軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第401話 過去からのメッセージ

最後はわたしの番だ。

「青い夜、水にのせ流るるば、黄の日が出づれ、闇に飲まれし倒れたり

白く癒され、赤く燃える

全てが緑に還る時、消えぬほどに思い焦がれる命の淀み

恨めしさに委ねた魂

黒い結びでは女神の涙も拭けぬ」

「よろしい。意訳を」

「はい。月が青く見える秋の夜に、川の流れを見ていた。いつの間にか夜が明けたが、あなたは帰って来ない。闇の神に愛されて、2度と緑の地には帰ってこなかった。胸を焦されるようだ。死を以てしても恨めしい気持ちは消えないだろう。神を敬えないほど、あなたを連れ去ったのを許せない」

「……白く癒され赤く燃える、それを帰って来なかったと訳したのですね」

「……恋の歌なので、そうしてみました」

わたしのスキルで古代語が読める。そうするとこの歌、全然恋の歌じゃなくてさー。えらく怖い歌なんだよ。だからそのまま意訳するわけにいかなかった。だから、単語をひとつずつ古代語から現代語に対応させて、恋っぽく寄せて意訳してみた。

先生はわたし個人に「A」の評価をくれた。ほっとする。クラスの子の一番下の評価もBだったから、みんな優秀ってことだ。先生はそれからクラスの総評をした。みんな滑らかに暗誦できていたし、意訳も概ね合っていたと。

それから少し時間が余ったから、こぼれ話をしましょうと言った。

「皆さんに宿題で出した歌は、実は 恋歌集(れんかしゅう) に修められていながら、恋の歌とは違うのではないか?と、古代語の専門家たちが口にしているものなのです」

と言った。ええ?

でも逆に頷けると思った。

だって、わたしに振り当てられた歌を、スキルの通りに訳すとね

〝青〟の夜、水に流せと神は言うが、到底許せない。闇に飲まれ、永遠に出られないというのに、誰が笑えるというのか。全てを焼き尽くしてもまだ足りない。女神が許しを得る緑の時は、涙も拭けない日となるだろう

となるのだ。どこが恋歌なの?って愕然としたから。

「恋の歌に紛れさせた、恋歌でない 詩(うた) 。誰がなんのために?」

先生は不思議そうに言った。それから、表情を緩ませる。

「独特すぎて、万人にはわからない、ただの恋の歌なのかもしれません。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。でも、どちらだとしても、時を経て届いた、誰かからの伝えたいことなのでしょう。そう考えると古代語が楽しくなりませんか?」

先生は本当に古代語で書かれたものが大好きなんだろうなと思えた。

ちょうどチャイムが鳴る。

過去から届いたメッセージか。そう思うと、いささか物騒に思える恋歌ではない何かも、微笑ましいものに思えてきた。

占星術の宿題の評価はBだった。自分の生まれた時の天空図を描くもので、計算はなんとかできたんだけど、その座標を描きいれるのがすっごく難しくて、自分でも〝終わった〟と思っていた。Bをもらえただけ、ありがたいと思おう。

貴族は、爵位が高いほど生まれた日を大切にするし、隠すらしい。王族なんかはネイタルチャートが知られることを恐れ、何年の生まれかというのと季節までしか情報を公開しないそうだ。

平民の多いD組のみんなは、曜日しか覚えてないから、大体そこらへんと曖昧なネイタルチャートとなっていた。

先生からは呼び出されて、不思議なことを言われた。

わたしの誕生日と出身地が、正しいものかを尋ねた後に、わたしのネイタルチャートは、ずいぶん変わっていると言われた。星々から干渉を受けてなさすぎらしく、なんか励まされた。

生まれてくる時に、星々の干渉を受け加護をもらうはずだから、その加護がなさげなわたしを気遣ったのだろう。

魔力が少ないのは、そのせいだろうと思ったみたいな言い方だった。

でも本当はわたし魔力あるし、属性だって他の人より多いはずだ。ってなことを兄さまに話したら、「逆だったりして」と含み笑いした。

「逆?」

「うん。前から〝干渉〟と〝加護〟とは意味合いが同じとは思えないから、なんとなく変な気がしていたんだ」

〝干渉〟と〝加護〟。確かに〝干渉〟は他人を自分の意思に従わせようとすることだし、〝加護〟は力あるものがその力で助け守ることを指す。一方で従わせようとして一方で助け守る、相反していると思えないこともない。

「でも、本当は〝加護〟ではなく、……〝規制〟や〝摂取〟だとしたら? なーんて思っただけ。それだったらリディーは干渉されず、規制、摂取をされなかったから魔力も高いし、属性も多いし、前の世の記憶もあるんだ。ほら、筋が通るだろ?」

〝干渉〟と〝加護〟より、確かに〝干渉〟と〝規制〟の方がしっくりくるね。

でも、なんで星に規制されるの?

すると、わたしの心の中がわかったように、兄さまが言った。

「星々も溢れる力を〝搾取〟しているのかもしれないね。……聖樹さまみたいに」

え? わたしは固まった。

「それとも搾取されているから守ってもらえる、それを加護と呼ぶ。そう考えれば筋が通る」

言葉が出てこないので、ただ兄さまを見上げた。

「ただ言ってみただけだ。悩まないで」

兄さまがわたしの手を持って、手の甲にチュッと口を寄せたので、周りから小さな悲鳴が起こった。

「に、兄さま!」

恥ずかしさに突き動かされ、声をあげていた。

兄さまはクスッと笑う。

「リディーが私の婚約者だって〝アピール?〟だっけ? しておかないとね」

素敵に笑うから、なんだか顔が熱くなる。

「これからクラブに行くの?」

わたしは頷いた。

兄さまが3日に一度は護衛で会えない日があるので、他の日は必ず1回は兄さまをちゃんと見たくて、兄さまも忙しいのは承知だけれど、時間を作るようにしてもらっている。

「じゃあ、明日は会えないけど、明後日はまたここで」

先に行くよう促されて、もふさまと部室に向かって歩き出す。振り返って手を振る。

『リディア、疲れているようだな?』

「え? そうでもないよ。慌ただしくはあるけど」

もふさまが一拍置いて言う。

『……時々、胸を押さえているぞ。胸が痛いのか?』

あ。

掌の下の方で胸を押していた自分に気づく。

あれ、なんだ?

そういえば無意識にこの頃よく押していたかも。

変なクセになっているのかな?

「兄さまがかっこいいから、ドキドキして胸を押さえてるのかも」

『そうか? それならいいが……』

クラブではみんな仕上げの段階に入っていた。先輩たちは今までの作品を持ち込んでいた。エッジ先輩は持ちのいいお菓子は先に作っておいて、前日に日持ちしないお菓子を作るようだ。家宝のバッグに入れておこうかと提案するととても喜ばれた。

わたしは、なんとか書き上げた物語を、推敲している。

朗読の練習は恥ずかしかったので自室でやることにして、クラスでやる劇のあらすじをまとめることにした。みんなの出した案の箇条書きをにらめっこしながら、タイムテーブルチックに何を入れ込んでいくのか決めた。

これを物語風に起こして、一例としてセリフを作っておけばいいだろう。

気がつくと、クラブも終わりの時間になっていた。