軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第211話 フォンタナVSシュタイン

『私も試合に出たい!』

レオが地団駄を踏む。

いや、ちっちゃくても、ドラゴンいたらまずいから。

『リディアを困らせるでない』

『ずるいな。自分は暴れられるからって。私のことだけは紹介してくれなかったし』

「レオ、ぬいぐるみのフリする? そしたら防御をプラスして、ぬいぐるみとして紹介はできるけど」

『それは遠慮する。ぬいぐるみのふりなんかしたら眠っちゃいそうだ。今回は眠らないように遊びに来たんだから』

へ?

「リディー、着替えられた?」

「え? うん」

ドアの向こうから聞こえた、兄さまの声に答える。

小さい子用の乗馬服に着替えている。乗馬服ってずいぶんピッタリしているものなんだな。そして、この部屋に掛けられた様々な服を見て、ため息を落としてしまう。

ここには小さな女の子はいないのに、小さな女の子用の服がいっぱいある。

女の子を待ち望んでいたフォンタナ家、赤ちゃんを授かるたびに、女の子用の服やら靴やら小物やらを揃えてきたそうだ。

わたしはそんな話を聞いたことがないが、生まれる前に女の子用の物を揃えると女の子が生まれ、男の子の物を揃えると男の子が生まれるという言い伝えがあるらしい。だとしてもこれだけやっても効果がなかったのだからと思ってしまうが、当事者は願わずにいられなくて、少しでも縋れることには縋った結果なのだろう。

わたしが生まれたと聞いてからは、リミッターが外れたみたいで、赤ちゃんの服だけではなく、幼女が着るような服が揃っていた。会えたときにプレゼントすると思っていたみたい。ありがたいけど、女の子がいないのにこの服の量は……。

ノック音がする。

「着替えられた? お手伝いしましょうか?」

男爵夫人、アマンダおばさまの声だ。

そうっとドアを開ける。

「着替えられました」

うっ。アマンダおばさまの後ろには、前男爵夫人のレラおばあさま。男爵の第一子夫人のエメラルドおばさまもいらっしゃった。

「あら、ちゃんと着替えられたのね。なんてかわいいのかしら」

「やっぱり赤がいいわね、乗馬服は」

「お義母さま、おばあさま、髪をどういじりましょうか?」

その後ろには兄さまたちがいた。やれやれという顔をしている。

それからしばらくおばさまたちに髪をいじってもらう。結局ポニーテールにしてくれた。

怪我しては大変と長袖のジャケットを着込む。その赤と合わせて、細い赤い革のリボンだ。暑い。試合どうこうよりも、のぼせそうだ。

おばさまたちに連れられて、演習場に行く。屋敷の中にあるんだもん、どんだけ広いんだと言いたくなる。ポシェットにはアオが入り、もふさまのリュックにはレオが入っている。

さてさて。

わたしたちと試合をするのは、男爵の孫たちみたいだ。

こちらが4人と、もふさまなので、向こうも4人としたみたいだ。

一応もふさまは強いと伝えたけれど、本気にはしていない。

それにしてもギャラリーが多すぎる。さっき整列していた人たち全員なんじゃないの? 演習場の周りをぐるりと筋肉マンたちが取り囲んでいた。

試合の前に、選手?ひとりひとりと健闘を称えて握手するが、なぜかわたしだけ握手ではなくみんな頭を撫でていく。

「リー、サボってたとわかったら、これから修行時間、倍にするからね」

ロビ兄、笑っていうことじゃないから。

それは嫌なので、本気で取り掛かることにする。

うー暑い。

兄さまたちには長めの木刀が渡される。喉などの急所の攻撃は禁止だ。わたしの魔法は制限なし。他の人はメインで魔法を使うのは禁止、補助ぐらいならいい。どんな魔法が使えるかはお互い言わない。大将の持ち物を先にとった方が勝ち。わたしたち側はわたしが大将で、リボンとなる。

相手側は一番年長のシモーネ君、10歳。薄い茶色の髪にダークグリーンの瞳の男の子で、わたしのリボンを取られる前に彼の木刀を落とせればこちらの勝ちとなる。

大将以外は木刀を落としたら、そこで棄権となる。わたしは木刀を落としてもオッケー、魔法メインで戦うからだ。

陣地で作戦を練る。わたしは後ろに控え、もふさまはそれを守る。わたしは短い木刀だが、すでに重い。これを振り回すことはできないだろう。

始まりの合図があり、アラ兄とロビ兄が先陣を切る。木刀が激しく合わさりあった。いい勝負みたい、拮抗している。風の使い手がいるらしく、いいタイミングで風に邪魔されている。でも着実に距離をつめ、ロビ兄が相手の木刀を落とし、アラ兄は木刀を落とされお互いひとりずつ棄権となった。ロビ兄はすぐにアラ兄の木刀を落とした人との間合いを詰める。同じ歳ぐらいでも、向こうの方がみんながっしりしているし体も大きい。

兄さまが走り出し、木刀攻撃と同じくして魔法の風をお見舞いする。

大将の子が最年長と言っていたから、10歳未満のはずだが、体は一番大きな子だ。素早さは兄さまが上だが力で押される。ロビ兄を手助けするつもりで風を後ろから送ったら強すぎたみたいでロビ兄が木刀を落とした。……ごめん。

出陣しようとしたもふさまに「加減してね」と言っておく。

振り返ったもふさまは

『顔が赤いぞ』

と言った。そういえばのぼせてきている。このジャケットが良くない。ジャケットを脱ぎ捨てると、勇ましかったらしく歓声があがった。

「おお、姫がやる気になってるぞ」

「さすが一族の姫だ。戦いに躊躇いがない」

感心されてる。

苦戦している兄さまに、さっき風で失敗したから水鉄砲で相手を攻撃した。滑ったらしく相手が木刀を落とした。そこに風が吹いてアラ兄とロビ兄に勝った人が特攻してきて、兄さまも木刀を落とす。

もふさまがトテトテと歩いていって、3人勝ちした子の木刀に食いつき、木刀を払ったところ彼が吹っ飛んだ。場外だし、木刀はもふさまが咥えている。場がシーンとする。

うん、みんな今、子犬、一番強いじゃんって思ったよね。

もふさまが走り出すと、シモーネが言った。

「大将戦にしないか?」

わたしは受けて立つことにした。

シモーネは審判に大将戦ルールとして〝参った〟といえばそこまでにするルールを付け足した。それが目的だったようだ。

試合再開となり、シモーネが間合いを詰めてくる。

はやっと思ったときには、シールドを張っていなかったらわたしは終わっていただろうな、の攻撃をされていて……でもシールドを張っているから吹き飛ばされたのはシモーネだ。

さて、ロビ兄にサボっていたと思われると修行時間を倍にされちゃうから。

「水人形!」

普通の水使いだと、あくまでも属性が水なだけなので、大量に噴出とか、一点目掛けて力をパワー圧縮とか、渦を巻いてとか、そういう使い方になる。魔力量があればパワーで押せるだろうけど。パワーでは押せても、それは水以外の何ものでもない。

水使いも水で人型を取らせることは可能だろう。だが、どこか突き抜ければ魔力の穴があきただの水に戻ってしまう。自由に形を変えることができるが、一点でも通り抜けられると魔力の膜がなくなってしまうみたいなのだ。

だからわたしはね、コーティングしちゃう。うっすいコーティングを張れば土人形と同じぐらいいろいろなことができる。

膝丈サイズの水人形がわらわらとシモーネに駆け寄り、目の前でみんなでくっついて子供よりちょっと大きなサイズの水人形になる。

木刀を突きつけたシモーネだが、木刀で魔力の穴を開けられずに驚いてる。水人形はシモーネの木刀を掴み、足を払おうとした。

ん? もふさまのリュックから何か飛び出したような……。

わたしが見上げた空を、みんな釣られて見上げる。

子犬サイズのドラゴンが降り立った。

え?

疑問符のような声が上がる。

『馬鹿者が!』

『だって、みんなで遊んでいるのに。私も混ざる!』

……レオ。

シモーネがわたしを背に庇うようにする。

ギャラリーの中に逃げ出すような人はいなかった。

すぐに走り出せるような体勢をとり、周りとアイコンタクトをとりながらレオにじわじわ近寄っていく。

キュキュ!

嬉しそうにレオが鳴いて、水鉄砲をみんなにお見舞いした。とても小さくかわいらしい水の噴射に見えたが、威力はさすがドラゴン。みんな地面に倒された。一瞬にしてずぶ濡れだ。

わたしも水を被った。前にもふさまが来てくれたので、シモーネともふさまの壁があり、水の勢いはそうでもなかった。

あ、目の奥がチカチカしていたのが消えた。

そっか、かなり暑かったんだ、わたし。日射病、一歩手前だったかも。

「なんで、ドラゴンが」

「ちっちゃいけど、やっぱり、あれドラゴンだよな?」

みんなに水鉄砲を振り撒きながら、走り回るレオ。

「ありゃ、遊んでるな。まだ子供のドラゴンだろう」

誰かが言った。

まあ、ドラゴンが本気で戦ってきたら、たとえ子供だとしてもどんな被害になるかわからない。

レオは走り回り、もふさまがそれを追いかけた。もふさまとの追いかけっこになり、最後はもふさまが倒し、キューっとなったレオを咥えた。

「こ、子犬って、ドラゴンより、強いのか?」

焦ったような声も聞こえる。

もふさまは咥えたレオを離さずに、軽やかに演習場の外に走っていった。

「どうするんですかね?」

「決まってるだろ。犬はお宝を埋めるもんだ」

ああ、あの骨を隠しておくやつね。

もふさまは少しすると、すました顔で帰ってきた。レオは小さくなってリュックの中らしい。

ドラゴンが来て怖かっただろう、驚いただろうと声をかけられたので、

「わぁー、フォンタナ家は強い人たちがいっぱいだから、ドラゴンも遊びにくるんですね」

とフォローを忘れなかった。ナイス、わたし!

フォンタナ家の人たちは、〝強いからドラゴンも遊びに来る〟というフレーズをいたく気に入ったようだ。