作品タイトル不明
第1259話 歪みゆく世界❻絆
ーー世界にする気はなかった
ポツンと呟く。
ん?
ーー因果律を組み立てる練習だから、自分の好きなものにした
褒められて、始まりと終わりがあるから、〝世界〟にもなり得ると言われて気持ちが高揚した
アンドレさまが憂いなく生きられる世界が我の手によって作れると思ったら……命の粉の在処は見てしまったことがあった
どうしてもアンドレさまが幸せに笑うところを見たくなってしまって、気がついたら箱庭に命の粉を振りかけていた
白キュアは自分の胸の前に出した両手のひらを見ていた。
ーー命の粉を振りかけても、まだ見習いの神力では命が芽吹くはずもなかった
けれどいくつもの幸運……いやいくつもの不運が重なり世界に命が吹き込まれた
歓喜した
歓喜してしまった
同時に、大変なことをしてしまったと嘆いた
けれど世界が動き出すと、我はアンドレさまを見守りたいと思ってしまった
アンドレさまが笑っていられる幸せの中にいるアンドレさまを見たいと思ってしまった
神々の力をもってしてもどうにもできないところまで、世界は育ってしまった
罰が下されると知った時も、アンドレさまが幸せならそれでいいと思えた
だから封印されるのも、神に永遠になれないことも、なんとも思わなかった
アンドレさまが幸せの世界にいるのだから……
白キュアが視線を手からわたしに移す。
ーー師匠の温情だろう
我の創りし箱庭に封印されたようだ
そう、我は封印されていた……はずだった
この聖地にリディア・シュタインの魔力が届き、時々目覚めるようになるまでは
ギロっと睨まれる。
アダムがわたしの前に出る。
……わたしの祝印が聖地にまで届き、目覚めさせてしまったってこと?
ーー最初は意味がわからないながらも、幸運だと思った
聖女の気が感じられたから
それも〝アイリス〟、主人公だ
この世界の始まりに導くための主人公
アンドレさまを愛し愛される娘
ふたりが幸せになれるところをこの目で見られる
感じられる!
なんて素晴らしいと思っていた……のに
次に目を覚ました時、歪みが魔力の暴走を起こしていなかった……
歪みを起こさせる要因を、歪みが自分で解除していた……
これは歪みの特性ではない、主人公クラスの力を手に入れていた……
主人公に受け渡す力を持つだけのはずが、主人公に成り代わる力を持つ存在になっていた
…………。
…………………………………………。
……………………………………………………って言われても……。
「わたしは世界の主人公になるつもりなんかない」
ーー口ではどうとでも言える
「世界だとか箱庭だとか関係ない。
わたしはここに存在して、ここで生きていくとわたしが決めた。
わたしは何かの主人公にならなくても元々自分の物語の主人公なの!」
アダムがわたしを振り返る。そしてニッと笑った。
わたしの手をすっと握って、わたしたちは手を繋いだ。
「たとえ創造主だとしても、その命の粉を振りかけた時点で、この世界は手から離れている。世界は命を育み実際に時を編み続けた結果が現在。
リディア嬢は懸命に生き、家族を大切にした。母君を助け、魔力の暴走は起こさなかった。
アイリス嬢だってリディア嬢といい関係だ。少し変わったところはあるけど、あの娘は何かを犠牲にして世界を助けるぐらいなら世界を壊すと言いそうだよ」
わたしは状況も忘れて吹き出した。
言いそうだ。
っていうか、本来のシナリオが……とか言った時点で、「やめて、話を複雑にしないで、わからないから。頭のいい人が訳して。あたしは何をするのがいいの?」とか言いそう。そしてたとえ秤にかけるのが世界の存続だとしても。頭のいい人が訳した結果、世界を守るべきですと言われても。それがアイリス嬢の正義と噛み合わなければ、彼女は気持ちを曲げない。それは気に入らない。「あったまきた!」って言って雷を素手で掴んで振り回す。
聖女になってからおしとやかにしているけど、彼女の闘い方を見るとみんな驚くもんね。実に正統派で、物理攻撃で正面からいくんだよ。だって神力の雷でさえ手で持ってそれを武器にしていた子だよ。見かけからはちょっと思いつかない野太い声を出して正義の鉄拳を振るうんだ。もちろん魔法も使うけどね。
うん、アイリス嬢は、わたしの力が必要になったとしても、それによってわたしが命を落とすと知ったら絶対に他の道を探すよ。断言できる。
ああ、わたしたちは本当にいろんなことを経験してきた。出来事もだけど、その過程でどんだけ?というぐらいの人たちとかかわり、……いつの間にか絆ができていた。一緒にどんな難関も乗り越えられる絆が。
ーーそんなことがあるわけない
めでたい考えだが、我の因果律でそうは絶対ならない
瘴気がばら撒かれ世界が終わる
自分にも死が訪れる。それに争わないものなどいるわけない
「いや、世界の終焉になんてならない」
ーーアンドレさままで何をおっしゃるのか
「だからアンドレではないよ。僕はアダム。
僕は〝アダム〟になったんだ」
アダムはわたしの手を強く握った。