作品タイトル不明
第1338話 創ったものと創られたもの⑤夫婦の儀
悠は森を見て回るとのことで、わたしたちは仮眠を取るために先に集落に戻ってきた。皆からよくやったと頭を撫でてもらった。
「絶望するのは後にしろ、は、なかなか言えないよ」
「俺でも言えねーな」
とブライが言ったので、みんなでウケてる。
眠って起きたらわたしたちは見届けることになる。
集落の人々に自我がある状態なのかどうかはわからないけど、悠にとって自分で終わらせることはキツイことに違いない。たとえ自我がなく幻影だとしても、触れ合ってしまった者にとっても辛いことだ。
けれど、終わらせないとそれは〝続き〟だ。なーなーにしていては次の一歩は永遠に踏み出せない。
辛いだろうけど、キツいことだけど、届けと思う。
使い魔もわたしたちも一緒に分かち合うために、ここにいることを。
悠の同族である精霊たちはもとより、悠に寄り添おうとしていたことを。
そんなことを願いながら、テントの中でもふさまともふもふ軍団に埋もれて眠った。
集落の朝は早い。日の出とともに起き出して〝日常〟が始まる。
日がある時は眠るはずのジョギさまが、今日はいて、人々が嬉しそうにはしゃいでる。
各家から煙が上がる。まるで朝食の用意をしているかのように。
けれど、匂いはしてこない。ジョギさまをひとりにしないように時間をずらして、各家に戻っている。
仕事が始まれば、ジョギさまはそれらを見守り、子供たちとも遊んだ。
みんなジョギさまと一緒にいられることを心から喜び、普段の生活の安寧を全部ジョギさまのおかげなんだと絶えず感謝した。
一番最初に瘴気の森に住み着いた強者のグレナン民。ジョギさまに本当に感謝していたんだろう。その〝幻影〟なのだろうけど、本物の民たちは悠の瘴気が少し溜まり噴出した時に息絶えてしまった。それを知った時の心情を思うと、わたしは悠にとても残酷なことをしていると思う。
そんな心の動きがわかったのか、兄さまがわたしを後ろからぎゅっとした。わたしはその腕をつかむ。わたしは大丈夫だと。
「あーーー、お姉ちゃんたち、夫婦になるの?」
ニヤニヤした子供がわたしに尋ねる。
「大人になってからだけどね」
わたしは答えた。
「なぁんだ。結婚式見たいのに」
「結婚式?」
「きれいな毛皮着て、お花持って、ジョギさまに祈るんでしょ?
ふたりにお酒を撒くんでしょ?」
「なんて言ってるの?」
兄さまに聞かれて、わたしは通訳した。
兄さまに手を引かれる。
「じゃあ、しようか、結婚式」
ええっ?
「ちょっと、兄さま」
「嫌?」
「嫌じゃないけど」
「じゃ、しよう、結婚式」
子供たちがこちらを見上げて、興味深々。
見たい……か。
「では、これから結婚式するね。みんな祝福してくれる?」
子供たちは目を輝かせる。そして両手をあげて「結婚式、結婚式!」と騒いだ。
「支度しよう」
ノエルがテントへと手を向ける。
「え、ちょっと」
テントに入ると、ノエルはわたしにいくつかドレスを出すように言った。
ごっこ、なのに?と首をかしげると、早く早くとせきたてる。
イメージで真っ白のドレスをいくつか出した。
ノエルはドレスを持って、わたしの前でドレスをあてる。しばらく迷った末、これに着替えてと渡された。どうせならと着替えから軽くお化粧をしていくと、苦労しながら髪を結ってくれた。
「姉さま、きれいだよ」
「ありがとう」
即席の嘘っこ結婚式だけど、ドキドキするのはなんでだろう?
テントを出ると、ロサが花束を渡してくれる。
「リディア嬢、きれいだ」
「ありがとう」
みんなも、もふもふたちもいっぱい褒めてくれた。
ふふ、白いドレスを着ているだけなんだけど。
あ、兄さまも着替えさせられていた。白っぽい服を着てる。
わたしに合わせてくれたんだね。
兄さまが跪く。わたしが手を出すと、その指先にキスをした。
「わーーーーー」と子供たちが歓声を上げる。
兄さまはその手を離さずに、立ち上がり、自分の腕にわたしの手を絡ませる。
わたしたちは人々が両脇に並ぶ道を歩いた。
おめでとうとか、お幸せにと口々に言われて、なんだか込み上げてくるものがある。
ご神木にはジョギさまが止まっていた。
ご神木の前でわたしたちは止まる。
「ジョギさま、この者たちがこれから夫婦になります。
どうか末永い祝福を」
繋ぎの人がジョギさまにそう告げる。
『うむ。
これから共に生きる者へ。うぬらには試練が数々訪れる。だが手を携えば何事も乗り越えられよう。我は願う。悠かなる時の向こうに聞こえてきた奇跡の調べのうぬらが、優しさと希望でいつも溢れんばかりとなることを』
なんで涙が出るんだろう?
悠の優しい思いに触れたからかな?
兄さまがわたしの涙に気づく。不安そうな顔をしている。
「口づけしないの?」
「これ!」
言い出した子供は怒られたけど、他の子供たちから「口づけ」コールが始まる。
兄さまはわたしの目尻を拭う。まだ不安そう。
わたしは一歩踏み出した。わたしも大胆になったもんだ。
人前でのハグだって恥ずかしいのに。
でも不安そうなフランツが、可愛く見えてしまった。いくつも年上なのに。
花を持った手と手でフランツの頬を覆おう。
背伸びをしてフランツに口づけした。
ご神木の周りが湧いた。囃し立て、祝福してくれて、お酒がかかった。
目を開ければびっくりまなこのフランツ。
わたしはイタズラをした時のように笑った。
フランツは驚いた顔から、少し笑って、わたしの腰に腕を回しぐっと引き寄せる。
あっと思うと、力強くキスされていた。
長く、長く、長く、長く、長ーーーーーい!
胸を押し返して、やっと離れれば、フランツはイタズラっぽく笑う。
周りを見れば、みんな 見(・) な(・) い(・) よ(・) う(・) に(・) 見ていた。
わたしは目の端で、ノエルが何かをしまったのを見た。
ちょっと待った。
ズンズンとノエルのところまで歩く。
「ノエル、出して?」
「え? 何を?」
そらっとぼけたわね。そんな子じゃなかったのに。
「今、撮ってたでしょう?」
「うん、バッチリ」
「バッチリじゃない、ダメ。貸して」
「貸してってなんで?」
「消すに決まってるでしょ」
「なんで? エリンに見せなきゃ。父さまと母さまにも」
や、やめて。身内に見られるのは恥ずかしすぎる!
「ノエル、出して」
「えー、やだよ」
わたしたちは束の間、哀しい未来を忘れて、みんなで笑いあった。