軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1226話 ガゴチの花嫁⓫動悸

アダムは暴走を甘く見ていたと言った。

憑依しているのが元神ですごい存在だとしても、人という器に乗り移るから能力など思うように発露できないと思っていた。あんな火の玉を吐くとは思わなかったという。

そう、ちょっと暴れるぐらいと思っていたから、ガインを探ろうと思ったんだって。

「ガインを?」

「ああ。ブレドたちと言ってたんだ。僕もガインを好ましく思っている。

今まで君を幾度となく助けてきたのも事実だし。だからって見返りを思ってのことではなかった。あくまで好意の無償の行いだった」

そう、その通りだ。だからわたしはガインに恩がある。

「……今回君は女王役をやらないと言った。代わりをみつけたし、僕たちはセインからユオブリアを守るため証拠を集めた。それがガゴチと共闘のようになって、まずまずの成果が出ている。

だから、君がわざわざガゴチに出向かなくてもいいんじゃないかと僕らは思った。ドラゴンマスターのように見える君を第三大陸でもお披露目したいと言われ、そうかとも思ったけど……。

アンドレ殿下がガゴチには気をつけろと言ったのを覚えてる? 将軍が変わったしもう大丈夫かと思ったけど……。何か引っかかって。

君をガゴチに呼んだのは何か目的があったんじゃないかってそうも思えた」

アダムがゆっくりと顔を上げる。

「そしたらやっぱり、含みがあった」

ふぅと息を吐き出す。

「君、ガインに奴隷解放の話をしたことある?」

「まさか。そんな大それたこと考えたことないよ」

「大それた? それは意外」

「え?」

「奴隷制度、嫌いだろ?」

「それはそうだけど、制度を変えるには根回しと新体制をしっかり循環させるところまでできてないと、理解されない社会に溶け込めない集団ができるだけになっちゃうもの」

事を起こすのは勢いでできてしまえることでもあるけど、大切なのはそのあとだ。

たとえば奴隷だったら。非人間の扱いという点で奴隷は良くないと思う。

けれど、第二大陸、いやユオブリア以外では、奴隷は根づいている制度。その認識にまずヒビを入れないと何も始まらない。

解放された人たちが新しく生きていける環境が作れてなかったら、みんなが不幸になる。

「その通りだ。ガゴチは解放されたものたちの受け皿になれる」

そう言われて気づく。

ガゴチの諜報部隊。彼らは虐げられ行く場所をなくした獣憑きだと聞いた。

ガインはもっと前から受け入れるという点で奴隷解放をある意味してきたんだ。

今までのベースがあるなら、解放された者たちはガゴチは住みやすい。

そこでわたしが奴隷解放をするといったらガゴチを頼るっていうわけね。

「でもその話、どっから出たんだろう? わたしがキュアを解放したから? これからもそんなことが起こると思って言ったのかな?」

「未来が決まってると言ってた。それこそ予言を受けたみたいに」

アダムがギリっと唇を噛んだ。

「あのおばさんか……」

「おばさん?」

「いいや、こっちの話。さすが閉ざされた大陸で生き延びてきただけはある。甘く見られたもんだ」

アダムの目がすっと細くなった。

アダムが怒るとめっちゃ怖いんですけど。

「君、フランツと結婚したかったら、奴隷解放には関わらないこと。ガゴチにもガインにも近づかないことをお勧めするよ」

「わたしはする気はないけれど、世の中に出てしまった言葉だから。誰かがそうなるように仕向けてきそうで、そこが怖いな」

たとえば誰かを盾に取られるとか。要求をのめ的に奴隷解放を指示されて、やる羽目になり、ガゴチを頼るしかなくて、なぜかガゴチの花嫁にならされる、みたいな。

アイリス嬢の能力を知った時、枝分かれする現象ってどういう意味なんだろうと思った。

ゲームみたいだよね。そう、現実にも多くの選択肢が用意されている。わたしたちはそれをひとつひとつ選んで行動してきたのが、今まで歩んできた道。

あの時うなずかなければ、とか。あの時声をあげていればとか。思ったことはある。違う行動を選んでいたら、違う道となったのかもしれない。アカシックレコードにはその全ての違う道が記載されているのかな? それらが枝分かれたあったかもしれない道、と言われるものなのかな?

ガインが世の中に出した言葉。

わたしが奴隷解放をして、その際ガゴチを頼るしかなく、ガゴチの花嫁となる。

そんなあるかもしれない道が輝きだし、今まで埋もれていた道筋が人の目に映るようになってしまった。その道・ルートは人々の目に触れるほど、ルートへと引き寄せられ実現するんじゃないか。なんだかそんな怖さがある。

あるわけないってはっきり言いたいけど、怖くなってるわたしがいる。

え。

急に鼻を摘まれた。

「僕が強いのは知ってるね?」

わたしは高くはない鼻を摘んできたアダムの手を叩く。

「君のパートナーはフランツ。君の全てを受け止め、君を高めてくれる存在。

僕はそんな彼になれないから、その他の憂いごとは全部引き受ける」

え?

「セインの公爵がユオブリアにドラゴンを仕掛けた。それからベルゼのしてきたこと。留学してきた公子。この件で世界からセイン、ユオブリアやガゴチも取り沙汰され、ガゴチの花嫁の一件も誰もが耳にすることになるだろう。

でもそれも束の間。そんな噂にかまっていられなくなるから心配するな」

「ええ? アダムが何かするの? 何を、ねぇ?」

「それは後のお楽しみ」

それからアダムは、これからのことを少し話して、就寝することになった。

灯りを消しておやすみと挨拶したものの、なかなか寝つけない。

アダムのセリフが頭の中でリフレインされている。

なんか、なんか、心がひどく落ち着かない。

ケイトとラエリンの顔も浮かぶ。

いや、そんなことはない。

なんだけど。

な、なんで、なんか動悸が……?

隣のベッドではアダムが寝ている。こちらに背を向けている。

今までだって、同じ部屋で眠るなんてこと普通にあったのに。

あ。

そっか。いつもはもふさまやもふもふ軍団も一緒だった。

だから、なんか違うんだ!

そっか。もふさまたちがいないから眠れないんだ。

結論は出たものの、明け方まで眠れなくて。

うとうとしたと思ったら、もう朝だった。