軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1258話 歪みゆく世界❺因果律

因果律って結果は原因ありきってことよね?

ーー箱庭作りの因果律は、より緻密なものになる

何せ箱庭とは命を吹き込めば〝世界〟になるもの

いつか生命を育むための練習だったから

それまでで一番心浮き立つ課題だった

白キュアは思い出したように口元を綻ばせる。

ーーゲームではアイリスが学園の門に立つところから始まる

アイリスは孤児で、男爵家に養女になった子で、性格は天真爛漫

思ったことをすぐ口にしてしまう子で、明るく朗らか

勉強はちょっと苦手だけれど、向上心はあり、やればできる子……

ゲームではそういう設定とすればいい部分が箱庭作りではそうはいかない

ゲームの始まるその時間軸を0.0としたら、何千年も前から世界が始まり、0.0の地点で、学園がそこにあること、学園に通いアイリスと会うもの、校舎を作る作業をした者、花壇の花に至るまで全ての因果律が必要になる

人においてはもっと複雑だ

アイリスの性格の一つ一つがそう積み重なっていくように全てその地点で合流しその絵が描かれるよう、因果律を積み上げなければならない

世界を作る神と聖なる物から始まり、一つ一つ因果律を積み上げた

アンドレさまを作り上げるのもまた大変だった

因果律ではことが起これば結果を伴う

〝主人公〟は起こる出来事の振り幅が大きい

そうなると歪みが発生する。因果律が組み合わない事象がな

その辻褄を合わせるのに必要になってくるのがリディア・シュタインのような名前だけある〝モブ〟だ

言われて理解する。

「わたしが主人公のアイリス、そしてアンドレ殿下の辻褄合わせを担うのがアダムなわけね」

わたしは嫌みったらしく言ったつもりだけど、白キュアは理解されたことが嬉しいように笑った。

ーーそうだ。他のものの歪みは、自分自身で辻褄を合わせやがてなくなるようなものだが、役割の大きなふたりはどうしても歪みが大きくなる

白キュアは下を向いた。

ーー何度も因果律のチューニングをしたが……

計算上でもアイリスの完全浄化をする能力が整うことはなかった

何かしら足りなくて、それを歪みから移行することになった

どんなに調整しても整わなかった

アンドレ殿下もアイリスと幸せに暮らしてほしいのに、歪みがいないとアイリスと出会うまで生きていられず、歪みが消滅しなければ長くアンドレ殿下が生きることはなかった

白キュアは少し悔しそうだった。

ーー辻褄合わせが起きてもおかしいと思われない境遇、性格、そう因果律を積み上げるのはアンドレさまたちよりもっと難しかったのだ。でも、辻褄合わせという歪みがないと世界は破滅に向かうだけだった

認めたくないが歪みは不憫であった

だから不憫さをかき消す特典を因果律の許す限りつけた

ーーそれまでの課題では特別良い評価をつけられたことはないが、箱庭ではとても褒められた

特にアンドレさまとアイリス核に行き着くまで。突発的に因果律が歪むことがあっても修正されていく歪みの因果律を組み込んだことが評価された

神と 聖(ひじり) のふたつを立てることで、どちらかが発展しすぎることも防げたし歪みを小さくする役目もあった。そこに気づいたことで多く加点された

歪みを修正する存在を組み込み、特典をつけたことでも公平さを受け止められた

アイリスの浄化により、世界は初めて創造主の手から離れる

世界の中の者が、自分たちの世界を自分たちの手にした瞬間

我の箱庭は最初から最後までが存在する箱庭と評価された

聞いて思い描いたものがあっているかはわからないけれど、なんとなく言っていることは理解できているのではないかと思う。

アイリスとアンドレの恋の成就、そして世界を瘴気から救う浄化。これを目的として何千年、いや神話の時代から作り込まれた。

アイリスをアイリスたらしめんとする状況にするために、神話から構築されてたんだ。

世界は神と聖が作り上げる。

女神の過ちから地上のものでは消し去れない瘴気が生まれ、罰として唯一の女神になり、女神は瘴気を減らす者に力を与える存在となる。

生まれる魔物に、瘴気を体内に持ち死と一緒に瘴気を消し去る存在の魔物に、女神は祝福を送る。魔物が増え、魔物を倒す者も増えていく。瘴気のバランスが崩れそうになると女神はピンクの髪の聖女を送り出す。

アイリスの髪の色はピンクだから。アイリスは聖女となる子だから。

そんなふうにアイリスの誕生を無理なくするために、どれだけの因果律が積み上げられていったのだろう?

緻密に練りあげたものでも想定外のことは起こるもの。それを見習い神は辻褄合わせ要因を挟み込むことで、ヒーローとヒロインには害がいかないようにした。辻褄合わせがなければ、主人公たちでさえも変わってしまうから。同じ事象には行きつかず、思い描く結果にはならないから。

アイリスが瘴気を完全に浄化する、それには歪みのわたしの能力が必要になる。

アンドレ殿下にしても、その体の弱さのカバーにはアダムが必要で……アンドレ殿下が生き残るにはアダムの死が必須だった。

アイリスの完全浄化をもって箱庭は〝できあがった〟状態となるのだろう。

世界の中の者が創造主の出した難問を解決して初めて世界はできあがる。

そこからは創造主も知らない歴史を刻むことになる……。

それが箱庭に最初と終わりがあるということ。そこからは創造主の意思は働かないということ……。

何度もチューニングをしたということは、最初からアイリス一人で浄化できる能力も何もかも手にできるよう試してみたのだろう。でもなぜだかどうしても足りないところが出てくる。シナリオのアイリスは魔力と聖なる浄化の力がなかった。

聖女になると決まっていることは神力は使えるから、その他のものを満たすのが歪みの役目。わたしの存在なのだろう。そのために魔力は高くないといけないから不思議なほど上級貴族の血をひき、聖なる力を使えないとだから瘴気をほぼ持って生まれなかった。

聖女アイリスが完全浄化をする時、足りない力を受け渡す存在。受け渡すような存在。自分をアイリスに置き換えた見習い神でも、不憫と感じるぐらい不憫。

だから彼女は特典をつけることにしたんだろう。

その特典が前世を思い出したこと? もふさまと出会えて話せたこと? もふもふ軍団たちと会えたこと? わたしの魔力が多いから、転んだ時に祝印して領地に魔力が染み渡った。結果、前の家の持ち主である魔使いさんが作り上げた家が、仮想補佐が生き返り数々の恩恵を受けた。

いっぱい持ってる神の祝福なんかも特典なのかもしれない。

全ての属性があるのも、スキルをいっぱい持っているのも、そう。

歪みの特典。

ありがたくはある。……享受してきた。

それに救われたことがどれだけあっただろう。

だから間違いなくありがたい。

でも、それがわたしの力を受け渡すため、詰まるところ命を落とすわけで。生命の値段のような気もして、受け渡す代償となるわけで。命と同じ重さとされたものであるわけで……素直にありがとーとは思いづらかった。