作品タイトル不明
第769話 いいこと悪いこと③腕相撲
ハウスさん経由で父さまに連絡をしてもらい、早速家族会議だ。
アダムの考えを伝えると、サーッとアラ兄の顔が青くなった。
その肩をロビ兄がそっと叩いている。
「父さま、ごめんなさい。オレが作った魔具のせいで」
「自分を責めるんじゃない。向こうは揚げ足取りをしているんだ。それに傷つくことはない。アダムくんの言ったように、本体はこちらにある。ドナイ侯が怪しかったとし、それで通るだろう。
でもそれにしても〝リディーの大切と思う誰かを盾にとるか〟とは思ったことはあるが、〝追放させる〟は思いもよらなかった」
「あの、なんか、わたしの……」
「「「リー(リディー)のせいじゃないよ(ぞ)」」」
3人の言葉が合わさって、わたしたちはみんなでちょっと笑った。
次の日は静かな一日だった。
その次の日は兄さまが到着して会うことができた。
毎日フォンで話しているけれど、会うのはやっぱり格別だ。
それなのに、どこか照れ臭さがあって。この気持ちはなんなのだろうと、なんだか胸がバクバクする。
兄さまはわたしに誰から加護の力をどう思われるか分からないから気をつけろとしていたけど、その誰かがセインも当てはまるとわかっていたみたい。まぁ、だから経済制裁を第1の手に考えたのだろう。それに協力した人はみんな……。
ロサからも伝達魔法が届く。
勅使であるミッナイト殿下が、兄さまとアダムが一番最初にセイン切りを始めたから、その釈明を聞きたいと言ってるとのこと。
そしてそのあとシュタイン領に行くと言っているので、シュタイン領で迎えるよりは、城に来て話し合いを済ませた方がいいだろうというお誘いだった。
追伸として、アダムからやっぱりロサにも連絡がいったようで、陛下にも事情を耳に入れておいたとのことだ。
だからみんな、仮定ではあるけれど、セインはユオブリアを落とすのが目的。次に邪魔なわたしをなんとかしたい。わたしが一緒についていくような人を追放させるように仕向けるつもりだと考えている。そして今、その最有力候補はアラ兄という気がする。
城に行く人選だが、わたしも行くことにした。結局のところ、わたしをどうにかしたい目的だろうからね。そしてアラ兄はもちろんお留守番だけど、ロビ兄は父さまに一緒に行きたいと願い出た。父さまはじっくりロビ兄の顔を見て、それを許す。
だから今回お城に行くのは、呼び出された兄さま、父さま、わたしともふさま、ロビ兄。そして護衛のガーシとシモーネ。
エリンとノエルは謹慎中だけど、アラ兄と協力してしっかり母さまたちを守るようにと諭した。ハウスさんの守りがあるけれど、そのうろちょろしている外国人というのが気になる。町の自警団のおじいちゃんたち、それからシュタイン領在住のフォンタナ家の人たちにも警備をお願いする。
デビュタントを済ませたので、登城には正装が望まれる。ゴッテゴテの、エスコートなしでは歩きにくいのがドレスコード。本当に歩きにくいに限定されているわけではないけれど、わたしにはそう見える。幸い親戚の皆さまがデビュタントを済ませたのだからと、前もっていくつか用意してくださったので、それらの中から一番格式高そうなものを選んだ。お化粧もしっかりだ。
クジャクのおじいさまの転移で王城入りした。
やはり8角形の部屋に転移し、ひとつの部屋で待たされる。
護衛のガーシとシモーネは内側の扉のところで守っている。
お茶を飲みながら待っている時、父さまは兄さまに一言だけ聞いた。
「相手は王族だ。大丈夫か?」
「父さま。私はこれからずっと、リディーに降りかかる悪意を振り払います。父さまが今までしてきたように」
父さまは「そうか」と呟いて、兄さまの肩を叩いた。
兄さまと会えてから、いろいろ尋ねてきた。大丈夫だとはいうけど不安は残る。だって兄さまは侯爵。王族とは大きな差がある。
今回のことは、わたしのために、他国に喧嘩を売った形だ。
ただ兄さまに「私を信じて」と言われてしまったので、心配も大っぴらにできない。
兄さまとロビ兄が腕相撲の勝負を始めた。審判は父さまだ。
これもわたしが教えた遊びだけど、特にフォンタナ家でめっちゃ流行っている。
おじいさまに手招きをされた。
わたしはおじいさまの前に行く。
おじいさまは椅子に座ったまま、わたしを小さな子のように抱き上げ、膝に抱っこする。布のかさばったドレスで、ドレスだけでも重量があるのに軽々と。
「お、おじいさま、わたしもう13歳よ」
「本当にリディアは小柄だな。エリンが姉さまより大きくなっちゃうと泣いていたぞ」
エリンってば。でも本当にそうなんだよね。下の双子は身体の成長が早くて、5つも下なのに、わたしはもう抜かされそうだ。ノエルにはもう抜かされている。上の双子も歳をごまかしていることもあり大きかったので、なんだかわたしだけすっごいちっちゃいみたいになっている。
あ、エリンが食事を減らしだしたんだ。
スリムだし、成長期なのにダイエットはよくないと母さまと心配していた。
原因はそれか。わたしより大きくならないように、食べないようにしてたんだ。
いじらしいんだから。
おじいさまがわたしの耳に口を近づけた。
「男はな、カッコつけたい時があるんだ」
え?
「好いている女のことは命がけで守りたい。カッコつけさせておやり。しっかり守ってもらえ。リディアはフランツの唯一なのだから」
わたしは身体を捻って、おじいさまを見上げる。
おじいさまは目の横のシワを深くさせて、ほらとテーブルの上の競技にわたしの視線を誘う。
組まれた兄さまとロビ兄の手が振動しながらも左右には振れない。力が均衡しているのだろう。
「ほら、婚約者を応援してやれ」
おじいさまにけしかけられる。
「に、兄さま、頑張って」
「ずるいぞ、リー」
すかさずロビ兄から抗議が入った。
「ロビ兄も頑張って」
兄さまの手がグググっと傾いて、ロビ兄の手の甲をテーブルにつけた。
「フランツの勝ち!」
兄さまがこちらを振り返る。
「リディー、ありがとう。勝てたのはリディーのおかげだよ」
すこぶる笑顔をもらった。
「ちぇっ」
「ロビンにまだ負けないよ」
兄さまとロビ兄でジャブが始まる。
その兄さまの耳の後ろが赤くなっていて、わたしにもそれが感染る。
胸がドキドキした。
もふさまがわたしを見上げた。
『どうした、リディア? 興奮しているぞ?』
……もふさまの言うことが、みんなにわからなくてよかった。