軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第220話 わたしの願い

フォンタナ家に感謝を込めて、ご飯を作った。

わたしの指導のもと、料理人さんが作ったというのが正しいのだけど。

だって、量がね。そんなにいっぺんに大量に作ったことないからね。

それに立派な厨房は、大人の背丈に合わされて作られているから、いちいち届かないしね。

醤油と味噌と酢は、料理人さんたちに火をつけたみたいだ!

〝可能性あるもの〟をわかってもらえると、なんとはなしに嬉しい。

お肉がマストなので唐揚げもどき祭りにした。唐揚げマウンテンだ。

スタンダートな塩唐揚げと、醤油味のもの、両方作った。

野菜もとって欲しいので、味のいい魔物の干し肉を細切りにして、大量の野菜と一緒にニンニク醤油で炒めた。それから具沢山の豚汁もどき。箸休めに野菜の皮で作ったきんぴら。そして炊き立てのご飯、最高の献立だ!

山のような唐揚げがあっという間になくなるのを見た。嬉しいけど、みんな食べるの早すぎ! ご飯も気に入ったみたい。豚汁と交互に口に入れ、おかわりにつぐおかわりだ。ニンニク醤油もハマっている人多数。きんぴらは年配の人にウケがいい。

デザートはみんなにはパウンドケーキで、女性陣にはレアチーズケーキにした。おばさまたちは大満足してくれたみたい。料理もデザートもとてもおいしかったと言ってもらえた。嬉しい!

わたしはおじいちゃんと男爵さまに〝教えてもらったことできたよ〟の報告をした。いっぱい頭を撫でてもらった。

和んでいる時に、信じられない話を聞いた。

「騎士団にもドラゴンの子供が遊びにきたらしいぞ」

なんですと?

「子供のドラゴンがですか?」

わたしは尋ねた。

「あ、ああ。訓練をしていたら、青いちっちゃなドラゴンが水をかけてきたらしい」

「青い、ドラゴンですか?」

「ああ、青いドラゴンは人懐こいのかもな。私兵の訓練所でもドラゴンが入ってきたって。水をかけてくるそうだが、それが弱点をうまくついているそうで、なんだか指南役のつもりなんじゃないか?って話だ」

れ、レオ……。

悪さや危害を加えるわけでなく訓練していると混じって絡んでくるだけらしい。子供ドラゴンが遊びにくるというのは前例がないらしく、陛下の御世においてドラゴンもこの国を友好的に認めているのだと世評は動いていて、捕らえようとか考えずに放っておけとお達しが出たらしい。

レオ…………。

わたしたちは、もふさまのリュックの中にいるであろうレオに視線を送った。

そういえば時々姿が見えないと思っていたんだ。訓練に混ざると駄々もこねないし。他のところで鬱憤を晴らしていたんだね。

部屋に帰ってから尋ねてみると

『ここだけで遊ぶと〝問題〟になるんだろう? だから、いろんなところで遊んでいるんだ』

とくりくりの目を輝かせて言った。

『まったく、お前は……』

もふさまが呆れる。

『でも主人さまだって、暴れたくなったりしないの? アオは? ずっとその姿でいるのは窮屈じゃないのか?』

「おいらはいつもの姿だと、リディアたちと家でしか一緒にいられないからこの方がいいでち。それに暴れたいときはダンジョンに行くからいいでち」

『ダンジョン? ダンジョンに行ってるの?』

レオがダンジョンに食いついた。

『下に行くほど強いのがいてな。なかなか面白いぞ』

『えー、何それ、行きたい! 私も行きたい! リディア、ダンジョン行こう、ダンジョン!』

お座りして足をバタバタさせている。まるで駄々っ子だ。

「王都にダンジョンはないよ。家に帰ったらね」

『あの辺りにダンジョンがあったっけ?』

アオがミラーダンジョンの話をすると、テンションマックスになった。

なんとかなだめすかして、ロビ兄たちに遊んでもらうことにした。訓練の途中でレオ登場の予定だ。

演習場に出て、アラ兄とロビ兄が手合わせをする。ムズムズしたもふさまがアオ入りリュックを背負ったままふたりに攻撃を仕掛ける。

ふたりはそれを受け流しながら、相手を攻めていく。

その様子を座り込んで見ていると、隣に兄さまが座った。兄さまのジャケットを頭の上にかけられた。

日が遮られて、暑いのには変わりないが少し違う。

お礼を言うと、にこりと笑った。

「最後にカークと何を話したの?」

あ、あの時だね。

「お礼を言ったの」

「お礼?」

呆れより怒り顔だ。

「兄さまたちがカークさんがみつかったって話してくれたでしょ?」

兄さまが頷く。

「カークさんがみつかったのはずいぶん前だったんだなって思ったの」

「どうしてそう思ったの?」

「父さまも、兄さまもアラ兄もロビ兄も落ち着いているから。だってみつかったばかりなら、みんなカークさんに殴りかかっていそうだし。カークさんを許していたから、カークさんからいろいろ話を聞いて、もう時が経っているんだと思ったの」

「リディーは時々嫌になるくらい勘がいい」

兄さまは視線を落とした。

「リディーが拐われて、初めてblackを頼った」

「家にはもふさまがいるから……、近くにいたらもふさまに気づかれるから、家は安全だから家には近寄らないよう言ったんだ。そしたらリディーが誘拐されて……。あれほど悔やんだことはない。侯爵家に帰るつもりはないから、何か頼むのはお門違いなのはわかっているけれど、すがれるものにはなんでもすがりたかった。それでリディーをみつけて助けてほしいと願い出たんだ」

兄さま……。

「ありがと」

思いを曲げてわたしを助けようとしてくれて。

兄さまは頼りなげに微笑み、首を横に振る。

「blackがみつける前にリディーは自分で助け出されていた。そしてカークに拐われたとわかった。blackは目標をカークに変えた。カークは騎士が自分を探しに来たのに気づいて逃げ出し、そこをあの4人組に殺されそうになっていたらしい。口封じだね。それをblackがギリギリのところで保護したんだ」

っていうことは、カークさんはあの日すでに捕らえられていたんだ。

レオが出現した。水鉄砲だけじゃなくて、ロビ兄に体当たりしているよ。アラ兄とロビ兄はレオを共通の敵とすることにしたようだ。

あ、レオが大喜びしている。飛び跳ねて、弾んで、その合間に攻撃を仕掛けている。

ギャラリーが集まり出した。みんな双子と子供ドラゴンの対戦に気を奪われている。

「お茶会の後拐われてblackさんに助けてもらった時ね、矢で最初に助けてもらったの」

「矢?」

わたしは頷く。窓を割って入ってきた矢が、わたしに手をかけようとした人の肩に突き刺さったのだと。魔法を乗せていたんだとは思うが、凄い腕だと思った。blackさんに口止めされていたから、あの時のことはただ助けられたとしか話していない。

カークさんがみつかっていたと知り、どこに隠れていたのだろうと思った時に、不意に矢のことを思い出した。カークさんが弓使いだったことも。

「その時のお礼を言ったの」

「……blackが捕らえていて、しばらくは私も知らなかった。会ったときは、カークを殴った」

兄さまは自分の拳をみつめる。

「え?」

「リディーにひどいことをしたんだ。殴るよ、そりゃ。父さまも殴ったよ、最初」

え。それぐらいの勢いがある意味で〝殴りそう〟とは言ったけど、本当に殴っていたとは……。

「カークに話を聞いて、嘘はついていないと思った。カークは言い訳を一切しなかった。殺すと脅されたとは言ったけど、だから自分の意思でリディーを人売りに売ったって言った。パーティのことや、リーダーの家の取り潰しとか、そのことで従ったんだと思うけど、そのことも言わなかった。自分は悪いヤツだから悪いことをするんだって言ってた。後から聞いたんだけど、4人組はカークのそういうところが、責められているわけじゃないのに責められている気がして、自分は悪いヤツって言ってる割に染まっていかないカークが気に障って、結局違う道を歩んだらしい。依頼を受けて、ランクも上のパーティにいていい思いをしていると思ったら、妬ましくて引き摺り下ろそうと思ったんだって」

なんとなく、カークさんという人が見える気がした。

拐われたとき、カークさん自身に何かされる気はしなかった。

貴族に生まれついただけでずるいとか言われたけれど、逆に取れば生まれついたことで目をつけられたのであって、わたし自身による非ではないと受け取ることもでき。あの時そうは考えられなかったけど。でもわたしは納得しながらも、理不尽だと思ったから。わたしの排除を命令した人と、それを実行するカークさんが悪いと思った。だから怖い気持ちに負けずに現実に向き合えた、それで助かる道が開けた。

「カークは貴族から話が降りてきたことは知っていたけれど、その貴族が誰かは知らなかったんだ。だからblackに紛れさせ、その4人組を探させていた」

……そうだったんだ。

カークさんは自首をしたって首謀者に殺されると思っていたから、その貴族を追い込んでから罪を償うしか生きる道はないと思っていたようだ。だから、blackに置いてもらえることはありがたいぐらいで、素直に兄さまとblackに従っていたらしい。

「リディーにblackとの関係を話しただろう? 父さまには言うつもりはなかったんだけど、でもやっぱり話すべきかと思って、あの後に全部打ち明けたんだ。それでカークのことも伝えた」

4人組はみつかっていなかったけど、4人組に依頼しただろう貴族を先にみつけ話が動いた。元凶の貴族がわかったのでその近辺を洗ったら、4人組が殺されそうになっていて助けることになったそうだ。

ある程度父さまの作戦は聞いていたけれど、兄さまも裁判の裏の父さまの本当の目的は知らなかったという。

「父さまは、すごい」

兄さまがしみじみと言う。わたしは頷いた。

「わたしたちの父さまは、本当にすごいね」

一際大きな歓声があがる。ああ、レオともふさまの戦いになっている。めちゃくちゃアクロバティックだ。

兄さまが立ち上がって、わたしに手を差し出す。手を乗せれば引き上げて立たせてくれた。

「私のすごいところを見せるから、見ていてね」

わたしに被らせたジャケットを日差しから守るように整え直し、兄さまは駆け出した。

竜巻をレオともふさまにお見舞いする。

ふたりは飛び退いて距離をとった。相手が兄さまとわかると、もふさまが突進してキックを決めた。まさにその時、風でもふさまを撃退する。

レオが放った水鉄砲も竜巻で威力を削いだ。

水鉄砲が効かないとわかると、レオは兄さまに突進した。避けながら絶妙のタイミングで払い退け、レオが地面に転がる。うん、兄さまも強い。すごいよ。

キュキュっと嬉しそうにレオが鳴く。

「やるなー、フランツ」

ギャラリーが兄さまを褒めた。

ん? レオが膨らんだように……大きくなってる?

もふさまがすかさずレオの首を咥え場外に走っていった。それをぽかんと見送るギャラリーたち。ハッとしたロビ兄とアラ兄は何事もないように、ふたりして兄さまに挑み、3人の対戦が始まる。

みんな煙に巻かれたような気になっているかもしれないが、普通の練習風景になってきたのでギャラリーは散っていった。もふさま、ナイス!

領地に帰る前にアダムの家へお詫びとお礼をしに行くことにした。

先触れのお手紙は届けてあり、オッケーももらっている。

でも迎えてくれた男の子は、薄い茶色の髪に、青い瞳。おっとりした雰囲気に、顔にはそばかすが見える。

誰? 髪と瞳の色は同じだが、わたしの知っているアダムじゃない。

「シュタイン伯とご令嬢が私にどのようなご用でしょうか?」

「失礼ですが、アダムさまですか?」

「はい、私がアダムですが?」

「モロールに叔母さまがいらっしゃいます?」

「え? ええ、おりますが」

父さまとわたしは顔を合わせる。

わたしはアダムからもらった手紙を見せて、一連のことを話した。

「モロールに叔母はおりますが、外国に旅行中です。ですので屋敷にも行っておりませんし、確かにスーザンとベスという妹はおりますが、体は弱くありません。ああ、呼んできましょう」

スーザンちゃんとベスちゃんは、わたしが知っているふたりとは似ても似つかない子たちだった。

わたしたちはお騒がせしましたとハンソン家を後にした。

「リディアはアダム君が誰か、予想がつくか?」

わたしは首を横に振る。

「もふさまが魔力がすごいって言ってた。偽アダムがわたしを王都に呼ぶ手筈を整えたんだね」

アダムとブライドさんはグルだったんだ、初めから。

わたしを王都に呼びたかった。なぜ?

王都にわたしがきたことによってなされたこと。わたしを襲撃した貴族の罪を暴けたことだ。

まさか、違うよね。そこまで考えて、それに組み込まされたわけじゃないよね?

アダムは誰だったんだろう? あの姿も〝幻覚魔法〟だったのかな?

ふと頭に過ぎる。

「推薦状!」

「推薦状がどうした?」

わたしは父さまにアルノルトに伝達魔法で連絡をとって、すぐに推薦状を調べるようにお願いした。

だって偽アダムってことは、推薦状おじゃんじゃん!

イザークの家にお礼を持って行った。フォンタナ家でお菓子をいっぱい作らせてもらってね。お兄さんたちにもお世話になったみたいだから。みんなに配ってもらおうと、いっぱいいっぱい用意した。

お礼を伝えれば、ぶっきらぼうになる。照れているみたいだ。父さまからイザークたち子供組、それから侯爵さまへとお礼はすでに済んでいたようだ。

でも、気にしなくてよかったのに、嬉しいけどと言ってくれた。

侯爵家のお庭も素敵だったけれど、お家の中も素敵だった。メイドさんがいっぱいだ。

応接間にはダニエルとブライも集まってくれていた。それからお兄さんたちと知らない子もいた。わたしたちは改めてお礼を言って、お礼のお菓子を直接渡すことができた。

途中でイザークに呼ばれ、3階に行く。10歩歩けばメイドさんに当たるぐらいだったのに3階は誰もいない。人払いされているようだった。

一室の扉を開ければ、振り返ったのはロサだった。

「私が呼んだんだ、話せるだろうか?」

わたしは頷いた。イザークは出ていく。

「陛下から言葉があった。君は私の婚約者から完全に外れたよ。だからそのことで君と君の家族が危険にさらされることは決してない。……よかったね」

思いがけず、心からそう思ってくれているようなのでお礼を言う。

ロサは一息ついた。

「契約解除だね。でも解除したって、君は領地が大切で発展を望むだろうから、私は困らない」

「……協力するよ。報酬を変えるけど」

「報酬を?」

「第27条、ふたりが納得すれば報酬も、条約も変更することができる」

ロサはなんとなく頷く。

「いつかロサは王さまになるんでしょ?」

そのために王位継承権を確かなものにしたくて、課題に取り組んでいる。

「もしロサが王さまになったら秘密ごとをあまり作らないで。みんなで考える方がきっと、いい方法が思いつく道も増えると思うから。どうか魔法に規制をかけないで。みんなが好きに魔法を使うのを躊躇わなくていいような世の中にして」

「……抽象的なようでいて、具体的だな」

「うん、できる?」

「……できるかどうかはわからないけど。今は好きに魔法を使えていないのか?」

「魔力が多いと目をつけられるでしょ? 国の機関に勤めることになるんでしょ?」

「それは……その者を捕らえたりして悪いことを考える奴もいるから、護るためだと聞いている」

「それは難しい問題だね。やっぱり自分にはできないけれど、できる人がいたら頼りたくなるものね。そして切実になればなるほど、縛りつけてでもやってもらわなくちゃって心の動きも見えるようだもんね。でもさ、きっといい方法があるんだよ。頭のいい人が揃っているんだからさ、そういうの考えてよ」

「丸任せか?」

「わたしは頭がいいわけでも魔力があるわけでもないからね。わたしはわたしでできることを頑張る。だからロサも、ロサが頑張れることでいい王さまになってよ。それがわたしがこれからも頑張る報酬」

「一緒に頑張ってはくれないんだな……」

「なぁに? 声が小さくてよく聞こえなかった」

「リディア嬢に言われなくても、私は国を支えてくれる民たちのために全力で挑む」

やっぱり、ロサは熱いヤツだ。そして上に立つ視点の人だ。

そんなロサだから頑張って欲しいと思う。

「じゃあ、契約続行だね」

手を差し出せば、ロサはわたしの手を握った。握手する。

これからは食うか食われるかの関係じゃなくて、一緒に目標をクリアするために切磋する仲間だ。

「お菓子いっぱい持ってきたんだ。ロサの好きなクッキーもあるよ」

そこまで言ってハッとする。王子だからみんなと顔合わせちゃまずいとか?

「みんなと顔合わせるのまずいの?」

「いや、今日来ている者たちなら問題ない」

なら下に行こうと手を引っ張った時にドアがノックされた。

ロサが許可すると、入ってきたのは兄さまとイザークだ。

「お久しぶりです、殿下」

兄さまの声は冷ややかだ。

「今、みんなでお菓子を食べようと下に行こうとしてたの」

と告げれば、兄さまがわたしの手を解く。

あ、深い意味はなく引っ張っていくところだったんだけど。

「では、下に参りましょうか?」

口調は丁寧だけど、怒りを含んでいるね。

『フランツは何を怒っているんだ? 我がいれば危険がないことぐらいわかるだろうに』

ずっと言葉を発せず寄り添ってくれていた、もふさまがわたしを見上げる。続いてポシェットの中から声がする。

『主人さまは男女の気持ちに疎いなぁ。嫉妬だよ、嫉妬。フランツは人の雄とリディアが触れ合うのが嫌なんだよ』

雄って……。

兄さまと手を繋ぐ。兄さまは驚いたようだけど、嬉しそうにした。

もう片方の手でロサを引っ張る。

「ほら、お菓子食べに行こう」

みんなで部屋を出て、下の階に行った。お土産とは別にお菓子を持ってきたんだ。甘いの以外にも、ポテトチップスもどきとポップコーンもどきをね。

どちらも大好評だ。ああ、この世界に炭酸ないのかな? ポテチやポップコーン、フライドポテト、ピザ、ハンバーガーなんかは炭酸と一緒にいただきたい!

あと引くジャンクさがたまらないよね。手が止まらなくなっている。

フォンタナ家にもドラゴンが来たんだろう?と誰かのお兄さんが言った。

「来ました。青い小さなドラゴンでした」

兄さまが無難に答える。

レオは自分のことだとポシェットの中で揺れる。

わたしはポシェットを押さえつけた。

『レオ、大人しくしていろ。ここで騒いだら怒るからな?』

もふさまが言ってくれて、ポシェットが静かになった。胸を撫で下ろす。

「子供といえど、ドラゴンがくるなんてすごいよな。それも危害を加えるんじゃなくてさ」

「いずれそのドラゴンがこの国を加護してくれるんじゃないかって、早くも外国に噂されているそうだ」

「聖女にドラゴンか。この先何かが起こったとしても、味方になってくれるのなら心強いけどね」

「ドラゴン、怖くなかった?」

イザークのお兄さんかな、髪の色が同じだ。

「ツルツルでかわいかったです」

そう言えば、みんな少し驚いている。嘘じゃない、本当だよ。

「青くて、小さくて。目がくりっと大きくて、とってもきれいな目でした」

「へぇー、見てみたいな」

「騎士団にも来たんだろ?」

「訓練していると来るって噂だ」

みんなドラゴンを見たいようだ。フォンタナ家には3回来ているから、今後も来る可能性が高いと遊びに行っていいかと聞かれる。多分オッケーだと思うけれど、居候なので一応聞いてみると約束を交わした。レオが喜びを隠せないらしくキュキュと声を上げるので、誤魔化すのに大変だった。

領地に王都のお土産を買って帰りたいんだというと、いろいろ情報を教えてくれた。わたしたちは王都でもとても楽しく時を過ごした。飛ぶように毎日は過ぎ、領地に帰る日には、みんなが見送りに来てくれた。

裁判の判決が出るのはもう少し先だ。カークさんの裁判が決着づくのも。代理人がいるので、もう父さまがこちらにいなくても大丈夫なようだ。

モロールのハンソン家をオメロのお父さんに調べてもらったところ、アダムの叔母さんは海外旅行中で留守のままだそうだ。近所の人に聞いたところ、しばらく留守にしているはずだが、そういえば一時人の出入りがあったという。屋敷の手入れだろうと思って気にしなかったそうだ。勝手に家使ってたのか? 持ち主が帰ってきたら、その旨を告げて盗まれたものがないかなど調べるよう伝えてくれると言った。

推薦状は問題なかった。変わったサインだったのでキートン夫人に見てもらったところ、メイド協会というメイドを育てる機関があり、そこの基準により合格している印がされていた。問い合わせたところ、合否の判断をできるものが試験を行い推薦を書いているものだそうで、推薦状に問題はないと言われた。

判断をしてくださった方を探していると言ったが、それは教えられないと弾かれたそうだ。でも、相当身分が高いとわかった。相当、ね。

きっと毎日の怒涛の出来事も、振り返ってみればあっという間のことなのだろう。父さまがわたしたちに自由をくれた。王族からの縛りはもうない。わたしたちは、ここで、この国で、出会った知り合った人たちときっと楽しく暮らしていける。時には何かが起こるだろうけれど、乗り越えてきた今までを思えば、きっとこれからもやっていける。

わたしは大好きな人たちと、楽しく暮らしたい。毎日が楽しいことで溢れているといいと思う。そのためなら少しぐらい努力はするつもりだ。

おいしいものを食べたいし、ふわふわ、もふもふは相変わらず好きだ。顔をもふもふに埋めると穏やかな気持ちになれる。

わたしは毎日がとても楽しい。こんなふうにいつまでも過ごして行けたらいい。家族がいて、もふさまがいて、アオとレオもいる。アリとクイも帰ってくる。家にはケインとシロたちもいる。帰ったらみんなでダンジョンに行くことになりそうだな。

「ふふふ」

「どうしたの、リディー? 笑ったりして」

「帰ったら、何人でダンジョンに行くことになるんだろうと思ったらおかしくて」

兄さまは少し考える。

「大所帯になりそうだね」

そしてその大所帯で個々に好き勝手に暴れ回るんだ、多分。

でも、それはわたしの望んでいることのひとつであり、きっと楽しいと思うのだ。

集まってくれたみんなにお別れをする。淋しくもあるけれど、また会えるとわかっているから大丈夫だ。

兄さまに手を差し出されて、その手を握る。

わたしの 未来(これから) も、きっと楽しい!

<5章 王都へ・完>