軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第698話 はかられごと⑪親子の対話

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

わたしが刺した! わたしが兄さまを!

ガクンと膝が崩れる。倒れた兄さまに、差し伸べようとした手が行き場を失う。

こんなふうにしたのは、わたしだ。そんなわたしが、兄さまに触れる資格なんか……。

兄さまが薄く目を開け、手を伸ばしてきた。わたしの頬に掌を添える。

「……泣かないで。私が……自分で、やった……こと」

なんで 微笑(ほほえ) むの?

「全くフランツは水を差す天才だな。これじゃあ、リディアの中で君の評価があがるだけだ」

王子がしらけたというように、口を出してきた。

「レオ、魔封じの魔具を壊して!」

わたしは兄さまから目を離さず、後ろにいるだろうレオに呼びかける。

「もう、誰も立ってないよ?」

王子が軽い調子で言った。

え? 恐る恐る後ろを振り返れば、みんな地面に倒れていた。

国を潰せるぐらいのドラゴン、戦闘能力の高いアリとクイ。レベルの高い冒険者にひけを取らないアダム、ロサ、そして聖獣であるもふさまをこの人、ひとりで?

コツコツと、静けさを取り戻した庭園に足音が響いた。

「殿下、馬を用意しました」

アイラ!

「お前、無能だね。リディアを部屋に閉じ込めておけと言ったはずだが?」

「……申し訳ありません」

「……まぁ、いい。より、思い知らせることができたからね。でもなんでここに来た? サードが来るはずだったろ?」

「城の中はあたくしの方が詳しいので、頼まれました」

「リディアに手を出すなって言ったのに、どっからかの依頼受けたこと、私は怒っているのだからね。そして今度は閉じ込めておけなかった。いい、次はないよ?」

「……はい」

「じゃあ、リディアを連れて第3に行こうか」

「承知しました」

その時、庭園の明かり全てが灯った。

顔をあげると、入り口の方から団体様がやってくる。

先頭は陛下だ。陛下の後ろには、宰相、魔法士長、神官長、騎士団長もいる。その後ろにはさらに騎士たちが控えていた。

あ。そうだ、城の中でこれだけドンパチやってれば、さすがに気づく。

話を長引かせる、アダムたちはこれを待っていたんだ、応援を。

「お久しぶりです、陛下。いや、父上」

小さくなったレオが、いつの間にかそばに来ていた。

傷だらけではあるけれど、なんとか動けている。

「レオ、大丈夫?」

『その魔具……変だ。魔力がわからない』

わたしの足輪を覗き込むようにして、レオが言った。

「壊せないってこと?」

壊せないと、光魔法が使えない。

「壊せないって馬鹿ね」

わたしに向かって歩いてきたアイラが、小さな声で嘲笑う。

壊せないのが馬鹿?

魔具なんて普通そう壊せるものじゃ……魔具? 本当に魔遮断の魔具?

わたしは足輪を見て反射的にそういった魔具なんじゃないかと思った。

それを王子が肯定した。ひょっとして、言霊?

レオはこの魔具の魔力がわからないと言った。

収納ポケット、次元の 理(ことわり) を遮る方法なんてある?

わたしがついていくことになったのはイレギュラーなことのはず。

それなのに魔遮断の魔具を用意できたの?

わたしは最初から、第1王子の言霊を信じ、自分で魔力が遮られているとロックをかけたのでは?

……だとしたら、わたしは魔力が使える。

兄さまを助けられる。みんなを助けられる。

「ありがとう」

何に対してだか、わたしは手を組んで口にしていた。

そして自分の中の魔力を解放する。

わたしの持ってる魔力全てを使ってでも、傷ついた者を全回復する!

温かい光を思い浮かべる。

お願い、兄さま!

わたしの中から光の玉が湧き上がってきて、それが傷ついた者たちの中にそれぞれ入っていく。

レオにも。兄さまにも。もふさまにも。アリにもクイにも。アダムにも、ロサにも。

みんなわずかに発光しているように見えた。

『リディア、ありがとう!』

レオは回復したようだ。

兄さまの白い顔に赤みがさしてきた。血が止まり、剣が押し出されるように排出され、ころっと落ちる。ピクッとして目が開く。

「……リディー、また会えた」

「兄さま!」

「泣かないで。また会えたんだから、かわいい顔をよく見せて」

「兄さま、ごめんなさい」

「なぜ君が謝るの? わたしが自分の意思でやったことだよ? お願いだから泣かないで」

涙をぬぐって、無理やり笑う。

兄さまはもう大丈夫だ。

「みんなを見てくる」

小さくなってそばまで来ていたレオ、アリ、クイも、もう大丈夫みたいだ。

「もふさま!」

立ち上がろうとしたら、くらっとして、そこをもふさまが支えてくれた。

『……大丈夫だ。我らを治すのにだいぶ魔力を使わせてしまったな。今日はもう動くな』

光魔法は他の属性のものより、より魔力を使う。それにほとんどがわたしより魔力量の多い人たち、つまり格上だったから、魔力を持っていかれた。

もふさまはわたしに背を向けて、陛下たちの加勢に行こうとしている。

もふさまだけじゃない。兄さまも、もふもふたちも、アダムもロサも!

あんなに傷つけられたのに。

陛下たちがきたとはいえ、みんなで戦っても王子を抑えられるかどうか……。

またみんなが傷ついたらどうしよう。魔力はほとんど残ってない。100切ってる。いつもなら動けない数値だけど、変化スキルで多少鍛えられたのか、なんとか動けた。

「光属性、やっぱりあったのね」

睨まれていた。

いつの間にか後ろにいたアイラに、腕を引っ張られる。

「何するの?」

「移動する。行くわよ」

「行かない!」

「あんたの意見なんか聞いてない」

引っ張られる。

魔力が少ないから、フラフラしてる。アイラを振り払えない。

こうなったらと、わたしは駄々っ子のように座り込んだ。

アイラが怪力の持ち主でわたしを抱きあげるとかできなければ、わたしを動かせまい。

アイラはわたしを引っ張ったけど、座り込んだわたしはそんな態勢からでは、予想通り動かせなかった。

「お前が犯罪に加担していたのだな?」

陛下が第1王子に尋ねているところだった。

淡々とした口調だ。

「種を撒いただけ。犯罪となる証拠はどこにも出てこないでしょう」

「王妃をあの状態にしたのはお前か?」

初めて、第1王子が怯んだところを見せた。

「失敗したんだ。優しい母上になっていただきたかっただけなのに。眠ったままになっちゃって。でも、そのおかげで魔石の量がわかった」

辛そうな表情も束の間、結果オーライというように口の端をあげる。

「母親で実験したのか」

「母親? 王位につくことしか存在意義がないと言い募るのが? 喚いて、叩いて刺して? 首を絞めたり、毒になれさせるのが? 私の代わりをいっぱい作っておくことが?」

それは心からの叫び声であったと思う。

「父上も母上と一緒だ。私を守ってはくれなかった。狂うと決めつけて、殺されそうになってばかりだ。狂うから、弟や妹を作ったんだろう?」

「それは違う。人の欲というものは無くならないと同じように、不安も無くならないものだからだ」

陛下は深く息をついた。