作品タイトル不明
第759話 冒険者の仲間入り⑩アラ兄の未来視
まだヴェルナーを追い詰める案が思い浮かばないので、アラ兄たちと山に行ってみることにした。
誰かから見えることがないように〝路傍の石〟を発動だ。もふさまに山頂に連れて行ってもらい、上から山を見渡す。中腹から一部が崩れ落ちている感じだ。
山に住んでいる獣たちもさぞ困っていることだろう。
作業をする人たちは下からくるはずなので、崩れ始めたところに降りてもらう。やっぱり獣たちが色々困っていた。でも頑張って生きていた。
わたしたちは土魔法で補強しながら、土砂に埋まった獣を出したり、動けなくなった子を救出していった。
よしよし、これで簡単に崩れたりはしないだろう。
双子は小さい頃、共同で物をよく作っていた。だからか、魔力を合わせることが得意だ。魔力を合わせるってのとは違うかもしれないけれど、フォローの仕方が絶妙なのだ。足りないところを補ってくれる感じ。それはわたしが混ざっても同じだ。
わたしたちの土魔力はこの山に行き渡ったと思う。うん。やりやすかった。
「ヴェルナーをどうしてやるか、決まった?」
移動しながら、アラ兄が振り返ってわたしに尋ねる。
わたしは首を横に振る。
『俺が倒してきてやろうか?』
レオが言い出せば、もふもふ軍団はみんなやる気をみなぎらせた。
ふふ、ありがたい。
こういう味方がいるから、わたしは立っていられるんだ。
「レオ、みんなも。気持ちは嬉しいけど、力によって倒したら痛みは 一刻(いっとき) でしょ? わたしはね、ヴェルナーには一番堪えるやり方で返してやりたいのよ。だから倒しちゃだめだけど、心強いよ。みんなが居てくれるから、わたしは強くいられるの」
本当にそうだ。
今回のことだって、今はまだ麻痺しているけど、多分、本当はすっごく怖い。
だって、山崩れだよ。山崩すって何? わたしのことがむかついている発端で関係ない人たちや、山の獣たちどれだけ巻き込むの?
「アダムにも感謝だな」
アラ兄がアダムの名前を出すと、ロビ兄も頷く。
「うん。奇襲は思いつけても、カモミン幼体を持っていることでの犯罪者へ、さらに本当の目的は雪くらげの住処、なんて思わないもんな」
「アダムだけじゃないよ。雪くらげを調べていたって情報、カモミンの幼体を買ってる人がいること。それぞれ教えてくれたウッド家、それからガゴチの若君も、感謝するところだよ」
アラ兄に諭され頷く。
「そうだね」
「でも、リー。そう情報が集まってくるよう人との縁を持ってきたのがリーなんだ。それを忘れないで」
わたしは顔をあげる。
「縁を持ってきた?」
「そうだよ。人は何かを見たり聞いたりしている。でもそれを必要な人のところに渡すことによってはじめて情報となる。みんながそれぞれリーに届けたい情報だって思ったところが凄くて、そうしてもらう縁を作ったリーも凄いんだ」
「だな。情報も、運も人から入ってくる!」
アラ兄のセリフに続けて、ロビ兄が断言する。
情報も運も人から入ってくる、か。
知りたい人のところにやってきて、それは情報としての価値がつく。
事実の羅列が意味を成すのは、人を介するからだ。その振り分けは人にしかできない。
「人の集まりの中で生きていくには、人からの情報、運が巡ってくるのが何よりの強みになる。リーはもうそれを持っている」
アラ兄がわたしの腕を優しく触れる。
「だから大丈夫だ」
「そうだ、大丈夫だぞ」
ロビ兄が頭を撫でてくれる。
ふたりにはわかっちゃってたんだね、わたしがヴェルナーのしたことを怒りながらも怖がっていることを。だから励ましてくれたんだ。
「ま、それは置いておいて。アダムとはけっこうフォンしてるみたいだな?」
ロビ兄に言われて頷く。
「そうだね。わりと話すよ」
そう言うと、ロビ兄はアラ兄と顔を見合わせた。
「え、何?」
「いや。リーはリーだなと思って」
「え、何よそれ?」
「リー、未来視してあげる」
「え、アラ兄が?」
「うん。これから毎日兄さまからフォンがくるよ」
ええっ?
「あーー、心配かけちゃったものね」
「あんなー、リー」
何か言いかけたロビ兄の口をアラ兄が塞いだ。そして言われる。
「リー、ヴェルナーのことで思っていることを、兄さまに相談してみなよ」
「え、兄さまに? ……でも兄さま忙しいから」
ロビ兄がアラ兄の手を振り払う。そして言った。
「いいから、今フォンしろ! 兄さまを少しは頼れって。それにな、リーは変なところできっちりしすぎなんだよ。リーと兄さまだけのケータイ作れるだろうに、なんで兄さまもフォンなんだよ」
「え、だって……」
「それはいいだろ、リーがそうしたいんだから。でも今、ほらフォンはかけろ。相談するんだ」
アラ兄にもけしかけられる。
兄さま、忙しい時じゃないかな?
でも、双子兄の視線に耐えられず、わたしはフォンの通話を出して、兄さまのフォンに繋げる。
8コールで出なかったら忙しいのだろうから、切ろう。うん。
1コールで兄さまが出た。
「リディー?」
「あ、兄さま」
すぐに出たのでびっくりした。
驚いたものだから、すぐに言葉が出ないでいると、兄さまが焦ったように言った。
「何かあった?」
「うーうん、何もないよ。今、少し話しても大丈夫?」
「少しと言わず、いつまでも話したいよ。いや、会いたいな、本当は」
「それはわたしもそうだけど……」
はっ。アラ兄とロビ兄に見られていたので、くるっと後ろをむく。離れたところで、ガーシとシモーネが護衛してくれているのが見えた。
「眠れた? ご飯は食べられた?」
「うん、大丈夫。兄さまはご飯食べてる? 仕事が忙しいからって疎かにしてない?」
「リディーと一緒だったら疎かにならないんだけどな」
「うん、わたしが一緒だったら、絶対ご飯食べてもらうよ」
なんて話しながら、聞かれるままに、今日の朝ごはんから、今山をこれ以上崩れないようにしにきたことまで話していた。グリットカー氏から聞いたことも含めて。
「リディー、怖かったね」
「え、うん。でももふさまが跳んでくれたから」
「うん、それもだけど、ヴェルナーが誰かを傷つけたり、自分を守るためなら、どんな犠牲も気にしない。そんな人がいるとわかって、とても怖かっただろう?」
あ、まずい。予想してなかったところから踏み込まれて、目が熱くなる。
「そんな怖い思いをしている時に、隣にいなくてごめん」
わたしは首を横に振る。声だけのフォンだから、それじゃ伝わらないとわかっていても、声が上擦りそうで。
「でも、リディーがヴェルナーと同じところまで落ちる必要はないよ。リディーのやり方でとっちめてやればいい」