軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第205話 牢屋で再会?

足音は部屋の前まで来た。

ガチャガチャと何かを開けるような音がする。

「大人しいな。そのままでいてくれよ。お優しいご主人さまが最後の晩餐だとよ。ありがたく食うことだな」

何かを落としたような音がする。ガチャガチャと再び金属音。

「坊ちゃんたちは集まって。今頃怖くなってきたのかい? お可哀想に。素直に婚約するといえばよかったのに」

足音が遠ざかっていく。完全な沈黙が降りた。

「リディー、なぜお前が!」

声を荒げた父さまの口をシヴァが手で塞ぐ。

うんうん頷いて、父さまがその手を外す。父さまは声のトーンを落とした。

「リディー、なぜ、ここに来た?」

「それより、その格好は何?」

兄さまにすっごい顔で詰め寄られる。

袋小路にいたわたしたち。その格子檻はわたしだったらなんとかすり抜けられる間隔だった。もふさまも小さくなれば通れる。わたしはもふさまから降りて、格子の合間に足を入れ、体を入れた。最後に頭を通そうとすると、ちょっとつかえてモタモタした。カツーンという音が大きくなっているから、余計に焦る。父さまが頭をそうっと持って角度を変えてくれて何とか通った。もふさまも小さくなって入ってくる。

わたしは兄さまのジャケットを被され、部屋の隅につれていかれる。ハッとする。〝水着〟のままだった。兄さまたちが3人寄り添ってわたしともふさまを隠すようにした。父さまとシヴァが檻の前の方に立つ。

そこに降りてきた人がぐだぐだ言って、引きあげていった。

石の床上には固そうなパンが転がっていた。

レオがポシェットから飛び出す。

『はじめまして。リディアたちの父君だね?』

アオがポシェットから飛び出す。

「はじめまして、リディアたちの父君だね?と言ってるでち」

「あ、アオ?」

みんなの声が重なって響く。

みんな慌てて自分の口を塞ぐ。

動きを止めて耳を澄ませる。何も音はしない。胸を撫で下ろす。

もふさまが魔具を出した。みんな無言で手を乗せる。

『シードラゴンのレオだ』

「シードラゴン?」

サイズが違うだけに、理解が追いつかないみたいだったが、さすが父さま、立ち直るのが早かった。

「いつぞやは海の幸をたくさんいただき、ありがとうございました。領地のものとも分け合い、とてもおいしくいただきました」

と胸に手をやり礼を尽くした。

『それはよかった。今日は海で遊ぼうって誘いに家に行ったんだ。リディアと海で遊んで。兄たちとも会いたかったといえば、リディアもアオも会いたいっていうから、連れてきた』

「そうなのか?」

言われて頷く。

「遠くからただ顔を見て帰るつもりだったんだけど、王都じゃない町の地下に気配があるって聞いて。何があったの?」

だって、これ閉じ込められているんだよね?

「リディアはここにいてはいけない。会えたからいいだろう、家に帰りなさい」

「あんな不穏なこと聞いて、帰れるわけない」

「これは罠なんだ。だから大丈夫だ」

「罠って!」

大問題じゃないか!

「それより、リディー、なんて格好を」

「それは私も聞きたい」

「リー、どういうこと?」

「こんな足見せて」

「お嬢、それはまずいです」

そこか!? この牢のような中で気にするところ、そこなのか?

「リディー?」

「これは水着だから」

なんで今そこを問題視するかわからないが、とくとくとお説教された。着替えがあるんだろうと促され、着替えを要求される。話が進まないので着替えました。

そして帰れと言われたが、ご飯を出して、みんなに食べてもらう。お昼の残りの魚介スープもだ。何もしないでいてもじわっと汗が出てくるぐらいに暑いけれど、スープを食べてお腹が温かくなるとみんなの表情が緩んだ。

アオの若返りの姿のことを話すと、表情が明るくなる。

やっといつもの父さまたちに戻ったので、〝さっきの人、最後の晩餐と言ってたと思うけど〟と切り出した。

「リディーは帰るんだ。母さまたちが心配している」

あ、もう夜だ。確かに母さまたちは心配しているだろう。

「あ、伝達魔法は?」

父さまは腕を出した。腕輪のような物がついている。父さまだけでなくみんなの腕にそれはついていた。

「魔力を封じられている」

『その変なのを壊せばいいのかい?』

「壊したいところではありますが、壊したとわかるはまずいのです」

魔法を使わなくても壊せる何かしらの力があると思われて、次はもっと厳重に拘束されてしまうからだろう。

『ああ、機能は止めていいんだね? えい』

そう言って、レオが父さまの腕輪に爪を置く。

父さまから風が吹き上がったように髪がふわっと持ち上がった。

「あ」

父さまはレオに頭を下げ、レオは同じようにみんなの腕輪の機能を壊して回った。

「ありがとうございます」

父さまはごほんと喉を整え、シヴァから受け取った魔具を持って、部屋の隅に行った。何やらぶつぶつ呟いている。

「父さま、リディーは話さないと帰らないと思うよ」

その通りだと頷けば、父さまは思案顔だ。

「いいか、リディー、父さまたちがここに捕まっているのは作戦だ」

「作戦?」

「ある者たちを捕まえるのに、わざと捕まっている」

「わざと?」

「そうだ」

罠と言ったのは、嵌ったのではなく、嵌めているということ?

唇の端に血が滲んでいる。殴られたような痕もあるのに?

「ここにリディーがいると台無しになってしまう。代わりにリディーにはやって欲しいことがある」

「なあに?」

「家に帰り、明日、いや、明後日まで、絶対に家から出ないでくれ」

頬が膨れていく。

「作戦がうまくいけば、明日の夕方、家に使者が訪れるだろう」

「使者が?」

「リディアに婚約を申し込んでくるはずだ」

「え? わたしには兄さまが」

「奴らは油断している。今ならウチの領地を好きなようにできると思っている」

ええ?

「変わったところは見せちゃいけない。アルノルトは明日普通に町へ行く。町からじーさんたちがウチの見回りにつく。リディーも母さまも、決して家から出てはいけない。すべてじーさんやハウスさんに任せるんだ」

「でも……」

「本当は父さまひとりが捕まって、シヴァと3人には他の仕事を頼んでいたんだ。けれど敵もあっぱれで、少し手筈が狂った。だが、5人を一緒にしてくれて却って助かったんだ。主人さま、レオさま、アオ、リディアをお願いできますか? 家まで送り届け、どうかよろしくお願いします」

シヴァや兄さまたちも頭を下げる。

でも……。

『主人さま、私は残るよ』

レオはいいことを思いついたと言いたげに胸を張る。

え?

『兄たちと遊びに来たんだ。まだ遊んでいない。明日、ことが終わってから遊んでそれから帰るとしよう。それならリディアも家で待てるだろう? いざとなったら、私が〝敵〟は踏んづけてやる!』

頼もしいが、最後の言葉が嫌に楽しげに聞こえて、本気のような気がする。

レオはキュキュッと鳴いて、兄さまのジャケットの胸ポケットに収まった。

『任せたぞ、レオ』

もふさまがそういえば、レオは嬉しそうに鳴いた。

『任せられたぞ』

「……ちゃんと、手紙で知らせてね」

父さまに訴えかければ、一応頷いてくれた。

「わかった」

後ろ髪を引かれる思いだが、わたしは役立たずだし、何ができるわけでもない。バレたらどうやってここまで来たということになるし……。

ひとりずつハグする。無事でと祈りを込めて。

体を曲げて格子から出る。

もふさまの背中に乗れば、足音を立てずに階段を登っていく。振り返っても、牢の中はもう見えなかった。