軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第740話 ローレライの悪夢<後編>

「どうしたんだい、リディー?」

訝しい気な顔をする。

「兄さまのフリをしないで。あなたは兄さまじゃないわ」

「リディー、どうしたの?」

心配そうな顔で聞いてくるけど。

「兄さまは守ってくれるけど、大好きなものだけに囲まれていればいいなんて言わない。一緒の景色を見て、一緒にいいと思ったり、よくないって思ったり、どうしたらいいか考えてくれる人よ」

兄さまはわたしと同じ歩幅で、一緒に時を刻みたいと言ってくれた人だ。

「馬鹿な子だねぇ。いい夢の中に永遠にいればよかったのに」

兄さまの姿で、兄さまの声で、そんなセリフが呟かれる。

あたりが急に真っ暗になった。

思い出す。

わたしダンジョンに来てた。108階を攻略中に、湖の部屋に辿り着き、そしてメロディーが聞こえてきて……。

「みんなはどこ?」

暗くて見えないけれど、目の前にいるのは変わらないのだろう。

「お前はここで私の養分となるのだ。そんなことを知る必要はない」

多分、夢を見ているような状態だったんだと思う。

……大好きなものだけを集めた、夢のような世界。

身分の差がなくて、みんな仲良し。ミニーも学園に通っていて、学園の友達とも混ぜこぜで……。家族のいる領地にわたしは毎日帰っていた。

みんな優しくて仲が良くて、楽しくて、いつも笑っていて。

……わたしはとても愛されていた。

アンドレ殿下が生きていて、ロサとアダムとも親交があり。

……そうか、それがわたしの望む、大好きなものだけを集めた世界……。

好きなものだけしか存在しないそんな世界、それがどんなに素晴らしいかも分かっている。でも……。

暗いので、とりあえずライトをつける。

古城の一室という感じだ。わたしと兄さまに化けているローレライしかいない。

空っぽダンジョンは、フィールドの性質が2パターンあった。

ひとつは魔物とのガチバトル。本来のダンジョン通り、魔物の強さが全て。

もうひとつは、ストーリー性があるフィールド。

物語性のある魔物を作った人は、……恐らく戦うことに忌避がある人だ。だから、ダンジョンに生息しているのに、どこかチグハグな優しい魔物。

地下2階のデュカート然り。地下3階の水辺のイグアナたち。地下7階の牧場といい……。その他にもヘンテコな魔物たちの物語が下地にあった。そのフィールドでは、魔物自体に勝つことが目的ではなく、その物語に気づけるかどうかが鍵であるような気がした。

108階はアンデッドの徘徊するフィールドだ。一見魔物の力勝負のようであり、でも、この階はストーリーで成り立っていると、今、確信する。

アンデッド、地に還ることのできない魔物たち。

湖、メロディーといえば、ここのボスはローレライを模したものだろう。

このローレライの弱点、なんだろう? そこにきっと物語がある。

「ちょっと、いつまで兄さまの姿でいるのよ?」

挑発してみる。

魔物は軽く目を瞑ってから、元の姿へと戻った。

攻撃してくるかと思ったけど、素直だ。

深緑の長い髪。年頃は15、6? ノースリーブのシンプルなワンピースの女の子だ。人魚の見かけではなく、足がある。顔が少しミニーに似ている気がした。

「あなたの好きな世界に閉じ込めてあげたのに、何が不服なの?」

魔物の少女は口を尖らす。その仕草がまたミニーを思い出させる。

言われて思う。

「不服というか、知っているから」

「何を?」

「哀しい思いも、糧にしていかないといけないことを」

人は誰でもオリジナル。だから考え方も思いも違う。衝突したり、間違えたり、そんなことは当たり前。違うんだから当たり前。だから絶対に悲しみも、哀しみも発生する。辛いこともある。嫌なこともある。でも、それを覚えていて乗り越えていかないと、哀しみが残っていくだけ。辛いことが増えていくだけ。

どんなふうでもいい、乗り越えていくことが、他者と生きていくということなのだ。生きているということなのだ。

「甘い夢を見ていたのに、自分から遠ざけるなんてバカね。こんな甘い魔力を出していたくせに」

「夢を見せて養分をとっていると言ったわね?」

彼女はツンとした視線を寄こす。

そして甘い魔力と言った。養分は魔力なんだろう。

「だったら、何よ?」

「もっと甘い魔力をあげましょうか?」

「何を企んでいる?」

「あなたはわたしを閉じ込めようとして失敗した。わたしは閉じ込められたけど、見破って、こうしてあなたと対峙している。だから、勝負しようと言ってるの。わたしに勝てば、あなたはわたしの養分を手に入れられる、そうでしょ?」

少女はわたしをジロジロと見ている。

「あなた、油断ならない目をしている。だから、あなたの勝負は受けないわ。あなたを眠らせる」

そうわたしに向かって片手をあげた。

〝やっつける〟ではなく〝眠らせる〟なのね。

養分を末長く取るため? でもそのためには生かしておかないとだわ。

眠っている状態で……仮死状態にしておく能力があるんだろう。

できるなら甘い魔力が欲しいから、大好きな世界の甘い夢に閉じ込めるって筋書き?

なんでこの魔物は、幸せな夢の中に閉じ込めるのかしら?

幸せだと甘い魔力になるといいたげに。

けど、ずっと大好きなことだけの中にいて、慣れてきても、ずっと同じように好きだと思っていられるものかしら?

夢に閉じ込める。それは戦いたくないからかと思ったけど。

彼女は姿を表さなかった。歌だけ聞かせて、自分の姿は見せない。

今は姿があるけれど。……兄さまにも、もふさまにも、ミニーにも、誰にでも化けていた。世界観はわたしが作り上げたのだろうけど、わたし以外の発言は、多分ローレライ。今の少女の姿も仮のものなのかもしれない。ミニーに似ているもの。わたしに合わせたんだ。

姿を見せたくない??