軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第483話 収穫祭⑬賢者の約束

「リディー、辛いなら、私に任せてくれないか?」

「え?」

「とても辛そうだ」

気持ちに向き合ってみたが、辛くはない。

「おかしいな、そんなことないんだけど」

「本当に?」

わたしは頷いた。

「アールの店はわたしの店よ。わたしがなんとかしたいの。……兄さまは、バイエルン侯爵さまの汚名をそそがないと」

「できるかな?」

どきっとする。

「ああ、ごめん。そんな顔をしないで。今までだってblackがずっと探ってきたことだ。それでも証明するのは難しかった。それを今更私ができることなのかなって、ちょっと弱気になってしまった」

言葉を見つけられずにいると、兄さまが焦った声を出した。

「ごめん、リディーに甘えてしまったね。もし、私がバイエルン元子息だとわかったら、おじいさまやシヴァ兄上にも害が及んでしまう。ひいてはシュタイン領にも。リディーにもどんなことが降りかかるかわからない。そんなことにならないよう、全力を尽くすから。だから心配しないで」

「兄さま」

「ん?」

「わたしね、手に余ることはいっぱいある。だから今回のペネロペ商会のこともどう行き着くかわからなくて、不安は不安。それだけじゃない、学園でのあれこれも、未来に関することも、いっぱい考える事があって、全然進まなくて、すぐに不安になっちゃう」

もふさまが、わたしの足に擦り寄ってきた。

「でもね、大切なものがいっぱいあるから。守りたいものがあるから。顔を上げていたいと思う。大切なのは、兄さまもそう。だから、わたしが守るから、だから兄さまも……絶対にあきらめないで。わたしが助けるから。わたしのこと信じて、あきらめないで」

兄さまはわたしがひとり盛り上がったことに驚いたようだけど、ふと表情を和ませた。

「いつだって、私はリディーのことを信じてるし、信じるよ」

「わたしは兄さまが負けないって知ってる」

兄さまがわたしの手を引いて、軽く抱きしめる。

「そうだね、私は負けたりしないよ。リディーがそう信じてくれてるのだから」

兄さまが腕を緩める。

「リディーも忘れないで。リディーが困った時は、私が助ける。絶対に。だから、挫けずにいて。私が助けると、信じて」

わたしは頷いた。

『我も助ける』

もふさまの尻尾がひと揺れした。

リュックの中からも、言葉が届く。

わたしは幸せだなと思った。

この幸せが続くように、全身全霊をかけて挑んでいくことを、自分に誓った。

転移だとあっという間だ。〝またね〟の余韻も消えないうちに、王都の家の目の前にいた。

つくづく便利だ。転移まで望まないが、転移門があればなぁ。そしたらルームで移動しても目をつけられにくくなるのに。

「北方面にも、転移門作ってくれればいいのにね」

話しかけると、ロビ兄は頷いた。

「ははは、リディアは転移門がなぜ北に作られないのか、考えたことはあるか?」

グリフィスおじいさまが屈み込んで尋ねてくる。

「え? 栄えてなくて需要がないから、じゃないんですか?」

おじいさまはちょっと考えて笑った。

「そうだな、少し考えてみるといい。フランツも、アランもロビンも一緒に考えてごらん」

最後に宿題をもらってしまった。

皆さまとハグして別れた。

「お帰りなさいませ」

アルノルトにお土産を渡して、家の中に入っていく。

「あることに意味はあるだろうけど、ないことに意味があるなんて思わなかったわ」

わたしがバッグを椅子の上に置けば、アラ兄が反応する。

「それだ!」

「どれだよ?」

ロビ兄がキョロキョロする。

「ないことに意味があるんだ」

…………。

アラ兄、鼻息が荒い。頬も赤く、目が輝いている。

謎解きみたいの大好きだものね。

「ないことに意味、か」

兄さまも口の下に人差し指をおいて考え込む。考え込むふたり。長くなりそうだ。

わたしは先にお風呂をもらうことにした。

「もふさま……聖水の無駄遣いしてもいい?」

『……リディアのものだ、好きにすればいい』

もふさまは領地に帰った時は、聖域と自分のお家の様子を見に行く。穢れに触れ、それが聖水でよくなるとわかってから、もふさまは聖水を持ち帰ってくれる。もふさまに収納袋を貸してくれと言われた時は何事かと思ったけど。

もふさまの収納袋?は物を置くことはできるけど、液体を液体だけで入れるのはできないんだって。わたしの収納袋なら、入れ物の有無なしで、水50リットルとか入れられるし、出すことができる。手を使わずにできちゃうしね。

ってことで、聖水をいっぱい持ってきてくれたのだ。

わたしはそれをお風呂に少し入れようと思う。

「ああ、気持ちいいーーー。やっぱり、聖水って力あるって感じがする」

もふもふ軍団も、もふさまもとろけそうになっている。

「気持ちいいでち」

『聖水での水浴びもいいが、お湯にしてもいいな。人族とは本当に面白いことを考える』

もふさまが頭までざぶんと沈んだ。少ししてから顔を出した。

『魔物にも聖なる水はよく作用するのだから、不思議です』

「あ、そっか。魔物って瘴気が多いんだよね。それなのに、聖水大丈夫なんだね」

先に気づいてなかったのはうかつだったけれど……いや、あんまりみんなが魔物っぽくないもんだから。

『いえ、戦いの時に力ある者に聖水を投げつけられたら、火傷を負うかもしれません』

「え、そ、そうなの?」

『聖なる方に連なる、主人さまもそうです。主人さまがわたくしたちを傷つけようとしたら、わたくしたちは跡形もなく消されてしまいます。でも主人さまは、高位の魔物の存在を許してくださっています』

もふさまは首までお湯に浸かって、目を閉じている。

『聖水も魔力あるものが扱えば、わたくしたちを傷つける事が可能でしょう。でもこのお湯はとても優しい。魔物のわたくしたちも癒してくれる。それはリディアがわたくしたちを許し、わたくしたちが癒されることを願っているからです』

魔力が多ければ聖水に力を込める事ができるってこと?

へーーーー、そうなんだ。

わたしは両手で聖水入りのお湯を掬った。