軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第828話 稀人と聖力

神官さまはわたしが帽子を取っていないことを確かめてから、忍足でドアに向かい、ドアを開けた。

すると、ここまで案内してくれた背の高い神官さまがよろけて入ってくる。

持っていたお盆の上のお茶を溢さなかったところは、評価するところなのかな?

これ多分、聞き耳立ててたってことじゃない?

カムロ神官は胸の前で十字を切る。

「これはサムディ神官。何かご用でしょうか?」

「お茶をお持ちしました」

「それは、ありがとう存じます」

カムロ神官は、背の高いサムディ神官にまたまた十字を切って見せて、お盆ごと頂戴し、ドアを閉めた。

テーブルの上にお盆ごと置いて、声を潜める。

「すみません。神の前では皆同じ使徒だというのに、序列を気にしたがる者が多くて。ひょこっとやってきた僕に、金まわりのいい貴族をとられたら困ると思ったのだと思います。もう帽子をとってもいいですよ。

僕はルシオです」

わたしは帽子をとる。

「トスカです」

ルシオはとても優しく瞳を和ませた。

そして胸のポケットから、掌におさまる小瓶を出した。

「中身は聖水です。気分が悪くなった時、こちらをひと口含んだり、自分に数滴かけてみてください。あなたの瘴気の具合を見て欲しいと言われました。

神力は鍛えると瘴気を感じとれるようになります。僕も呪術師ほどではありませんが、瘴気のことが少しわかります。

あなたの中の瘴気を探るのに、手に触れても?」

わたしは頷いて手を差し出した。

ルシオの手はひんやりしていた。

両手で恭しくわたしの指先を手にとり、自分のおでこに近づけた。

……なんか体温があがってく気がする。

こんなふうに大事そうに扱われると、気恥ずかしいのも手伝って、なんかドキドキする。

そうか、結果が。多分結果待ちだからドキドキしているのだ。

閉じられていたルシオの瞳が開いた。

わたしを見て、にこっと笑う。

「あなたが持って生まれた瘴気の量は少ないようです。それにしては体内に散っている瘴気が多すぎるような気がします。一般的な量よりはとても少ないですけどね。これはあなたの負担になっているはずだ。

できればなるべく早く瘴気を取り除くことをお勧めします。……現時点では公けで瘴気を扱える呪術師はユオブリアにしかおりません。ですから、一刻も早くユオブリアで呪術師から瘴気を取り除いてもらってください」

「瘴気を持っていると、どんな風に危険なんですか?」

「瘴気の量を普通に持って生まれた方でしたら、問題ありません。元の量が少ない方は、瘴気の蔓延する速度がより早くなる。今は何もなくても、もし瘴気で攻撃されるようなことがあった場合、一気に身体への負荷がかかります。

身体的に現れる不具合は、頭痛、口の中の乾き、呼吸困難、胸の激痛、悪寒、発熱、身の置き所がなくなるなど、多岐に渡ります。

身体に悪さをされると、精神的にも不安定になります。……そんな時は支配されやすくなる」

支配? 誰に?

「実のところ、生まれ持つ瘴気量が少ない人が稀なので、よくわかっていません。その稀人は、聖力を使えるようになる素質を持っているといいます。瘴気に弱いので聖力で防御したと」

にこっと笑う。

瘴気が少ない……聖力……。聖なる力……。聖なる方。聖霊王……。

頭が痛い。急な激しい痛みに、わたしは頭を押さえた。

「トスカ、どうしました?」

「どうした?」

「トスカ、これを飲んで」

ルシオ神官がわたしのカップに聖水を数滴たらした。

カップを寄せられて、わたしは一口お茶を含む。

手が震えていたので、ルシオがカップを持って飲ませてくれた。

目を瞑り、ガンガンする痛みに耐える。

しばらくして、やっと痛みが遠のいていく。

息を整えて、目を開ける。

ふたりが心配そうにわたしを見ていた。

「大丈夫か?」

「痛みは治った。大丈夫……」

ふたりは目を合わせ、申し訳なさそうな顔をした。

「急ぎすぎたようだ。悪かった」

「無理をさせるつもりはなかったんです」

急に謝りだす。

謝ってもらうことでもないよと言いたかったけど、しんどかったので、わたしは「ちょっと休む」と言って、テーブルに突っ伏した。

ドレスに似合わない振る舞いだと思いながら。

イザークとルシオは、ふたりで会話する。

わたしに注意を向けていられるより、よっぽどありがたい。

そしてそうしてくれているのは、わたしのそんな気持ちを汲んでくれているのだろう。

「やっぱり、神官同士でも探り合いや、蹴落とし合いがあるのか?」

イザークがストレートにルシオに尋ねる。

「神の声が聞こえない者も多いのが事実でね。一生懸命やればやるほど、追い詰められ、結果に現れないと不安になる。まぁこれでもセインの件で神獣の姿と力を見ることができ、神力を実際感じたからマシになったけど、その前はもっと酷かった。

こんなに祈っても通じないって、神は本当にいるのかって疑心暗鬼になるんだろうね」

「疑心暗鬼になると蹴落とすのか?」

「疑心暗鬼になるから、自分の今までを無意味にしないために、神の存在自体を偶像であると置き換えて。その上で利益をむさぼり、心を慰めようとするんだよ」

それってただ自分の実力が認められないのは、認めない方がおかしいのであって。だから金儲けでもしてやって、溜飲を下すぜってことだと思うんだけど。

神官さまが分析すると、高尚なことのような気がしてくる。言葉のマジックだ。要するにものは言いようってことさね、と思っているうちに、少しずつしんどさがマシになってきた。

わたしはむくりと体を起こした。

「大丈夫か?」

「大丈夫ですか?」

「落ち着いた。ありがとう」

わたしは目の前のカップの、聖水いりのお茶をコクコクと飲み干した。

確かに聖水を飲むと、ちょっとスッとする。