軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第562話 変化

風邪ではなく魔力酔いだと証明できたので、試験も普通に受けさせてもらえた。

それぞれの試験の始まる時間に合わせタボさんに起こしてもらう。テストが始まったら、すぐに解いて、終わったら机に伏せて寝ていた。しんどい〜。

何も試験の時に魔力酔いを当ててくることないと思うんだけど、わたしの体!

そんなふうに3日が過ぎ、ようやく試験が終わった時、気が緩んだんだろうぶっ倒れ、アダムに保健室へと運んでもらったようだ。で、兄さまたちにより王都の家に帰ってきていた。年末の試験は試験の採点をするまでの3日がお休みとなる。その後1週間ほど通ったら、冬休みに突入するからだ。

その試験休みの3日のうち、2日まるまる眠っていた。

3日目、起き上がれた時、王都の家にメリヤス先生がやってきた。

問診が多かった。普段と変わり無いようでいて、わたしは怪しまれたことを感じた。

不安定なもっと幼い時ならともかく、10歳以上で魔力が急に増えたりするのはそうそう無いことみたいだ。

わたしは魔法戦や練習も合わせ、毎日のように魔力をギリギリまで使ったからかなと、もっともらしいことを言っておいたけど、響かなかったぽい。

その後に、チャド・リームがお見舞いにきた。

なんで、あんたが見舞いにくるんだ?と思ってしまったのだけど、チャド・リームは律儀なだけだった。

わたしはいろいろあって記憶の隅に押しやっていたのだけれど、彼はちゃんと覚えていてくれたのだ。彼の家庭教師であるホーキンス先生に会う算段を取り付けてくれた。

冬休みの初日に彼と一緒に、リーム領へ行くことを提案された。

わたしは家族に許しをもらってからになるが、ぜひお願いしたいと頭を下げた。チャド・リームはうちの過保護さをわかっているようで、お遣いさまや保護者の誰と一緒でも構わないと言ってくれた。

これは父さまたちを説得するのが大変だった。

領地以外にわたしを出すのは、まだ心配らしい。

もふさま、兄さま、アラ兄、ロビ兄総出で、リーム領に押しかけることになった。

次の日、登園すると、D組女子は非常に切羽詰まった顔をしていた。

勝負の結果が気になりすぎて、気持ち悪くなってるそうだ。

わたしは熱が出ていてボロボロだったから期待できない、みんな自分が頑張らなくちゃと臨んでくれていたようだ。試験が終わってからみんなで答え合わせをし、各自で点数は出していたようだけど、A組の点数はわからない。みんな頑張っていたし、それなりの点数だったけれど、不安は拭えなかった。

試験がどんどん返されて、次の日には成績優秀者の名前が貼り出される。

D組女子は快調だった。A組も頑張っていた。

わたしは熱があった最悪の状態で試験を受けたのにもかかわらず、学年総合で11位だった(自慢!)。クラスではジョセフィン が1位で、わたしは6位。

そしてそして、D組の総合点はA組より7点高かった。1年生の魔法戦でも勝ったので、プラス30点、37点差での勝利となった。!

わたしたちはお互いもみくちゃにされたり、しながら喜んだ。

先輩たちとも抱き合って喜んだ! 勝ったこともそうだけど、やったぶん力となり結果が出たってことに、自信を持てたんじゃないかと思う。

ヤーガンさまがドーン寮にやってきた。

「A組が負けましたわ」

と無表情に宣言した。

彼女は負けを認め、いつから罰則を始めればいいかの打ち合わせにきた。

わたしたちは冬休みになる前の1週間、明日から始めて欲しいと、予算の内訳の紙を渡した。

ヤーガンさまはこれから辛い食生活が待っているというのに、どこか晴々としているように感じた。

負けましたと言いにきたのも、みんなには意外なことのようだった。

夜はパーティーをした。食事を豪華にして、みんなで称えあった。

ガネット先輩が秘め事を打ち明けた時に、大泣きをしていたからか、湿っぽい雰囲気にはならなかった。

あの日、辛かったことも、自分の弱さも曝け出し、そして許し合って、思いを吐き出した。そして同時にポッカリと空いたところへ、わたしたちは何かを手に入れていたんだと思う。それを感じるだけで、満たされる何かを。

絶対、勝つぞとはスローガンにしていたけれど、精一杯臨むことが目標だった。力いっぱいやりきることが。勝ったのはもちろん嬉しいけれど、やりきれたことがみんな嬉しかったんだと思う。

みんなで、やったじゃん、やればできるじゃん!とひたすら明るくカラッとした楽しい時間だった。

それから何事もなく日々は過ぎた。

A組女子はやっぱり、辛そうだった。

わたしたちは話し合った。

そりゃ再戦を決めた頃は、勝って目に物を見せてやるぐらいの気持ちだった。

けれど、同じ辛い思いをしているのを見るのは、別に心踊るようなことではなかった。A組女子がひもじい思いをしているのを、喜ぶ子はいなかった。

仕返しをしたいという気持ちがあったことはある。けれど実際反対の立場になると、気分のいいことでもなかった。最初の1日ぐらいはともかく、続けば、気の毒になってくる。

わたしたちは勝ちたかった。貴族だろうが平民だろうが関係なく、できることを見せたかった。

勝負と銘打っていたけれど、それを達成できて、わたしたちは満足した。

それと、ヤーガンさまの本当の思いを知ったことも大きい。

〝平民だからと逃げ腰でいて、そんな考えなら学園の意思にも反しているし、平民ということにこだわり続けるなら学園にいる方が良くないから退園しろ〟

そういう意味の〝退園〟しろならば、まるっきり意味合いが違ってくるじゃないかと驚いた。その後の社会貢献も、これはヤーガンさまが平民のことをよくわかっていないから簡単に言ってしまったことだけれど、彼女の思いは、〝貴族と同じように社会貢献していれば、平民でも認められ肩身の狭い思いはしなくて済む〟だったのだから。

その真意をA組は知らず、誰も咎めず、従い、一連の結果となった……。

そうわかってくると、生活改善されてから月日が経っていることも手伝い、もう終わりにしようと、そんなふうに思えた。

みんな気持ちは同じだったから、代表して、もういいよと言いに行った。

けれど約束は約束とヤーガンさまは青い顔で聞き入れない。

そこでわたしたちは、それから残りの日々、A組に差し入れを持って行った。

最初はD組に施しを受けるようで躊躇っていた面々も、育ち盛りの空腹には耐えられなかったんだろう。手にとるようになった。

本当にあなたたちが作ったんですの? と、ご飯やお菓子を喜んだ。

わたしたちはいつの間にか、A組とずっと仲良くなっていた。

A組にも変化が起こっていた。権力ピラミッドに従うようなしきたりが生きていたけれど、よくないことはよくないって声を上げるべきと思ったようだ。

この勝負をすることになった元の事件の経緯を聞いて、思うところがあったらしい。自分たちが向き合わず、ただ従っていたことで、こんなことが起きたのだと。去年のことは関係ない1年生も、魔法戦で同じようなことがあった。反対の気持ちを抱えながらも従い、それが自分の首をしめることになったのを、実感している。

それでね、そんなのはもうごめんだと思ったみたいだ。自分のしたいこと、納得してやったことで罰が下されるならともかく、従うしかなかった状況で従い、悪い方へ流れた。そういう思いを二度としたくないと思ったみたいだ。

ヤーガンさまとガネット先輩が仲良くなり、ふたりの会話を聞いて、ヤーガンさまのことがみんなにも少しずつ見えてきたことも理由であるだろう。A組のヤーガンさまのお友達が言葉の足りないところを、突っ込んだりしているところも見られた。そしてそれを楽しんでいるヤーガンさまも。

今日も今日とて、みんなでお菓子を持ち寄って、おしゃべりしながら食べている。

A組のお上品なお嬢さまたちも、先生や学園のこと、それから男の子のことで話が止まらなくなるのは同じだった。

休み前の最後の日、A組はまた冬休みが終わってからの4週間、抑えた予算の食事にすると言ったけど、わたしたちは提案した。

元々、わたしたちが食事の予算を抑えたのは、社会貢献の寄付金を捻出するためだった。でも、何もそれにこだわることはない。社会貢献はお金でなくても方法があるのだ。

休み明けに、孤児院を一緒に慰問しようと持ちかけた。お金ではなく、人の手を必要としていることもあるから、と。

長きに渡った、年末の試験の勝負は、そんなふうに収束していった。

寮に入ってからいろんなことがあった。

最初は食事に何よりも驚いたっけ。

それなのに、先輩たちが反発の声を上げていないことに眉根を寄せるしかできなかった。

調べて、少しずつわかってきて、誤解もあったし、バトルもした。

きっともっとスマートなやり方もあっただろうけど、わたしはその時の思いつく一番のことで突進してきた。

それが合ってるか間違っているかは、わからなかったけど。

今、こうして笑っていられるのは、友達の輪が広がっているのは、きっと逃げずに立ち向かってきたからだ。

不器用でも、目を逸らさずに向き合ってきたからだ。

向き合うことは時々辛いことも孕むけど、その先にはまたきっとこんな笑顔に会える。

ちっぽけなわたしだけど、少しずつ手にしているものがある。

『リディア、我はあのベリーがのった菓子が食べたい』

わたしはテーブルの上に残っている、ベリーの生クリームがけマフィンを取り分けてきて、もふさま専用のお皿と半分こした。

もふさまは丸ごと口に入れて、わたしはフォークで一口ずついただく。

生クリームも一緒に売り出したいわ。

一緒に食べて欲しいのよね。

けれど、生ものの扱いは難しく、カフェなどでしか生クリームは使えない。

何か考えなくちゃ。

「そういえば、フォークリング社と話し合われましたの?」

歩いてきたヤーガンさまがわたしに尋ねた。

ええっ? なんでヤーガンさまが知ってるの?

「フォークリング社を、父が支援しておりますのよ」

驚いたのが伝わったのか、ヤーガンさまは扇子で口元を隠すようにして小さな声で言った。そこから耳にしたんだろう。

「そうでしたか。はい、お話をいただき、前向きに検討してます!」

「まぁ!」

ヤーガンさまが笑顔になった。本当にキュッと上で捻って閉じていた蕾が花開くような、見るものを魅了する艶やかな笑顔だった。

「よかったわ。楽しみにしています」

A組の子もD組の子も、華やいだ笑顔に目が釘付けになった。

ガネット先輩だけが、ドヤ顔で嬉しそうにしていた。

<13章 いざ尋常に勝負・完>