作品タイトル不明
第1296話 アダム不在❶発端
ロサに一旦切り上げて家に戻ることを伝えると、もし可能なら今夜秘密基地で会えないかと打診がきた。わたしたちは了承して、家に戻ってから時間を合わせて秘密基地へと行った。
秘密基地には、ロサ、ブライ、ダニエル、ルシオが揃っていて、わたしと兄さま、それからもふさまともふもふ軍団とで顔を合わせた。
アダムの不在はロサがアダムに伝達魔法を送ったんだけど、それが届かなかったことが発端だった。アダムは仕事中、手紙の受け取りを拒否することがあるので、今回もそれと同じだと思っていた。何日かしてからまた送ってみたけれど、届かない。長期で連絡が取れなくなる時は事前に連絡がくるのが基本だったので、何かあったのではと心配になった。それで兄さまやみんなに聞き、それからアダムが滞在したことがある場所へ聞いてまわった。けれど収穫はなかった。
話をまとめると、どうやらウチに遊びに来た後から姿が見えなくなっている。
「様子は普通だった? 次の仕事のことで何か聞いてないか?」
「別に普通だったよね?」
ロサに尋ねられ、わたしは兄さまに確める。
「……でもウチにも寄ったってことが、考えてみると異例なことだったかも」
と兄さまは顎を押さえてる。
「……今までは夕飯誘っても帰ってたね、確かに」
あれがそもそも異変だったの?
「変わった様子は?」
「いつも通りだった。ダンジョン攻略をした後、ウチに寄って、お風呂に入って、食事して、みんなでゲームをして」
「ダンジョンでは? ダンジョンで何を話した?」
ロサが切羽詰まった顔で。それがわたしを焦らせる。
ええと、あの日のアダム……。
「あ」
「何?」
わたしあのとき不安な気持ちがよぎったのに。なんでころっと忘れてたんだろう。
「……わたしはもうすぐ学園に通えるようになるって」
「どういうこと?」
みんなが前のめりになる。
「ア、アダムは世論はどんどん更新されていくから、わたしばかりに興味は持っていないって言ったの。わたしアダムが情報を〝更新〟する気なんじゃないかと思って、何かする気じゃないよね?って聞いた」
聞いたのまでは覚えてるんだけど。あれ、そのあとって。えーと、えっと。
「聞いたらなんだって?」
イザークに促される。
「えっと、そうだ。学園のみんなによろしくって。それでほっぺ引っ張られてうやむやに」
あれ、その後になんか言われたような。
アダムにしてはえらく感傷的だなって……。
ダンジョンでは普通に魔物狩ってたよね。あ!
「そういえば、珍しく魔物狩るのに失敗して尻餅ついてた!」
『あれはリーが急に剣を出したから、軌道を避けて重心がおかしくなったんだよ』
アリに言われて驚く。
「そ、そうだったの? 苦戦しているように見えたから助けたつもりだったんだけど」
『あの日はリーにいっぱい邪魔された』
え。
『仕方ないですよ。魔力が少ないと、動きを読むのも難しいでしょうからね』
ベアからフォローが入る。
『リディアは少し力がついてきたからな。剣での攻撃も効くようになってきたな』
もふさまに褒められた!
わたしともふさまともふもふ軍団以外が、顔を見合わせている。
「精霊のことは聞いたけど、それ以外に変なことは起こってない?」
ダニエルに水を向けられる。
「特に……あ、全部の家に神聖国の末裔だとかいうのが来た」
兄さまも目を大きくする。
「あ、あったね。よく変な人が来るから重要視してなかったけど」
「全部の家に?」
「そう。領地の外れの家、町の家、王都の家、わたしの別荘まで」
「別荘まで?」
兄さまがそこで驚く。
あれ、言ってなかったっけ??
「なんて言ってきたの?」
ルシオが目を細めてる。
「父さまとわたしに会いたいって。約束がないから取り告げないって執事たちが断ったら、しばらく町の宿にいるから気が変わったら声をかけてって」
「神聖国の末裔って言ったんだね?」
ダニエルに確められて、わたしは記憶を探る。
「神聖国の末裔、ビクコーンって言ってた。みんな15時に時間を合わせたことが気持ち悪かった。少し離れたところで馬車を降りて。みんな時間を気にして。15時になったところで歩いて呼び鈴を鳴らしたの」
わたしはその奇妙さを伝えなくてはと言ったんだけど、みんな表情は変わらない。
「アンドレさまのお導きの元、リディアお嬢さまを救いに来たとか言って。
執事よりも町の家のハンナが一番強かった! どちらのアンドレさまだか存じませんが、主人からの許しがない者を通すわけにはいきませんのでってピシャッとドアを閉めたの。かっこよかったわ!」
「……私はハンナでは無理そうだったら手助けしようと思って中にいたから、聞こえてなくて。ハンナは父さまとリディーに会いたいって言ってきたけど、約束がないなら取り次げないと言ったから、それだけだと思ってた。
奴らはそんなことを言っていたの? アンドレさまのお導きの元って?」
兄さまに肩を持って揺すられる。
「え? うん。な、何? 兄さまたちが無反応だったから、気にすることじゃないと思ったんだけど。……だってアンドレさまがアンドレ殿下のわけないわ。殿下は亡くなったんですもの」
そうでしょ?
「……ああ、そうだね。リディーはあのとき全部の家を見ていたんだね、モニターで。私たちはドアの反対側にいただけだったんだ」
そっか、それで何事もなく帰ったから。そのあとわーわー、怖い何あれって騒ぎはしたけど、みんな同じことがあったと思っていたから。
神聖国の末裔がまた出てきたのなら、奴らに気をつけなくちゃとは思ったけど……。
「アダムがいなくなったことと関係がないといいけどな」
ブライがボソッと言って。わたしはその可能性をあえて考えないようにしていたことに思い当たった。