軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第517話 わたあめ

応接室へと戻った。

「ショック療法だったわけ?」

ありがたいと思いつつ、どうも素直にお礼を言えなくて、そんな風になってしまった。ロサとアダム。王族という刷り込みからか、よくしてもらっているのに、ふたりにはいつもぞんざいな態度になっているよなーと思う。

「私も、リディア嬢と同じようになった時があったんだ」

「わたしと同じ?」

……そうだったんだ。ロサはわたしが食べられなくなったことを、とっくに知っていて、自分の時のことと重ね合わせたのだろう。

「毒を口にして酷い目にあって、それから食べ物を一切受けつけられなくなった」

「毒?」

「5日間生死を彷徨い、食べ物を口にするのが怖くなって……」

わたしなんかと、比べものにならないぐらい、マズいやつじゃん……。

「その時ばあやが、何も食べなかったら死んじゃいますよって、この口が曲がりそうになる飲み物を作ってくれたんだ。本当に栄養価は高いんだ。他のものを食べなくても、これを取っていれば、体は動く。でもこの味だろ? 最初、騙されて口にしたけど、私は吹き出した。その時、こうやってチョコレートを口に入れてくれたんだ」

ロサは笑った。

「あの不味さの後だ、余計においしく感じただろう? それにあまりの味にびっくりしちゃって、頭に考える隙を与えないんだと思う。口の中が他の何かを欲っしてるから、私も食べられたんだと思う」

そんな辛い話を笑って言えるのは、ロサの強さだ。いや、強くなっていったんだろう。

「……ばあやさまは、今どちらに?」

「もう歳だったから、2年前に亡くなった」

「……そう」

「ばあやが風邪をひいた時に作ったんだよ、これを。半分嫌がらせで。だけど、飲み干されちゃってさー。私の作るものなら、なんでもおいしいって……」

ばあやさまとロサの絆を感じ、けれど、ばあやさんはもういなくて……、鼻の奥がツーンとした。

「リディア嬢はなんの菓子が一番好きなんだい? 知っていたら、チョコレートではなくて、それにしたんだけど」

そういえばわたしは、何が一番好きなんだろう?

チョコレートも好きだし。ケーキもクッキーも……。

いろいろなお菓子を思い浮かべ、最後にそういえばと〝それ〟は浮かんだ。

多分、一番好きってわけではない。

絶対に食べられないんだろうなと思ったから、口からその名前がこぼれたのだと思う。

「わたあめ」

「わたあめ?」

「雲みたいに、白くてふわふわしてて、甘いの」

「聞いたことないな。リディア嬢はどこで食べたんだい?」

「あ。食べてない。本で読んだの。ザラメっていう大きな結晶の砂糖をね、綿菓子機に入れるとふわふわって雲みたいのがたなびいてきてね、それを棒に巻きつけていくの!」

「わたがしき?」

ロサが首を傾げる。

「これくらいの円形の器具で。中央の部分にね筒があってね、そこにザラメを入れるの。熱くして砂糖を溶かすの。筒には小さな穴が空いていて、液体になった砂糖が外に出る。器具の中は風がぐるぐる回っているから、急激に冷やされるのね、多分。それがね本当ふわふわの甘いのになるのよ」

なんで急にわたあめを思い出したんだろう。今まで特に思い出したこともないのに。

わたあめのことが載っている本の記憶があった。……そうだ、文化祭でわたあめを作って売りたくて調べたんだ。結局、人気の飲食店の枠には入れなかったからできなかったけど。

「よし、わたあめとやらを作ろう」

「え?」

我に返る。そんなの無理だろう。

「ザラメとは砂糖の大きな結晶と言ったな。おそらくザラメンで代用できるだろう。その熱して風でぐるぐる回す器は魔具作りの得意な、お前の兄を巻き込めば良さそうだ」

ロサは護衛に侍従を呼ばせた。目に入ったもふさまの尻尾が左右にブンブンして床を叩いていた。

ロサは侍従に魔具を持ってこさせて、伝達魔法でいくつかのところに鳥を飛ばす。

アルノルトがお茶とグレーンをもってきてくれた。

もふさまの前にもグレーンを山盛りだ。

手持ち無沙汰だったので、手に取りなんとなく食べていた。

アルノルトを見上げると、彼はとても嬉しそうに頷いてくれた。

あ、わたし食べられてる。

しばらくすると、外が少し騒がしくなった。

なんだ?と思っていると、アラ兄とロビ兄が駆け込んできた。

「リー!」

「リー」

「お帰りなさい、アラ兄、ロビ兄」

あれ、今日は平日なのに?

ふたりがわたしの顔にペタペタと触れてくる。

「何?」

ふたりはロサにすごい視線を向けた。

「リーの一大事って、趣味、悪いですよ?」

「ごめん、ふたりは私からの手紙だと断りそうだから」

ロサは軽やかに笑っている。

そう言われて、バツが悪そうなのは双子の方だった。

ふたりはソファーにどかっと座った。

「それで一大事というぐらいなんだから、おれたちが必要だったってことですよね? なんなんですか?」

どうやらロサはわたしの一大事と言って、双子を呼び出したみたいだ。

「魔具を作って欲しいんだ」

「魔具?」

ふたりはわたしをちろっと見た。

アラ兄が真顔になる。

「……リー、グレーン、食べれたの?」

アラ兄が、お皿で気づいたのか呟く。

「さっき、ロサからもらったチョコレートとグレーンは食べれた」

ふたりとも瞳をうるうるさせる。

え、ちょっと待って。

「ふたりとも、何泣いて……」

「あー、よかった。リーがずっと食べられないままになったらどうしようって、本当に怖かったんだ!」

寄ってきたアラ兄とロビ兄に、ガバッと抱きしめられる。

苦しいが、心配をかけていたので言いにくい。

ロサが咳払いをした。

「麗しい兄妹愛ですね」

双子の腕が緩んだ。

「魔具って、リーが欲しいものなんだね?」

アラ兄がズバリ言う。

「食べたいもので思いついたの」

「……そうか。その魔具、作るよ!」

「オレも協力する」

わたしは覚えていることをアラ兄たちに話した。

確か、砂糖を熱して液体にし、冷まして最小の繊維みたいな結晶にしたはず。遠心力で飛ばしていた。

熱すのと冷ますのとそれから風の遠心力で飛ばす。3つの工程がいるね。

ん? 冷ますのは風の温度が熱くなければ、勝手に冷めるか。

でも熱する筒の周りは風も温まってしまうだろうから、その風が温度が高くならないようにしないとで、やっぱり3つのアクションが必要っぽい。

現在の魔具は1つの魔石につき、ひとつの工程を取り入れるのが普通だ。

ただ本当はいくつかのことを術式にすれば、ひとつの工程とすることができ、ひとつの魔石で作ることができる。アラ兄たちはもうその〝式〟を編み出せる。

けれどそれをロサの前で使っていいものかと悩んでいるみたいだ。

王宮から届いたものを、ロサが見せてくれた。

ザラメで間違いないだろう。ザラメンっていうのか、覚えておこう。

「アランの魔道具に関する考察、読んだよ。素晴らしいね。あれを書けるアランなら、3つの工程を〝式〟にもうできるんじゃないか?」

ロサはお見通しだ。

「この魔具を売らなければいいんじゃないか? リディア嬢のために作るお菓子のための魔具だろう?」

とロサは言った。