軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第458話 シンシアダンジョン⑤報告

外へと脱出してから、みんなの無事を確かめた。

ダンジョンから飛び出した2匹の魔物は、並んでいた冒険者、そして溢れを報告するのに外に出た班の人たちが討伐したそうだ。

倒れてすぐは姿が消えなかったそうだが、それを見守りつつ状況報告をしているうちにいきなり消えたと。時間からいって、あの木を燃やし、こちらでも魔物が消えたのと同じ時間帯だと思われた。

見た人はいっぱいいるけれど、消えてしまったので物証がないと青くなる衛兵さんたちに、わたしは録画した映像を提出した。

録画の魔具ね、あれを持っていたので、所々録画しておいたのだ。赤い木を燃やすところも。なんでそんなのを持っていたかというと、これは例のウィットニー嬢により、寮のわたしの部屋へと仕掛けられた録画の魔具だ。ウィットニー嬢もロジールナ令嬢に渡されたものみたいだけど、一応お兄さんのコビーに返そうとしたら、ウチでどう処分してもらっても構わないと言われたので、収納ポケットの中に入っぱなしになっていた。魔具自体が悪いわけではないし。ものすごく高いものだから、捨てようとも思えず、ポケットの肥やしになっていた。けれど思わぬところで役に立った。

それから、消えなかった魔物と赤い魔石を収納袋にひとつずつ入れておいた。袋から出したら消えるかなと心配だったけど、それらは出しても消えなかった。それも提出したよ。

ダンジョン初めてにして、いろんなことが起こって拒否反応が出てしまったのではないかと心配したが、みんな逆に気を引き締めることになったようで、それから自信もついたみたいだ。少し安心する。

でも、まぁ、初っ端であんな経験すれば、次にダンジョンにきた時、あ、普通はこれぐらいかと心穏やかになるかもね。逆に反対のバージョンで、2回目がハードの方が辛いかもしれない。

ダンジョンから先に脱出した6階のパーティーや7階のふたり組も、報告するのに留まっていた。

外国人のふたり組は戦力にはなれないと言っていたので、怪我でもしたのかと思って、軟膏を使うかと見せて話しかけたのだが、いらないとのことだ。

「どこの国からいらしたんですか?」

ニコラスが朗らかに尋ねた。

「アビサ」

とひとりが言った。

「へー南の大陸ですね?」

とアダムが会話に入ってくる。

「アビサの言葉で〝ありがとう〟はなんて言うんですか?」

わたしは尋ねた。少しだけこの人たちのことが気になって、なんでもいいから話したいと思ったのだ。

「シューメル」

頭にタボさんの訳が入る。

【ありがとう:グレナン語】

アビサは国名だろうけど、グレナン語というのが大陸の共用語なのかな?

「アビサはグレナン語なんですか?」

アビサもグレナンも聞いたことがないので、予備知識ないままにわたしは尋ねた。

表情をなくしたふたりがわたしを見て、そしてわたしに笑いかける。

「グレナン語、ヨク知ッテタ。グレナン語、モウ帰レナイ故郷ノ言葉」

そうか、それは悪いことを聞いてしまった。

「グレナン語、ナゼ知ッテル?」

わたしは慌てず言った。

「外国の人に会った時は、その国の〝こんにちは〟とか〝ありがとう〟を教えてもらっているの」

なるべく無邪気に聞こえるように言った。これから、そんな習慣?を身につけよう。口から出まかせはよくないものね。

「グレナンといえば西の大陸ですね」

アダムが何気なく言った。へー、そうなんだ。

「姫ー」

ガーシに呼ばれる。

「ヒメ? オジョウチャン、姫君?」

「いえ、ただのあだ名です」

わたしはにっこり笑って見せて、会釈をした。

ガーシと合流すれば、父さまが呼んでるとのことだ。

父さまに、録画を褒められた。報告は終わったようなので、帰るのかなと思ったのだが、なぜか王宮から呼び出されたという。直接報告を聞きたいとのことで、シンシアダンジョンにて赤い目の魔物を見たものは全員王宮へと向かうことになった。

王都の転移門からは馬車が用意されていて、子供たちはそれに乗った。

王宮に行くなんて、アダム大丈夫なの?と思ったけれど、見上げても彼はにっこりと笑うだけだ。大丈夫なのかな?

全員となればかなりの人数だ。移動、集まるまでに時間がかかり、いつしか夜となっていた。

広い部屋で待機していると、ダニエルのお父さんである宰相さまや、ブライのお父さんの騎士団長。ルシオのお父さんの神官さま。イザークのお父さんの魔法士長さまが入ってきた。その他、文官のような人たちも。

入ってきて、貴族である父さまやパオロおじさまと挨拶を交わす。

顔見知りのわたしたちにも挨拶してくれた。

そして宰相さまから、シンシアダンジョンの危機を救ってくれたと感謝の言葉を述べられた。そして報告はしてもらっているが、個別にもっと詳しいことを聞きたいので、今日と明日にかけて話を聞きたいのだと言った。

ラエリンやロレッタは王宮に泊まるってこと?と目を輝かせたけれど、わたしは頭の片隅でこれって軟禁に近いのでは?と思っていた。

有無を言わせずに王宮に連れてこられたからね。

報告なら後から出頭させればいい。転移門を使い馬車まで用意してお金をかけている。お城に入れるってことは変なウイルスに感染しているとかの隔離ではないんだろうけど、引っかかる。

わたしがそう思うぐらいだから、大人はもちろんそう考えるだろうし、事実、冒険者たちの表情は暗い。

父さまは言った。

「私たちはともかく、子供たちは帰していただいてもいいのでは? 全員学園の生徒、身元も確かなわけですし」

「朝早くからダンジョンに赴き、魔物と戦っています。疲れているはずです。食事をさせ、しっかり眠らせてやりたい」

パオロおじさまも訴える。

「子供たちのことはこちらも考慮しますが……まずこれから皆さまには神官と魔法士より、体の状態を見させていただきます」

「……どういうことですか?」

「前もって詳しく話すことはできませんが……近頃、ダンジョンの溢れの周期以外に同じようなことが起こっています。赤い目の魔物が氾濫する、不可思議な溢れが」

え。

「子供たちは早く眠らせた方がいいでしょうから、子供たちから見させていただきます」

わたしたちは集められて、ルシオのお父さんである神官長さまが錫杖をわたしたちに向かって振った。ミストのような何かが降りかかる。

次はイザークのお父さんだ。魔法士長さまはわたしたちに笑いかけた。

ふたりは宰相さまに何かを伝え、神官長さまがわたしに向かってきた。

「穢れに触れたようですね。辛くならないように、祝福をさせてください」

ルシオそっくりの顔でわたしに微笑む。

瓶から出した水滴をわたしに振りまいて、ハミングにしか聞こえない何かを唱えた。

あれ、もふさまの聖域で水浴びをしたかのような爽快感があった。

「ありがとうございます」

お礼を言えば、神官長さまがさらにわたしに近づく。そして小声で言った。

「いいえ、お礼をいうのは私たちの方です。リディア嬢、あなたの魔力は独特だ。その魔力の微かな波動がみんなについている」

え?

神官長さまは微笑んだ。

「あなたは優しいのですね。……恐らく本当に微かながら、魔力はあなたからまだ漏れているようです。その魔があなたの知る人たちを守る働きをしています」

これは風の防御が残っているという話ではなさそうだ。

わたしは思った、神官長、こえぇぇ。一度〝見られた〟だけでバレた。