軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第189話 お茶会④stolen jewels

「子供たちの物語の話を真に受けて、私の名を通した茶会に乱入してきた、と?」

「そ、そんな! 子供たちが言っていたんです。殿下が宝石を探していて、届けたものには賞金を出すと」

ああ、そんな予想もあったね。偉い人が賞金を出してみつかるってストーリーも。

「ますますわからないな。子供が言っていたとしてもおかしいと思わないのか? 一国の王子が宝石を探していて騒ぐか? それも町の子供にそれを伝えるか? 賞金を出すってどんな宝石にそんな価値が?」

「子供たちは宝石を探しているのが〝殿下〟だと言ったのですか?」

キートン夫人が尋ねれば、男爵夫人の目がさまよう。

「偉い人と……」

「殿下とは言っていないのですね?」

「それにしてもおかしいですわ。教会のバザーで購入した物を、なぜキートン夫人の持ち物だったもので、殿下の探されている宝石だと思いましたの?」

侯爵令嬢が尋ねる。

「そう言えば言い直していたが、リディア嬢は夫人が木彫りの人形を譲った人は、詐欺師とかなんとか言ったな」

どこからか声があがる。ナイス、アシスト!

わたしは言ってはいけないことを言ってしまったかのように、モジッとしてみせた。

「そ、それは、この家で木彫りの動物を見かけたことがあったからですわ!」

勢いづいてコルヴィン夫人が言い切った。

「……コルヴィン夫人がこの家に入ったのは、ワンダ夫人にお譲りした後ですわ」

冷静にキートン夫人が事実を告げた。

「リディアさま、物語では木彫りの動物とは言われてないのですよね? 物語ではその宝石はどのように言い表していましたの?」

わたしは木彫りの動物とは思っていなかった。わたしは答えた。

「はい、〝盗まれた宝石〟と」

会場が静かになった。

そう、わたしは物語では盗まれた宝石としたのだ。

でもコルヴィン夫人は〝譲られた宝石〟を持ってきた。ワンダ夫人からねだられて譲った、キートン夫人の宝石の目を持つ木彫りの動物を持って。

子供たちは〝盗まれた宝石〟としか言ってないはずだ。でも〝知っていた〟から繋がったと思っちゃったんだろうね。婦人が偉い人から預かっていた宝石を探していると聞いて、キートン夫人が殿下から預かっていた宝石を探していると思ったんだろう。探しているのは、今はないから。ワンダ夫人に譲ってしまったから。よくよく考えもせずに、宝石を持って乗り込んできた。賞金をもらえるか殿下に覚えてもらえる栄華に目が眩んで。

「これは何やら不審だな。そうは思わないか? フランツ」

「ええ。これは力のある方たちに、しっかり調査してもらいたいですね」

「な、何をおっしゃるの? 私は親切心で必要なものだと聞いたから持ってきてあげたのに! こんなもの」

と木彫りの動物を地面に打ちつけた。

あ、キートン夫人の思い出のものが。

急いでひろう。よかった、傷はついてないみたい……だけど。

ポシェットからハンカチを出して、土の汚れを拭く。

キートン夫人に差し出すと、夫人はわたしの手ごと包むように受け取った。

「リディアお嬢さま、大切に扱ってくださってありがとう」

わたしは首を横に振った。

物語の小道具にしたことを後悔した。まさか地面に叩きつけるとは。

男爵夫人は

「御前失礼します」

と殿下に頭を下げて、プリプリと門から出て行った。

「皆さま、お騒がせして申し訳ありませんでした」

兄さまが頭を下げる。

「殿下、これは一体何があったのですか? キートン夫人にいったい何が?」

子爵家のご子息が殿下に問いかける。

「リディア嬢、アイボリー令嬢、マーヤ令嬢。キートン夫人を部屋で休ませてあげてはくれまいか?」

わたしたちは頷いて、青い顔をしたキートン夫人を左右から支えた。

『我は外にいる』

もふさまに頷いて、家の中に入る。執事さんに手伝ってもらって、居間のソファーに夫人を座らせた。

わたしはお茶を用意してくるとキッチンへと急いだ。

キッチンには料理人さんがいたので、カモミールのお茶っぱを渡す。砦の町で手に入れたものだ。

夫人は胸が塞いでいるようで、このお茶は心を落ち着ける作用があると言われているんだと。袋を開けて匂いを嗅ぐと「カモミールですね」とわかってくれた。作用のことも知っているのだろう。これでお茶を入れて持ってきてくれるというので、わたしは居間に戻った。

キートン夫人は盛んに大丈夫ですと言っているけれど、手が震えている。

「こちらは侯爵さまが作られたものですの?」

アイボリー侯爵令嬢が優しく尋ねる。

「え、ええ。とても不格好でしょう? あの人は手先が器用ではなかったから。でも物をこしらえることに憧れがあったみたいで、苦労して目に宝石を埋め込んで。この宝石もクズ宝石と呼ばれる、純度は低い物ですのよ」

夫人は涙を流した。

「私、本当に騙されていましたのね」

これをどう手に入れた筋書きにするつもりだったのかはよくわからない。言い切ったということは教会のバザーに一度のせるようにしたのだろう。時間軸を考えれば、これがキートン夫人のものだとわかることが、もうキートン夫人を嵌めた詐欺師ワンダ夫人と繋がりがあるということなのに、そこはどんな言い訳をするつもりだったんだろう? 気づかれないとでも思っていた?

キートン夫人は感じの悪い人だと思っていたかもしれないけれど、コルヴィン夫人が詐欺師と繋がっているとは思ってなかったみたいだ。とするとドナモラ伯爵にも不審は抱いていなかったのかも。打撃を受けている。それを知らせてしまったのは、申し訳なく思う。

お茶が運ばれてきて、口をつけると、少しだけ顔色がよくなった。

ドアがノックされて、殿下が入ってくる。

立ち上がろうとした夫人を殿下は止めた。

「夫人、騒がせてすまなかった」

「いいえ、私こそ、みっともないところを。申し訳ございません」

「いいや、そろそろお暇する前に、皆夫人に感謝を伝えたくてね。皆を屋敷のこの部屋に入れてもいいだろうか?」

夫人は驚いたようだけれど、許可する。

「夫人、ピアノをお借りしても?」

「え? あ、はい」

「アイボリー令嬢、伴奏を頼めるだろうか?」

ああ、という感じで令嬢は頷く。

皆さまが部屋に入ってくる。そうしてピアノにはアイボリー令嬢が、キートン夫人に聞かせるようにみんなが立ち並ぶ。

わたしたち兄妹はピアノの横に行った。

「キートン夫人、私たちはあなたが師だということに誇りを持っている。あなたに教え子だと誇ってもらえるように、教えをいつも指針にしたいと思う。久方ぶりにあなたにお会いできて嬉しかった。みんなの感謝を歌に乗せることにした。聞いてくれ」

ピアノが高い音から低い音に流れ、それは少しだけ切なげな旋律を奏でだした。

わたしたち兄妹以外が、声を揃えて歌い出す。

愛する人を称える詩だった。道端の花にも水溜りにも見上げた空の雲にもあなたがいる。近くて遠いあの人に届いて欲しいと願う優しい思いで溢れる詩だ。

キートン夫人の目から涙が一雫落ちる。

……思い出深い歌なんだね。殿下や教え子たちはそれを知っていたんだ。

歌い終わり、そしてピアノがやむ。

キートン夫人は静かに立ち上がり、そして胸に手をあてる。

「素敵な贈り物をありがとう。私はこの時を一生忘れないわ」

「先生、負けないでください!」

「そうですよ、悪い人に負けないで。私たちの先生なんだから!」

子供たちがキートン夫人に詰め寄った。

「そうね。本当にそうだわ。先生……戦うから」

すごいね。ぺしゃんこになっていたキートン夫人の気力を、戦わせるまでに持っていった。

「訴えていただけますね?」

そう問いかけたロサに夫人は頷いた。

そうか。なぜかはわからないけれど、キートン夫人は訴えていなかったんだ。だから周りは何もできなかったんだ。