作品タイトル不明
第1267話 歪みゆく世界⓮世界の痛み
わたしの喉がごくんと鳴る。
ーーお前の魔力は今後ますます自身を傷つけていくだろう
嫌いな我をも癒したように
兄さまの眉が動く。
「どういうことですか?」
兄さまが鋭い声を上げた。
ーー現創造主を超える魔力は、世界の痛みも癒そうとするだろう
「リディア、嬢?」
アダムが真顔だ。こわっ。
とわたしの腕を掴む。
痛っ。
顔を顰めた瞬間、わたしの手を持ったアダムの手首を兄さまがつかむ。
アダムがわたしから手を離した。
「ごめん。けど。リディア嬢、僕に嘘をついた?」
嘘なんかついてないと、嘘をつこうとして失敗した。
アダムがわたしの両肩をつかむ。
「なんて? 司祭さまはなんておっしゃったんだ?」
アダムの様子からただならぬものを感じたようだ。
「アダム、説明してくれ、何があった?」
アダムは下を向いたわたしの肩から手を離した。
「前から思ってたんだ。リディア嬢は無意識に光魔法を使っているのではないかって」
「無意識に?」
おうむ返しした兄さまにアダムはうなずく。
「ブレドが瘴気を盛られたとき、リディア嬢が自分に呪詛を移して回避した。あの教師の時もそうだ。リディア嬢が攻撃されたわけじゃないのに、リディア嬢は誰かの痛みを引き受けている。それで自分で浄化している、そう思えた。リディア嬢が体が丈夫じゃないのも、体力がないのもそれが原因に思えた。
それで司祭に診てもらわないかって勧めたんだ。穢れがあれば司祭以上ならわかるはずだから。
リディア嬢も診てもらう気になったし、ちょうどフォルガードへ向かうし、少しそれるけれど近くに司祭のいるフォルガードの第三神殿があった。ブレドに頼んで、司祭さまに診てもらえるよう取り計らってもらった。
リディア嬢はひとりで診てもらって、浄化に失敗したのかよくないものが身体にあるって。でも聖水や光魔法の浄化で問題ないって言った。
けれど、思い返してみると、あの時リディア嬢から結果を聞いただけで、司祭さまから聞いたわけではない」
「リディー」
兄さまから優しく名前を呼ばれた。
見上げると、眉がハの字だった。口元は微笑んでいるし、優しい眼差しだけど、どこか悲しげだった。
「アダムにも嘘をついて、誰にも言えず自分の中にしまいこんで辛かったね?
その痛み、私にも分けてくれないかな」
そんなふうに言われたら……兄さまの胸に飛び込んでた。胸に顔をつけてアダムに謝る。
とても顔を見られなかったから。
「アダム、ごめんなさい。嘘ついた」
「……それはいい。だから、教えて」
兄さまが頭を撫でてくれてる。
「光の使い手には多いって。無意識に浄化を引き受けていることが」
息をのむ音が微かに聞こえた。
「その対象は人がほとんどだけど、まれに大地や木や川など自然に繋がる人もいる。そのタイプかもしれないって。わたしは常に何かしらの痛みを自分で引き受けて浄化してきた。その穢れが散り積もって身体のあちこちに溜まっているって」
「それはどうしたら止められるの?」
ーー魔力を封印するしかないだろうな
ルシオの問いかけに、真っ当な答えをする蝙蝠。
「魔力を……封印……」
アダムが薄く言って、兄さまはわたしの肩に手を置く。
見上げれば、悲しそうに微笑んでいる。
「魔力を封印しないと……命にかかわるんだね?」
わたしは慌てて言った。
「あと2年くらいは大丈夫だろうって。だって魔力が通って9年間もそうしてきたんだもん。だからあと2年ぐらいなら、そう変わりはないはず」
イザークもルシオも、アダムも、言葉なく突っ立っている。
ドラゴンちゃんたちも心なし心配しているように見える。
「後から言おうと思ってた。
終焉のあとで魔力は封印することになると思う」
ーー今すぐ、封印しろ
わたしは蝙蝠を振り返る。
なんだってあんたが口を挟む!
ーー我はお前の魔力に迷惑をこうむっておる
お前の魔力が流れてこなければ、我は封印されて起き出すこともない
けれど、また意識が浮上することがあったら、我は同じことを続ける
リディア・シュタインを憎むよう、波動を使って呼びかける
なんて迷惑なの!?
「ちょっとは心を入れ替えなさいよ!」
ーー無理だ
再び意識が潜り、また浮上した時は、細かいことは覚えていまい
我はリディア・シュタインを憎み、悪意を振り撒くぞ
創造主より強い封印をできるものならしてみろ
本体を攻撃でもなんでもいいぞ
けれど、創造主の封印を破れるものはいまい
我は封印されているゆえに、傷つけられることはない
また目覚めることがあれば悪意をばら撒く
それが嫌なら、魔力を封印してしまえ
もふさまのリュックがうごめく。中から小さなぬいぐるみのようなもふもふ軍団が転がるように出てきた。みんなわたしの前に駆け寄ってきた。
『穢れが溜まるとどうなるんだ?』
レオに尋ねられる。
「光魔法とか聖水や聖酒で浄化することはできるみたい」
『それなら問題はありませんよねぇ? それでも封印しなくてはいない理由があるのでは?』
ベアに詰め寄られる。
『フランツの言うように、命にかかわるんですね?』
ベアがそういうと、アリとクイがベアとわたしを見比べている。
「無意識にこれからも浄化を引き受けてしまうだろうことがよくないみたい。
わたしは魔力が多いからか、浄化できる受け口が広くて、それでもらってしまうのね」
『リーが身体をすぐ悪くするのは、それがあったから?』
「アリ……それもあったかもしれない」
『リーが疲れやすいのはそれが問題?』
「クイ、うん、そうかもしれない。でも確かにわかることではなさそう」
どこからどこまでがとは見えないものである以上、分かり得ないもんね。
「それは光の使い手みんなでちか? それともリディアだけなんでちか?」
アオがわたしをまっすぐに見上げていた。