軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第372話 シアター①アイリスとロサ

領地内、町の家、応接室にて。

アイリス嬢と向き合ってわたしはお茶を飲んでいた。

クレソン商会とのカタがついた日、伝達魔法があったのだ。

カトレアの宿へ泊まりに来る、その3日間のどこでもいいからわたしに時間をとってもらえないかと。

「そんなに構えないでください。リディアさまはユハの街で、あたしたちにギフトを明かし、惜しみなく力を使ってくれました。だから、あたしもギフトをお伝えしようと思ったのです」

「アイリスさま、あの時わたしは自分が助かるためにギフトを使いました。ですから恩を感じる必要もないし、大切なギフトをわたしに教えなくていいのですよ」

アイリス嬢は顔を横に振った。

「いいえ。是非、リディアさまには知って欲しいのです。見ていただければ、あたしが何を危惧して、リディアさまに見ていただきたかったのかわかると思います。ただギフトを人に使うのは初めてで、うまくいくかわかりませんが……」

見る?

ギフト?

あれ、学園?

学園を仰ぎ見ている。

開いた門から真っ直ぐに校舎に続く通路、遥か先にある建物なのにとても大きい。かなり大きな建物だとわかる。

入園を許され初めて門をくぐった時のように、胸をときめかせている。

花壇に噴水、何もかもがキラキラして見えた。

口の中がやけに乾いている気がして、口を開けているからだと気づく。

あっ、転ぶ!

転ばずに済んだのは、誰かが捕まえてくれたから。

「大丈夫か?」

「すみません、ありがとうございます」

え? わたし何も言ってないのに。でも、その台詞はわたしから出ていて、だけどわたしの声じゃないのだ。

支えてくれた誰かに向き合えば、柔らかな金色の髪に、引き込まれそうな紫の瞳。気品があり、端正な顔立ち、ロサ殿下だ。あれ、ちょっと幼い。

「これから毎日通うんだ。口を開けて気に取られながら歩くと、また転ぶぞ?」

茶目っけたっぷりに言って、ロサが去って行く。

「失礼しちゃうわ。もう、転ばないもん。でも助けてもらったし、かっこよかったから許すわ、また会えるかしら? 同じ学園なんだもの、また会えるわよね」

どうやら、わたしはこの子の中に入っているみたいだ。

入園式ではロサが新入生代表で言葉を述べた。わたしが入っている人は、そこで先ほど助けてくれたのがユオブリアの第2王子、ロサ殿下であることを知る。

あ、兄さま! 兄さまはイザークと2、3言話しているが、目が合う事は決してなかった。兄さまの代の入園式だ。でも、制服が微妙に違う気がする。

あ、わたしが入っている器の子が自分の髪を弄び、色が見えた。ピンク。

アイリス嬢だ。わたし、アイリス嬢の中に入っているんだ。

当人は気にしていないが、周りの子は男女に関わらずアイリス嬢を見て頬を赤らめてポーッとなっている。え、この子いつもこんな風に見られているの? でも当人は全然気にしていない。慣れっこなのかな?

見てもらうのが一番早いと言ったアイリス嬢の言葉を理解する。

わたしはアイリス嬢の中に入り、彼女の目線でシアターを見ている感じだ。

アイリス嬢はとてもモテた。とにかくひっきりなしに告白される。鏡を見た時に納得する。めちゃくちゃかわいいもの。ただ、聖女候補ではなかった。おかしいな、彼女が入園した時、すでに聖女候補だったと思うけど。

今ここでは彼女はただのモロール領主の養女だ。

チヤホヤされるのは羨ましいとも思うが、嫉妬もすごい。男爵令嬢のくせにとか、養女になる前は孤児院にいた情報まで出回っていて、女子からの制裁が半端ない。

ロサとはたびたび遭遇した。アルネイラの並木道で花を取ろうとしているところを見つかり、ジャンプして取ってくれたり。アイリス嬢は粗忽物らしくよくこけるので、それを助けてもらったりした。図書館でふたりで眠ってしまって鍵をかけられたり。

どこかデジャブチックだ。

でもロサだけじゃなくて、あんた魅了の力でも持っているんじゃないの?って思うぐらい、目が合うとかなりの確率で男の子を落としている。でも、中に入っているからわかるんだけど、彼女には一つもやましいことはないのだ。

彼女は孤児院出身だった。カートライト男爵夫人が慰問に来てアイリスを気に入り、よく来るようになったらしい。ところが夫人は病に倒れ、亡くなってしまう。それにより男爵は孤児院を訪れなくなった。だが、あるイベントで孤児院の子たちが合唱することになり、そこで男爵と再会する。その時夫人が亡くなったことを聞く。彼女は夫人のことが大好きだったので、とても悲しく涙が止まらなかった。

それから少しして、男爵家にアイリスは引き取られた。家庭教師をつけてもらい、愛情を持って育ててもらった。アイリスは男爵に感謝をしているし、入れてもらった学園でもいっぱい学びたいと思っていた。いっぱいの友達を作ろうと。

だから、仲良くしようと一生懸命だった。男子に評判はいいが、女子にはその思いが空回りしていく。婚約者のいる男子とも普通に仲良くするので、余計にだった。特に、第2王子の婚約者である、アイボリー令嬢から冷たい目を向けられていた。

わたしはアイボリーさまに優しくしてもらったことしかなかったので、その冷たい瞳に凍りついた。ロサと仲良くなればなるほどアイボリーさまからは避けられ、そしておかしなことが起こるようになった。

物が隠されたり、捨てられたりするのは日常茶飯事。

押されたり、足をかけられたりして、怪我をすることが多くなった。なかでも階段で人とぶつかって転げ落ちたのは本当に怖かった。ただ見ているだけで痛みのないことであってもだ。

そうしてロサは怒った。嫉妬してアイボリーさまがやったのではないかと詰め寄った。アイボリーさまは憤慨している。でもロサにはそれがわからないようだ。

自分のしたことを言われて、バツが悪いと思っているようだった。アイボリーさまは人を使って何かされる方じゃない。どっちかというとやるときは自分でやる方だろう。

アイリス嬢はそれはロサ殿下の思い違いだと言ったけれど、火に油を注ぐ結果となった。

調べを進めれば、アイリス嬢に仕掛けていたのはアイボリー令嬢の取り巻きの子たちで、勝手にやっていたことがわかる。彼女たちの婚約者ともアイリス嬢は仲良くしていたから、アイボリーさまのためといいつつ、嫌がらせに拍車がかかったらしい。

だけど、この件で娘を疑ったとアイボリーさまの侯爵家は怒りまくり、王子殿下との婚約を破棄した。あたしのせいだと心を痛めるアイリスに、ロサは自分が不甲斐なく悪かったのだと言う。だけど、これからも私の全身全霊をかけて君を守りたいんだと言って男爵令嬢が王子殿下の婚約者となる珍事が起こる。

これには賛否両論あったのだけど、やがてアイリス嬢は聖女の力に目覚め、瘴気が暴走し魔都と化した王都を鎮めるのに奔走する。ロサとアイリスは手を取り合って限界に挑みながら、街と国と世界を守ろうとした。長い攻防の末に平穏は訪れ、聖女と王子の結婚を誰もが祝福した。