘴気で何かされていた場合、思い出そうとしたことや思い出したことで何が起こるかわからなかった。その点を踏まえて、君の瘴気がどういう状態かを知る必要があった。今のところ、瘴気の第一人者は呪術師・トルマリンで、彼はユオブリアから出ることは叶わない。よって、君をここに連れてくるしかなかった」

「瘴気を取り除けば、君の記憶が戻るかと期待したんだけど、そうではなかったみたいだ」

とアダムが続けた。

あ、みんながガッカリしてみえたのはそれか。

みんなわたしの記憶が戻ると思ってたんだ。

「みんなはわたしのことを知っているの? 誰かに頼まれたの?」

尋ねると、みんなで顔を合わせている。

アダムが言った。

「僕たちはみんな君のことを知っている。君は僕たちの重要人物だ」

みんなわたしのこと知ってたんだ。重要人物……。

「君の名前はリディア・シュタイン。シュタイン伯の第3子、伯爵令嬢だ」

ロサが真面目な顔で言った。

「わたし、貴族なの?」

本当に?

「君はある裁判で証人として出廷した。途中で被告人が錯乱状態となり裁判は中途半端に終わったんだ。証人専用の出入り口は傍聴人とは別で、そこから出てくるはずの君がいつまでたっても出てこなかった。

同時刻、裁判所のある通りで爆発音があり、火があがったと情報が錯綜した。人々が入り乱れ、裁判所の衛兵も駆り出された。残っている衛兵が一人で、玄関口から離れられないと、証人専用の通路を見に行ってもらうことができなかった。

結局、派手な音はしたけれど爆発したわけではなかった。火はあがったけれど、すぐに消されたことで事態は収拾され、衛兵が戻ってきた。

そうして見に行くと、君がいなくなっていた……」

フランツが辛そうに言葉を紡ぎ、何があったのかを教えてくれた。

『我らは人族の規定により裁判所には入れず、馬車の中で待っておった。リディアの護衛も騒動に担ぎ出され、我も少しの間、リディアの気配から遠ざかった』

「……もふもふも、わたしを知っていたの?」

もふもふは頷く。

『そうだ。我とリディアは友達だ』

『私もだ』

「オイラもでち」

『リーと一緒』

『リーと一緒にいたよ』

『リディアと共に暮らしていたのです』

もふもふもぬいも私を知っていたんだ。

あ、リディアやリーって時々言葉に出てたね。

あれ、あ。アダムが探していた拐われた大切な子って……。

「わたし、拐われたの?」

みんなが頷いた。

「裁判に出ていた弁護人が、入れ替わった者だということがわかった。おそらくバッカスの者だとね。そいつにリディア嬢は拐われて、君の切られた髪が、シュタイン家に送られてきた。お遣いさまはリディア嬢の魔力を探れる。ほのかではあるけれど感じられるから、君が生きているのは間違いなかった」

アダムが眉根を寄せながらわたしを見た。

「君は今までに何度か誘拐されたことがある。その度にいろいろ強化しているんだ。君はある程度強い。自分の身は自分で守れる。それから最初の一撃はシールドが発動して、君は武力の攻撃を受けない」

横のフランツが教えてくれる。

あの、最初の一発目のみんなが 空(から) ぶって自分で怪我を負うあれか?

あれがシールド?

「そんな君が拐われた。これは思わぬ事態で、予想外のことが起こったと想像できた。君は少し認識するのが遅いけど、魔力も高いし攻撃もできる。だから君の苦手である〝瘴気〟が使われたのではないかと思った。瘴気の残滓がある魔石も見つかったしね。

今まで瘴気は人が思い通りにできるようなものではないと思っていたから、そちらの対策はできていなかったんだ。だから君が瘴気に囚われたのではないかと思った」

「その上、元々瘴気が少なくて、君は瘴気に弱いから」

アダムが言葉を足した。

その〝シールド〟についても、〝瘴気が少ない〟ってことも合っているみたいだね。

「拐われて、もし逃げられないような状態だとしても、君はなんらかの助けを求めてくるはずだ。でも音沙汰がないということは、それができない状態であると考えられた」