軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1249話 シナリオ❾半壊

聖女がその力を得るのは、その力が必要になるからだ。

この不文律はわたしの世界と同様。

だからアイリスは聖女としての鍛錬を怠らなかった。

病弱ではあるけれど、心優しい第一王子。

それに寄り添う聖女。

利発で攻めるところは攻め、情もある第二王子。

実家の力も申し分なく、外交もそつなくこなせる婚約者。

ユオブリアは安泰に見えた。

王位は第一王子か第二王子が継ぐと思われていた。

第一王子は体は弱いけれど、並外れた頭脳を持つと言われていたし、聖女と仲が良いからすぐに子供が生まれ、その子に王位を受け渡すまで繋ぐのではないかと勝手な皮算用なんかもされていた。

第三王子、第四王子、それからふたりの王女さまもいらしたけれど、奇抜な何かが起こることはなく、国のために尽くしていた。

穏やかに日々は過ぎたけれど、それは嵐の前の静けさだった。

アイリスとアンドレ殿下の結婚式その当日に、反旗は翻された。

真っ白のドレスに包まれて、そのベールをあげふたりが見つめあった時、警鐘が鳴り響く。その不吉な音に皆の動きが止まる。

警鐘が鳴り響いたら王族はすぐに動かなくてはならない。

どんな時も例外はない。

皆が席を立ち、有事の際に備える。

殿下はベールを戻し、けれどお互いの指にはめあった指輪を撫でる。

「もう私たちは夫婦だ。誓いのくちづけは後の楽しみにしよう」

「……はい」

アイリスも精一杯微笑んだ。

アイリスも聖女として備えなければならない。

真っ白の今度は動きやすい服に着替えて会議室に赴くと、情報が集まってきていた。

武装したアンドレ殿下の姿があったけれど、それはバトンタッチしたアダムだ。

アダムはアイリスに気づくと近寄ってきて愛おしそうに肩を抱く。アイリスはアダムからそんな扱いを受けたのは初めてなので驚いていた。

「何があった?」

陛下は報告を促す。

鎧を纏った騎士がやってきてひざまずく。そして数々の被害を報告した。

国を守る4つの辺境が外国から攻撃を受け、いくつかの街でも国内の勢力にて制圧されていた。

簡易地図へと制圧された街にばつ印をつけていた宰相が気づく。

「これは……封印を解こうとしています」

「な、なんだと?」

陛下が大声を出した。

その場に集まっているのはみんな、人をまとめるような上の人たちだと思うけど、その封印という言葉で理解できたのは少数のようだ。

胸がどくどくと波打つ。

あの恐怖が蘇る。

主要貴族が謀反を企んでいた時のことを。

わたしのいた世界ではもっと早い段階で国内の勢力を怪しむことができた。

それだって最初から謀反だと嗅ぎつけていたわけではない。

ウチが槍玉に上がって、兄さまを罪人に仕立てようとしたり、わたしに呪術をかけたりしてきたから、それを回避しようとして色々やってたら、謀反騒動まで掘り出されてきちゃったのよね。

その裏の仕掛け人はアンドレ殿下だった。

外国……バッカスが蔓延っていたのを前もって気づけたのも、玉にスキルを込めさせている子供たちに会ったからだ。あれはヴェルナーからの攻撃で……。

確かにいろんなことがあったけど、それをなんとかしてく過程で放っておいたらいずれとんでもないことになりそうなことを、前もって気づいたという恩恵もあったかもしれない。

こちらの世界では、アイリスが愛され、導かれてのぼりつめていく優しい世界だったから、水面下の動きを察知することなく、今国内のことと国外のことが一気に流れ込んできたのかもしれない。

でも救いと言ったら不敬かもしれないけど、あちらで黒幕というか、企んでいたのがアンドレ殿下だったけど、こちらではそれは決してあり得ない。

……あれ。

でも寝返っている人がいないなら、なぜユオブリアの最大の極秘事項ともいえる瘴気を封印している地形魔法陣の場所を知っているんだろう?

それから怒涛の日々が過ぎていった。

まだ制圧されていない地形封印の街に騎士たちが派遣された。

次は国内各地に。けれど、焼け石に水だった。

地形の封印は破壊され、陛下がユオブリアに眠る瘴気を抑えるのに籠ることになった。

辺境の近くの街に住むものは辺境へ加勢に行った。

魔法師が戦いに駆り出されるようになると、物流がぴたりと止まる。

情報が行き届かないまま、制圧される地が増え続け、合流して王都へと迫ってくる。

第三王子が赴いた南の辺境で王子が亡くなり、そして外国からの侵略が本格的になった。

アダムが扮した第一王子が加勢に行った北の辺境は勝利したけれど、他の3つの辺境は外国からの通り道になってしまう。

北ということはシヴァが守る地だ。北からの侵略はないとしてもみんなが無事かどうか……。個人的に気になるシュタイン家のことも情報が迷走していて、アダムの帰りを待つしかなかった。

街が焼かれ、夜に灯りはともらずとも火の手が各地であがるようになり……王都に住む人々は城に籠城していたが、物資も底をつきかけ人々は疲れ切っていた。

そこに真っ赤なドラゴンが飛来した。

王都を守っていたのは第二王子のロサと騎士たち、それから聖女アイリス。

ロサの窮地に友たちは寄り添い、ロサを守ろうとした。

次期宰相と言われるダニエル。第二王子近衛騎士ブライ。魔法士のイザーク。王都の神官長となったルシオ。

真っ赤なドラゴンはホルクに見えた。他の人には咆哮に聞こえているみたいだけど、わたしには叫びがわかった。

なぜ我が一族の住処を攻撃した? なにゆえ、魔の火を放った?

ドラゴンはそう叫びながら火を吐いた。

さらにみつめていると、赤いドラゴンの脳裏の映像が見えた気がした。

ホルクに似たドラゴンは何もかも失った。精霊の悪戯で少し眠らされている間に、一族の住処が焼け落ちていた。やっと卵が孵った新しい命もあったのに。

何があった? 何が起こった?

他のドラゴン族からの襲撃か?

魔の火の匂いがした。

人族の匂いがした。

マルシェドラゴンの住処を人族が攻撃した。

マルシェドラゴンは火で攻撃をすることを得意としている。だから普通の火だったら臆さず消すことも可能。けれど人族が放った火はマルシェドラゴンにしても消せるようなものではなかった、魔の火だ。

ドラゴンは火を放った人族を執拗に追った。焼け跡から感じる普通と違う火の匂いを纏うものをドラゴンは見つけた。

ドラゴンは言葉はわからないのは知りながら尋ねずにはいられなかった。

なぜ我が一族の住処を攻撃した? なにゆえ、魔の火を放った?

人族は言葉がわかるわけないのに、ドラゴンに謝りながら言い訳を募った。

やりたくてやったわけじゃない。ユオブリアのやつに家族を人質に取られ、赤いドラゴンの巣を焼き尽くせと言われたんだと。家族を救うために仕方がなかったんだと。

ユオブリアとやらはどこにいる?と聞いたけれど、言葉が通じないので返事は返ってこない。ホルクは動いて調べ、それが第二大陸の国であると知った。

ユオブリアとやらの住処を全て焼き尽くしてやる。

ユオブリアの住処を焼き尽くす

そのことしか赤いドラゴンの頭にはなかった。

繰り返し唱え、何かに憑かれたような目をしていた。

ユオブリアを象徴する美しい城の影はどこにもなく、一瞬にして半壊した。

ドラゴンが降り立ち火を吐く。逃げ惑う人々。

火に巻かれながらもドラゴンに攻撃を続ける人たち。

悪夢の始まりだった。