軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第137話 冬ごもり⑥雪解け

わたしたちは、その食べっぷりをただ見守っていた。

空の主人さまを居間に案内して、もふさまは例の魔具で、空の主人さまももふさまもわたしたちと言葉が通じるようにした。

空の主人さまは、最初に説明してくれたように、みんなに改めて理由を話す。

会議の時にもふさまの食べていたものが興味深く少しもらったところ、とてもおいしかったので、もっと食べたいともふさまに頼んだが断られた。家までついて行こうとすると撒かれてしまったので、ずっと探していてやっと探し当てたという。急に来て申し訳ないが、馳走してもらえないだろうか?と孔雀サイズの主人さまは首を傾げた。

父さまや兄さまに接待を任せて、わたしとピドリナさんとアラ兄とでご飯を作りまくった。作り置きを足して、なんとか格好をつけ、遅めのランチを決め込んだのだが、細長いクチバシで上品に食べながらスピードも早く、食べ物がまるで麺が吸い込まれるように入っていく。羽で器用にスプーンやフォークも使うのには驚いた。

もふさまに味わって食えないのかと言われても、十分に味わっているよと速度は緩まなかった。デザートのフルーツとケーキまで、収納ポケットにあった作り置きが空っぽになるぐらいの食べっぷりだ。

いやー、気持ちいい。ピドリナさんも同じ思いみたいだ。

他の人は見ているだけでお腹がいっぱいになっている。気持ちはわかる。

細いカップに紅茶を入れて出すと、カップをしっかり持って飲んでいる。どうやって羽で持っているんだろう。不思議だ。

『お前は混ざり者だな』

「空の主人さま、おいらアオというでち」

アオは丁重に挨拶をした。

『アオ、か。混ざって、ああ、それでどちらにも属せるのだな』

空の主人さまはふむふむと頷いている。

『人族の一家よ、大変、美味であった』

「お口にあって良かったです」

父さまが静かに響く声で返す。

『ここが、森の護り手が選んだ場所なのだな』

小さな声の呟きには愛情がたっぷりこもっていた。

ああ、もふさまのことが心配で様子を見にきたのか。

『リディアといったか?』

「はい」

『次に会うとき、ひとつだけ、お前の知りたいことに答えてやろう。我の知ることに限るがな』

そういって椅子を降りた。

『馳走になった。礼をいう』

来た時もそうだったけれど、帰る時も唐突だ。

もふさま、もっと話さなくていいのかしら。

『空の護り手よ、ちと頼まれてくれないか?』

『頼み? 我にか?』

もふさまが頷くと空の主人さまはもっと上機嫌になった。

『柵の外にな、一際高い木があるだろう? その木にな嫌な気を発する魔具がある』

え?

『ああ、あの黒いのか』

『そうだ。あれをどこかに運んでいってくれないか?』

『あれはなんなのだ?』

『どこぞの人族が、この家を見張るのに仕掛けていったのだ』

空の主人さまは嬉しそうな顔をした。

『お前のことに気づく人族がおったか?』

『我ではなく、この家のものたちが気になって仕方ない奴らがいるようだ』

空の主人さまはわたしたちに目を走らせた。

『そうか。では、見ているものに楽しい思いをさせてやろう』

くくくと主人さまは笑っている。

『領主よ、それでいいな?』

もふさまが父さまに確認をとった。父さまは胸に手をやり頭を下げた。

父さまも知っていたの?

空の主人さまは玄関で振り返ると小さな小鳥の姿になった。

『では、さらばじゃ』

もふさまの頭の上に乗って、もふさま専用の玄関から外に出た。

もふさまがワンワン言ってる。

慌てて居間に戻り外の様子を見る。庭でしばらく追いかけっこをした主人さまともふさま。主人さまは追い立てられるようにして、庭先の木の枝に止まった。そして何かを突っついて、飛び上がり足でそれを掴んで羽ばたき、あっという間に姿が見えなくなった。

「父さま、あれ、何?」

兄さまが父さまの服の裾を引っ張った。

父さまは困り顔だ。父さまにはハウスさんから報告が入ったようだ。

あの某権力者からの事業計画書の提出と花の種を持ってきてくれた従者の人が、庭先に監視カメラのような魔具をつけていったらしい。

ハウスさんともふさまが気付いていたようだが、それを取り外しても〝気づいた〟ことになってしまう。より高性能なものや、何かが送り込まれても厄介なので、まぁ、庭の先だし、そこまで困ることはないだろうと放置することにしたそうだ。でも、もふさまは自分のテリトリーにそんなものを仕掛けられてとても不愉快だったようだ。父さまとハウスさんたちが下した決断を受け入れたが、ムカムカしていたらしい。

空の主人さま、わりと悪い笑顔を浮かべていたので、どんなふうに捨てるのか、めちゃくちゃ興味ある! でもそれを質問にしたらもったいなさすぎるだろうなー。

どか雪も2度経験し、メンタルが強くなった気がする。なんかねー、あれ、怖いわ。ホントもうヤメてって泣き叫びたくなるぐらい降り続いて怖かった。このまま止まないんじゃないかと思えて。一人だったら耐えられないかもしれない。だって屋根まで雪が積もるってありなの? 溶けても洪水になるんじゃ。怖いので家の周りの雪を収納ポケットに入れまくり、ダンジョンに破棄した。ダンジョンに入れておくと、雪の山は1日するとなくなっていた。

領地も心配だが、毎年のことなので、何かしら対策があるのだろう。それにしても怖い。

3度目のどか雪が終わり、お日様も顔を出す時間が長くなってきた。

父さまが子供たちを呼んで尋ねた。

「十分時間はとった。お前たちの考えた答えを聞かせてくれ。なぜ、生活用品を無料で配ったり、安くしたりしないのかを」

アラ兄が呼ばれる。次にロビ兄、そして兄さまが呼ばれた。

「兄さまたちの答えは聞いた。リディアの答えを聞かせてくれ」

わたしはみんなの前で答えるようだ。

「生活用品、生きて行くのに必要なもの。なくすことできない。その価格下がったり、お金がかからないと、領主替わったり何かあって価格が上がったときに生活、大変なるから」

父さまが頭を撫でてくれた。

「みんな、ほぼ回答は一緒だった。父さまも同じ考えだ。人は生きていくのにお金がかかる。これはずっと変わらない。その価格率が下がるのが一番過ごしやすくなるが、それが上がった時にとても苦しむことになる。父さまが領主の間は、領主が変わったり、災害やよくないことがあって収入が途絶えたとしても、最低限の暮らしはできるそういう支え方をしていきたいと思っているんだ」

ここ何年かはレアワームなどにより、領地の生活水準が落ちまくっていた。だから最低限の暮らしはできるよう、飢えと寒さはしのげるように手助けしたが、と温石や魔石、薪や保存食を足していたことを懺悔するように言った。

「おれには、領地のことを考えるって、やっぱり難しいな」

ロビ兄が口を尖らせている。

「よく、いろんなこと考えついてるじゃん」

アラ兄が真面目に返した。

「そりゃ仲良くなったみんなとか、町や村の人たちに良く暮らしてほしいけどさ、だからって何をすればいいとか、おれ頭悪いし考えつかないよ」

「そんなことないさ。ロビンの考えはいつも真髄をつく」

「しんずいって何?」

「見事に言い当ててるってこと」

「いや、おれは思いつかないから、みんなが考えることを、手伝うよ」

ロビ兄はにかっと笑った。その笑顔を見て、心が和む。

わたしも領地を発展させていきたいし、そう宣言しているけれど、実のところどうすればいいのか、わからないことだらけだ。思いつくことだって、たいしてあるわけではない。ロビ兄と同じで、みんなに良い暮らしをしてほしいって気持ちだけはあるんだけどね。

「前世で〝風が吹けば桶屋が儲かる〟言葉あった」

「風が?桶屋??」

まさしく意味がわからないんだろう。首を傾げられて、わたしは頷く。

「全然、無関係と思うところに影響出る、例え」

なんだったかな? 風が吹いてから桶屋までの経緯を思い出そうとする。

「風吹いて、砂埃なる。砂埃が目に入って、目が見えない人が増える」

で、何だっけ? 三味線! え?何で三味線?

「……なんか三味線が出てきて。三味線がいっぱい必要になって。三味線作るのに猫の皮が必要になって。猫が減るからネズミが増えて。ネズミ桶をかじるから、桶屋がもうかって喜ぶの」

そうそう、そんな流れだった。この世界ではつながりがわからないものばかりだろう。わたしも三味線がなんで出てきたのか思い出せない。

「よくわからないんだけど」

だよね……。

「とにかく、回り回って、とんでもないところで、いいことになったりするの」

「いいことに?」

「わたし、真理と思ってる。楽しい、嬉しいことする。誰かが見て、楽しい思う。楽しい思うと気分良くなる。気分が良くて、誰かに優しくなれたりする。その優しさに助けられる人、きっといる」

わたしは本当にそう思うんだ。誰かさんの優しさに力をもらうときがある。全く知らない人のしたことにパワーをもらったり、和ませてもらったり、癒してもらったり、微笑えるようになったりする。

独りよがりの楽しい、嬉しいも、それが誰かを楽しませたり、嬉しくなったりさせて。そんなたわいもない楽しさや喜びが、どこかの誰かに繋がって、回り回って〝幸せ〟が増えていると思うのだ。何気ない〝楽しい〟なのに世界の〝幸せ度〟を上げることに貢献していると思うのだ。

「ロビ兄のしたこと、いつかどこかで、誰かに届く」

誰かのしたことは、いつかどこかで、誰かに届く。いい方にも、悪い方にも。

それにさ、高望みしても、自分にできることって、悲しいかな、自分で思いつくことだけなんだよ。

だから、自分が〝いい〟と思うことをするのが理にもかなっているし、結局それしかできないと思うのだ。

「誰かに届く?」

「ロビ兄も、アラ兄も、兄さまも。わたしのしたことも」

「いつかどこかで?」

「誰かに?」

わたしは頷く。

「だから、自分思う、いいこと、普通、すればいい、思う」

特別なことは、特別を思いつく人がすればいい。

凡人のわたしは、その時にいいと思えることを、するしかない。

でも、きっとそれだって、まわりまわって誰かに届くと思うのだ。

きっと誰かに届くと、そう祈りたいと思うのだ。

<3章 弱さと強さと冬ごもり・完>