作品タイトル不明
第784話 急病⑥公子の目的
わたしは睨みつける。
「ひょっとして、〝女王〟がテンジモノなのですか? わたしはそう疑われているのですか?」
脱線させちゃる。テンジモノ疑惑回避のためだ。
セインが〝女王〟の定義を持ち出し、ワーウィッツを動かしていた。
わたしは被害にあっているから、セインの公子から言われて女王に絡んだことを思い出しても不思議はない。
そしてわたしは〝女王〟も〝テンジモノ〟のこともわかっていない雰囲気も伝わるだろう。
「女王とテンジモノも違いますよ」
へー、女王を知っているんだ、やっぱり。
「〝女王〟だと仕掛けてきたのは、あなたですか? 女王とはなんですか? そして今度は〝テンジモノ〟と。テンジモノとは聖女とも女王とも違うと。それはなんなのです? そしてわたしがテンジモノとして何をさせる気ですか?」
ナムル氏はわたしの目を探っている。
「セイン国では女性の目をそんなふうにジロジロみるのがマナーですの?」
不快さを現すと、彼は形だけ謝る。
「失礼しました。あまりに美しい森の色で、引き込まれてしまいました」
よくいう。
「女王を焚きつけたのは我が一族ではありませんし、女王とはいく通りか説があるので、正しくはわかりません。それでも確かなことは200年前に、もうたとえ女王が現れたとしても、何かが変わることはないということですね」
なんだと? もう女王が役立つことはないとわかっていながら、あんなことを仕掛けたというの?
「半端な知識あるものが、繁栄を夢見るとああいうことが起こるのですよ。愚かなことだ」
「わかっていて止めないのも、同じように愚かに思えますが」
微かに睨まれる。
わたしはにこりと微笑む。
「お嬢さまはテンジモノと認めたくないようですが、それもいいでしょう。あなたがテンジモノでもそうでなくても、私が今あなたに価値を見いだしました」
気持ち悪っ!
「最初から君を見ていたら、婚姻を結ぶ計画を立てたのに」
その主語はナムル氏を指す気がするんですけど。
めっちゃ、恐っ!
「セインの方々は、婚約者がいるわたしに対して、失礼なことをおっしゃいますのね。気分が悪くなってきたので、お引き取りください」
「いいのですか? 殿下を見舞わなくても?」
この人、考えが気持ち悪いし、頭が切れるみたいだから、わたしが対峙するには危険な気がする。
「お引き取りください」
わたしが立ち上がると、ガーシとシモーネがわたしの前に来て、ナムル氏をドアに誘う。
「ますます気に入りました。引き際を見極められるなんて。俄然、あなたを手に入れたくなった」
「お引き取りを!」
「婚約者が邪魔ですね。それ以外にもあなたの大事な物をひとつずつ消して差し上げます。あなたは自ら私を訪ねてくるでしょう」
「ユオブリアに悪意があるのはあなたですの?」
ガーシに追い込まれるように扉に近づいた時に、一番尋ねたいことを聞く。
彼はなんでもないように答えた。
「いいえ。私はユオブリアに興味があるので、悪意なんかありませんよ。ああ、誤解されていたのですね。私はユオブリアに何かしようとは思いませんよ。ユオブリアに欲しいものがあるのでね」
欲しいものがある……。それが理由。
そう言って最後に笑顔を残して出て行った。
隣の部屋がザワっとする。
出て行ったのかな?
さて、みんなのいる部屋へと入っていくと、部屋に陛下が入ってくるところだった。
うわぁ。わたしは慌ててカーテシーをする。
ナムル公子も出ようとしたところに陛下が入ってきたみたいだ。
わたしとナムル氏の会談は隣の部屋で見ていてもらった。録画の魔具に細工をして。その状況を見て、誰かが陛下を呼んだのだろう。
だとしたらわたしのすることは、ナムル氏が薬師だと言いつけることだね。
「シュタイン嬢、具合はどうだ?」
陛下がお見舞いに来てくださった設定みたいだ。
陛下が上座に座る。
「だいぶ良くなりました。ありがとう存じます。ロサ殿下はいかがですか?」
「医師団がついておるから、大丈夫だ」
陛下は微かに息を吐く。
「ホアータの公子もシュタイン嬢の見舞いか?」
「はい、陛下。お嬢さまがご気分が優れないようですので、引きあげるところでした」
って言われると、わたしが陛下に嘘をついて体調がいいと言ってることになるのよね。
「ホアータさまが気分の悪くなることをおっしゃるんですもの」
お前から仕掛けてきたんだからなと、わたしは芝居がかった声をあげる。
兄さまが立ち上がり、わたしを座らせようとする。
「ハハハ、若いと仲良くなるのも早いのか。何を言われたのだ? ひどいことなら余が叱ってやろう」
ナムル氏は驚いている。まさか陛下とわたしが叔父さんと姪っ子のような会話をするとは思わなかったんだろう。
わたしの甘えた発言を叱ることなく、陛下自ら〝仲がよくなったから忌憚なく言えること〟と丸く収めようとしていることで、わたしと陛下の親密度をアピールだ。
セインの公子は顔の表情をなくした。わたしのしようとしていることがわかったんだろう。そして陛下がそれをきちんと聞く体制となっていることに。
「ホアータさまは薬師だそうです。それで殿下を診てくださると言ったのですが、それにはわたしに条件をのむようにとおっしゃるんです」
チロリと陛下はナムル氏に視線を送る。
いや、この部屋にいるみんながだ。
「どんな条件だ?」
陛下がわたしに尋ねる。
「わたしがテンジモノだとかおっしゃって。わたしに興味があると。書に書いてあるテンジモノとは違う意味を持つようなことをおっしゃるのに、それがなんなのかも教えていただけず。
婚約者がいると申し上げましたら、婚約者が邪魔ですね。それ以外にもあなたの大事な物をひとつずつ消して差し上げます。あなたは自ら私を訪ねてくるでしょうなんておっしゃいますの。条件は聞いておりませんが、わたし嫌な気持ちになったのでお引き取り願ったのですわ。そうして出て行ってもらったら、こちらの部屋から音がしましたので、入ってきたところです」
「セインの第3王子もシュタイン嬢に同じようなことを言ってましたな。感心できない女性の口説き方だ」
陛下は最初の発言通り、ナムル氏を叱ってくれた。
公子は顔をあげられないでいる。
非難されて仕方ない言動だったことはわかっているようだ。
「そういえば、公子はブレドと話をしたのだったな。その後すぐに具合が悪くなったようだが……、ブレドの様子はどうだったかね?」
陛下は真っ直ぐな目をナムル氏にむけた。