軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第805話 笑うことを忘れた少女④見守る森の瞳

馬に積まれた荷物に気づいたわたしたちは、お腹を満たし、服を変えた。

それでかなり落ち着いた。

なんであの銀髪はこんなことをしてくれたんだろう?

きっかけにはなったけど、賭けのことなんてすっかり忘れていた。

律儀に覚えていて、本当に逃げてくると思って報酬まで用意して待っていたのだろうか?

というか……いや、違う。逃してくれたんだ。

どういうこと?

意味がわからないのは気持ち悪いけど、助かったには違いない。

……お礼も言ってないや。

若干気が軽くなったわたしと対照的に、3人は体育座りをして顔を膝小僧に埋めていた。

……わたしより長く一緒にいた分、衝撃は大きいだろう。

マトンは多分、わたしたちを売った。

情報を渡して、自分を売らない約束を取りつけたのかもしれない。

でもその約束が守られたとしても、それがいつまで続くかわからない。なぜなら、あの組織は魔力至上主義であり、わたしたちに魔力がないことは変わらないのだから。

わたしたちが捕まらなかったことによって、彼がひどい目にあっているのは予想がつく。でも同情している余裕はない。わたしたちだって見つかれば同じような目にあう。

もっと遠くにと思う気持ちもありながら、マトンのことが心にのしかかる。

それに昨日は寝ていないようなものだから、お腹が満たされたら、眠くなってきた。

でも今は少しでも遠くに。

問題は馬にどうやって乗るかだ。

なんとかジンとエダは馬に乗り込み、わたしたちに手を伸ばした。

けれど、上から引き上げてくれるには力が足りない。

馬に乗り込もうとすったもんだしていた時、山がざわっとした気がした。

わたしが動きを止めると、ジンにますます手を引っ張られた。

上から犬が降ってきた? 大型犬ほどの大きさだ。

サモエドだっけ?

「野犬か? 大きい! トスカ、早く上に」

すっごいきれいな真っ白な毛並み。引き込まれそうな森の翠の瞳をしている。

え? リュック背負ってる?

「すっごい、もふもふ」

「もふもふ?」

ジンが馬から飛び降りて、もふもふに吸い寄せられそうになったわたしの腕をつかんで止めた。

「噛まれたらどうすんだよ?」

「でも全然唸ってないよ?」

わたしたちに興味を持っているように感じる。

わたしは恐る恐る近寄った。

「触ってもいい?」

「おい!」

後ろから止められる。

真っ白のもふもふは、わたしの目をずっと見ている。

「わたしはトスカ」

機嫌良さそうに揺られていた尻尾がぽてっと地面に落ちた。もふもふが体の動きを止めたような気がした。

「あなたの名前は?」

答えてくれるとは思わなかったけど、わたしはそう言いながら手を伸ばした。もふもふはわたしから目を離さない。

あ、あったかい。

暑さが嫌な季節なのに、生き物のあたたかさって落ち着く、

頭を撫で、首を撫でて、その後ぎゅーっともふもふに抱きつく。

あ、あれ?

なぜかわからないけど、わたしは涙を流していた。

涙が止まらない。

もふもふに滴が落ち続ける。

もふもふがその涙を舐めた。

「ごめん。わからないけど、止まらない」

わたしは怖かったのかな? ここまで逃げ出せて安心したのかな?

それともマトンのことが心に引っかかっているのかな?

「ダメでちよ」

ん? なんか聞こえた。焦っているような声?

「なんか言った?」

わたしは振り返ってジンたちに尋ねた。

みんな揃って首を横に振る。

「なー、このままここにいるのか? どうすんだよ?」

わたしはもふもふの首にしがみついたまま尋ねた。

「……今、マトンはどうしていると思う?」

「なっ、なんでそんなこと聞くんだよ。あいつがどうなろうと……」

言いながら尻つぼみになっていく。手を拳にしているジン。

「あいつお調子者だけど、誰よりも怖がりだから。きっと逃げ出せないと思って、怖かったんだ……」

エダはもう許しているようだ。

ひとつ間違えれば、告発されたことで、あの場でわたしたちがどうなったかわからないのに。

「きっと、今頃、叩かれてる……」

ミミがグスっと泣いた。

ある程度は痛めつけられるだろうけど、命をとるまではしないだろう。

本当は5人売るつもりだったんだ。ひとりだけでも売ろうとするはずだ。

………………………………。

もふもふは日向の匂いがする。どこか懐かしい。

真っ白のもふもふに、わたしは顔をすり付けた。

そうして、瞑った目をゆっくり開ける。

森の色の瞳。もふもふはわたしをまっすぐに見る。

お前のしたいことはなんだ? そう聞かれている気がする。

わたしのしたいこと。

アリの巣から逃げたかった。でもそれは〝仲間〟と一緒のはずだった。

一人だけ、 逸(はぐ) れてしまった。

彼がいなくなった後に、大人たちがわたしたちを探しに来たから、逃げようとしたことを話したのはマトンだろう。

ふと、ひどいなと思う。

マトンが手洗いに行き、大人にみつかる。そこでなぜお前こんなところにいる?と叩かれて、計画を話したのかもしれない。

それなのに、捕まえられて渋々話したのではなく、自分が助かろうとして話したのではないかと最初から思ってしまった。

マトンはお調子者だけど悪い子じゃない。なのに、そう思ってしまった。

それはどうしてだろう?

……ああ、そうだ。何かを犠牲にしてでも自分が助かりたいという思いがわかるからだ。自分の中にもあるからだ。

マトンとの違いは、それを実行したか、しなかったかにほかならない。

わたしはマトンに対してひどい考えを持った。これは良くない。

でも、思った通りかもしれない。それはマトンに聞かなくてはわからない。

マトン本人に聞かなくちゃだ。

ペロンともふもふがわたしの頬を舐める。

「ありがとう」

わたしはもふもふにお礼を言った。

もふもふの森の色の瞳に見つめられると、背筋が伸びる気がする。

さて、マトンだ。マトンに聞きたいことができた。

だからわたしはマトンをアリの巣から救出したい。それで聞いてスッキリさせなければ。

……奴隷商人が引き取りに来た時に?

いや、組織にも疎まれているわたしたち。そこに奴隷商人まで加わって追われることになったら勝ち目はない。引き渡される前に、奪還する方がいい。

奴隷商人は今日引き取りに来るはずだ。その時ひとりも引き取りがなかったら、怒るだろうし、違約金なんかも発生するのでは? そうしたら組織も打撃を受ける。それは喜ばしいことな気がした。

わたしたちはまだ穴の中にいると思われている……。

大捜索をされていることだろう。

日中は巣の扉は固く閉じられる。

入ることはできない。引き渡されるのを待つしかないのか?

扉は閉じられている……。

そっか。入っていけないのなら、中の人たちが出てくればいいんだ!

さっきシナドラの花を見た。ツタがあるから、きっとホウズイの根も見つかるだろう。