軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第460話 シンシアダンジョン⑦混乱の先

魔法士長さまが、立ち上がって杖を振った。

机の上に魔物の死体と魔石がでんと乗ったので、わたしは驚いて立ち上がったみたいだ。椅子を倒し、自身もまたその倒れる時の椅子に足をとられ、倒れそうになった。そこを父さまに捕まえられる。

「これは失礼した。リディア嬢、驚かせてすまない」

「……驚かせたところもですが、魔物の死体を、断りもなく机の上に出すのが既に問題ですよ」

神官長さまが、魔法士長さまを嗜めた。

「あ、そうか。すまない。こちらは君が保管していたと聞いていたので、大丈夫かと思ったのだが。少しだけ我慢してくれ。お遣いさま、悪しきものはこちらですか?」

魔法士長さまは、赤い魔石の方を指差した。

父さまが椅子を直してくれて、わたしは椅子に座る。ちょっと机から距離をとって。

『今はもう、ただの魔石だ。あの元凶の木を燃やしたからな』

「あの木が元凶だったの?」

言いながら思う。あの木が元凶で当たってたんだ!

「お遣いさまはなんと?」

「あ、すみません。今はもうただの魔石だ。あの元凶の木を燃やしたからな、だそうです」

もふさまは伝えることは伝えたとばかりに、シュシュシュと小さくなって、わたしの膝に乗ってきた。

神官長さまも魔法士長さまも赤い魔石を調べたようだけど、普通の魔石に見えるとのことだ。

赤い目の魔物だったが、胸のあたりを狙い、もしかしたら魔石ごと傷つけたのかもしれなくて、それだとダンジョンに還ったことも伝えた。

録画の魔具を使ったことはすっごく感謝された。

燃やされた木もどんなものか、録画でわかるしね。

どうしてあの木に?と言われて、お遣いさまが気づいたことにする。もふさまと、これは話し合い済みだ。

お遣いさまに導かれるようにして、あの木に気づいた。7階に行ってからずっとお腹の下の方が気持ち悪かったのだが、木を見るとそれが強くなった。魔石の色と赤い目の色が同じに見えたからだと思うと、自分なりの推察を告げる。

そうして見ていると、クラスメイトのゴーシュ・エンターがスキルで魔力の流れを見て、木がダンジョンに魔力を与えていると言った。お遣いさまが気になり、わたしが気持ち悪いと思い、魔力を流す木というのもおかしなことで。そのおかしなものがあるところで、おかしなことが起こった。

だから焼いてしまおうと言って、何か魔具のようなもので木を焼いたのだと。不気味な木が燃え尽きると、気持ち悪いのが薄れていき、魔物が出てきて構えたが赤い目でなくほっとした、と。

わりと長い時間だったけど、一通りあったことを話し、やっと終わりとなった。

もふさまがピクッとして。どした?と思っていると、ノックもなく扉が開き、キラキラした人が入ってきて、一斉に中の人たちが立ち上がり頭を下げた。

国王陛下だ。

わたしも慌てて、礼を尽くした。

6年前と変わらない、いや、増したかもしれない、すごい威圧感。

「面をあげよ、楽にするが良い」

顔をあげる。

「久しいな、シュタイン伯よ」

「陛下の御世におかれましては……」

「そう思うなら、もう少し機嫌伺いに登城したらどうだ? 何度声をかけても領地に閉じこもりおって」

「私は領地を整えることで、精一杯にございます」

前にイザークが、父さまは中央での仕事に誘われながら、蹴り続けているって聞いたことがある。てっきり冗談と思っていたけれど、今の会話からみると本当っぽい。

「体よく逃れおって。リディア・シュタイン、久しいな」

「覚えていてくださり、光栄にございます」

「息子どもと仲がいいようだな。どうだ、嫁に来る気はないか?」

「わたしは婚約しておりますし、恐れ多いことでございます」

息子どもって言ったよ、この人。アダムのことも知れているんだね。

できるだけ静かに唾を飲み込む。

「陛下……」

「わかっている。約束は違えてないだろう? こちらからは欲しがったりしないから安心するが良い。ただ、息子とリディア嬢が恋に落ちたなら、それは応援してやるのが親のつとめ、そうだろう?」

父さまがうぐぐとなっている。

大丈夫だよ父さま、そんなこと、天と地がひっくり返っても起こらないから。

「魔道具を使い録画しておいたその機転、ほんに将来が楽しみだな。さて、何かわかったか?」

「赤い木から発生した魔で、ダンジョン内の魔物が凶暴化したのではないかと推測いたします」

「なるほどな。ユオブリアのいくつかのダンジョンで通常の溢れとは違う魔物の凶暴化が起こっておる。いいか、ユオブリアでだけだ」

ユオブリアのダンジョンでだけ?

「人為的だとしたら、ダンジョンで魔物を溢れさせ、何をしたいのでしょう?」

神官長さまがため息をつく。

「魔物を暴れさせ、ユオブリアを混乱に導くためでは?」

魔法士長さまが頭が痛いと押さえるようにして言った。

アイリス嬢は言っていた。5年後この国はいくつかの外国から狙われていたと。その時に発覚することだけど、もう既に外国からの攻撃は始まっているのかもしれない。みんなが虎視淡々とこの国を我がものとするために何かを始めているのかもしれない。

「リディア?」

父さまに呼ばれて見上げると、父さまがハッとした表情になる。

「娘は疲れたようです。申し訳ありませんが、退出してもよろしいでしょうか?」

一斉に視線が集まるのを感じる。

陛下が口を開ける。

「これは、すまなかった。怖い話を聞かせたな」

「少しは効果があるといいのですが」

そう神官長さまが、聖水を撒いて祝福をしてくれた。わたしはお礼を言ってから謝り、陛下より先に退出なるものをしてしまった。

どこかで何かが始まっているかもしれないとは思っていた。けれど事件が起こるのは早くても5年後だろうと高を括っていたのかもしれない。でもこうして〝欠片〟が見えた。水面下で〝何か〟は始まっていたのだ。確実に。